カボチャ
これは……なるほど……ふむふむ……カボチャだ。
ある晴れた朝、私は突然カボチャに変身してしまった。
理由はわからない。なったからなったとしか言いようがない。神様の気まぐれか、妖精のいたずらか、悪魔の呪いか、はたまた魔法使いの仕業だろうか。カボチャが馬車になるなら、馬車がカボチャになることも、人がカボチャになるのも不思議ではない気がする。
それとも、これはカボチャの祟りというものなのだろうか。
今、私は庭のカボチャ畑のど真ん中に転がり、カボチャたちにじっと見つめられている。
その深緑色の表皮は、確かに人間に住処を汚され、恨みを抱えた怪物が棲む川のようで、怨念を感じなくもない。
私は愛情を込めてお世話してきたつもりだったけど、それは独りよがりの愛だったのだろうか。おいしく食べることは、彼らへの裏切りだったのだろうか……。
いやいや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。
なんとかして元に戻らないと……。でも、まさに手も足も出ない……うん? いや、突然、体がゴロゴロと転がり始めた。驚きながらも試してみると、どうやら手足を動かす感覚で体を転がせるようだ。
しかも、転がるのは意外と楽しい。風を切る感覚は、まるでブランコに乗っているみたいだ。
ゴロゴロゴロゴロ……にゃん?
庭を気持ちよく転がり回っていると、隣の家の猫がやってきた。
猫はじっと私を見つめている。何なのか考えているようだ。
――あっ。
「にゃー」と鳴いて飛び乗ってきた。どうやら、私を新しい遊び道具と見なしたらしい。
猫を振り落とさないように、私は慎重にゆっくりと転がった。柔らかな肉球が表皮に触れる感触が気持ちいい。マッサージを受けているみたいだ。
もしかしたら、このままカボチャとして生きるのも悪くないかも……。
自由に転がり、お日様の光を浴びて、猫と遊ぶ。のんびりとした生活が送れるなら、それでいいかも。亡くなったおじいちゃんもよく言っていた。「たくさん働いたから、今こうしてのんびりできて幸せだよ」って。
猫が私の上で丸くなると、そのまま動かなくなった。どうやら、眠ってしまったみたいだ。ふわふわの体温がじんわりと広がってくる。私もだんだん眠くなってきた……。目を閉じる感覚で、意識が遠のいていく……。
――ここは……。
目を覚ますと、外は夕暮れだった。カラスが鳴き、窓から茜色の光が差し込んでいる。
私は家の中にいた。そして、手足はちゃんと元通り。人間に戻っていたのだ。
「そっか……」
胸に喜びと安心感がじんわりと広がった。でも、ほんの少しだけ寂しさもあった。カボチャの生活には、どこか不思議な魅力があったのだ。
でも、もう一度カボチャになりたいかと聞かれれば、答えは「ノー」。やっぱり、カボチャは食べるものに限ると思う。
私は庭に出て、よく熟したカボチャを二つ選び、家に持ち帰った。包丁を入れると、ほらね。見立てどおり、見事に中身が詰まっている。いいカボチャだ。
「さすが、カボチャの気持ちを知った私!」
と自画自賛しながら、カボチャスープを作った。
部屋に広がる甘く濃厚な香り。待ちたいけど、おなかがもう限界。早く、早くって抗議してる。思えば、朝から何も食べてない。
まったく……パパとママはどこへ行ったのだろう?
あ、もしかしたら私を探しに出たのかもしれない。あとでまた庭に出て呼んでみようかな。
でも今は……
「いただきます!」