婚約者といちゃいちゃしたいのにピンク髪の女の子が邪魔する
主人公の名前が勇者シリーズに思えるけど、浮かんでしまったので(-_-;)
追記:防衛組でしたね
「どうして、攻略キャラなのに私になびかないのよっ!! 私がヒロインなのよ!!」
と婚約者といちゃいちゃしている時に言われて思った事を当てよ。配点5点。
と、現実逃避したくなった。
「ミーシャ」
とりあえずここですることは一つだけだろう。
「場所替えようか」
「分かりました」
俺の考えに即答して、ミーシャは広げていたお弁当を包み直して片付ける。
「邪魔が入らない場所がいいよね。ミーシャは高いところ平気?」
「どうでしょう。試した事ありませんが、高さよりも安定感を重視します」
淡々と告げてくるミーシャの言葉に新作の魔道具を試すのにちょうどいいかと、
「じゃあ、ミーシャ。一瞬だけ怖いかもしれないけど、その時はごめんね」
と事前に伝えて、そっとミーシャをお姫様抱っこして、浮遊の魔法を使う。浮遊の魔法を使うだけならミーシャも出来るだろうけど、俺が抱っこして連れて行った方が確実だ。
「空を移動できる魔道具で、船の形にしてあるんだ」
普通の湖で浮かぶ手漕ぎボートのような形で、軽い材質で作ってあるから見た目ほど重くないし、丈夫だ。
「ホウキとかじゅうたんも考えたけど、安定していると言えばこれかなと思って」
間に手すりにはめ込む形の机も設置できるようにしておくと、
「エルドランさまは相変わらず奇抜な発想しますね。空を飛ぶこと自体考え付かなかったのに」
ミーシャの言葉に、
「それが不思議なんだよね。なんで魔法が使えるのに空を飛ぼうなんて考えなかったんだろう」
とお弁当を再び広げながら俺は首を傾げる。
エルドラン・グリーンは前世日本人としての記憶のある転生者だ。
前世の事はあまり思い出したくないが、ひどい目にあって死んだと言うことだけは明記しておく。
で、生まれ変わって、まず自分の顔がイケメンになっていることに驚いた。前世は顔で得したことなく……いや、思い出すのは止めておこう。
緑色の髪と目で黒髪黒目が普通だった前世と比べるとカラフルだなと思っていたが、それだけではなく、この世界は魔法があって、尤も魔法のほとんどが軍事目的であったり、前世の某国のような犯罪者から身を守るための銃のような役割のものでしかなく物騒なものが多かった。
いや、勿体ないだろう。
せっかく魔法が使えるんだぞ。もっと身近で色々利用すればいいじゃないか。
そう思ったが吉日。
前世で読んだ漫画や小説。あっちの世界に有った便利道具を思い出して、生活に役に立つ魔法を次々と作り出してきた。
軍事目的に使われるだろうなと思いつつ、それはまあ半ばあきらめて作り出した。映像転移具……いわゆるテレビとかカメラとかスマホのことだが。それを皮切りに、奥様方の強い味方ということで風と水の魔法を合成させて洗濯具。乾燥具……洗濯機と乾燥機を作り出して、冷蔵庫、冷凍庫。ドライヤーも工夫して作った。
もう魔法馬鹿と言われてもおかしくない生活を送っていたが、幸いにも俺にはそれを理解してくれる婚約者がいた。
ミーシャ・ヴェルデ侯爵令嬢。
自分にはもったいないご令嬢と婚約しているなんて前世の自分では考え付かない。前世で女性といえば……ああ、ブランド物を要求だけ要求していて、財布代わりにされていたと知った時は……いや、止めよう。
人形のように表情が変わらない侯爵令嬢だと噂されて、実際お見合いした時も表情は変わらなかった。
でも、コロコロ表情を変えて、こっちを利用してくる女性を前世で知ってしまったから逆に好感が持てた。
表情こそ変わらないが、目は雄弁に語っている……たぶん。
そんな彼女に魔道具を試してもらって、その都度感想と不満点を告げてもらって、改良を行う。
僅かな時間があると彼女は魔道具を作っていたり、魔法の改良をしている俺の傍に来てじっと見ていたりする。
「退屈じゃない?」
「……ううん。面白いです」
視線は出来上がっていく魔道具から逸らさない。
「この箇所に使う材料は魔物の皮を使ったものとかでは……」
「ああ、そうか。ゴムがないから諦めていたけど、魔物の皮はゴム代わりになるんだね」
諦めていた道具もミーシャのアイディアで完成するものもあって、ミーシャが居なかったら無理だったものも多かった。
「ミーシャが居てくれてよかったよ。ありがとう」
「………エルドランさまこそ、人形のようなわたくしでいいのですか?」
不安げに視線が揺れる。ミーシャは表情は変わらないで、光の加減で紫色に見える黒髪が全体的に重く感じさせることで根暗そうとか不気味だと噂されているのを気にしている。
それを気にしている様は少し可愛いけど、そんな噂を気にしているのなら俺の方がもっとやばいだろう。
「んっ? それを言ったらこんな魔道具作りばかりしている俺なんて愛想尽かされてもおかしくないかな」
前世では仕事ばかりでつまらないし顔も自慢できないから金だけ出してくれればいいと言われ……いや、よそう。
魔道具作りは役に立っているからいいけど、俺の主観だとただの魔法オタクでミーシャのフォローが無いと人間として終わっている部分も多い。前世社畜だったな。そういえば……。
「ミーシャは俺の自慢の婚約者だよ。いつもありがとう」
こんな俺のことを支えてくれてとお礼を告げるとミーシャは顔を赤らめて僅かに笑った。
………そんな感じで順風満帆だったのだが、王立学園に入学してから変な女の子に迫られるようになった。
きっかけは入学初日。実は王子の側近候補だったのだが、側近などしたら魔道具作りも新しい魔法の研究が出来なくなるし、側近というのは王子の腰巾着で、おべっかをして、王子が道理の合わないことをしたら諫言して、場合によっては殺されるポジだよなという前世の無駄な知識の影響で、丁重にお断りした。
ミーシャがそんな俺に対して、
「エルドランさまらしいと言えばらしいのですか……断って大丈夫だったのですか?」
と心配していた。
「俺が側近として気を使えると思う?」
「無理ですね。いえ、エルドランさまはこちらに気を使ってくださる方ですけど、魔道具づくりが出来ない状況になる可能性が高いとストレスをため込むと思います」
ズバッとストレートに告げてくれる言葉によくわかっているなと嬉しく思ってしまう。
これでもしミーシャが側近になるようにと窘めていたら引き受けていたかもしれないが、俺は心惹かれないけど側近になりたい人は多いだろうし今更引き受けるというのは無理だろうけど、打診していたかもしれない。
話がそれた。
その王立学園の入学初日。たまたま王子と側近。王子の婚約者が正門を潜るタイミングで、正門に辿り着いたのだが、その王子の目の前で盛大に転んでいる女の子がいたのだ。
王子の目の前、警備は何をしていたんだろうか。
いくら学園だからといっても生徒のふりをした刺客も来てもおかしくないのだ悲しいことに。
しかもその女の子は痛いとか泣きわめき、王子に保健室に連れて行ってくれと頼んでいた。
「ミーシャ。俺は世間知らずだから知らないだけなのか。王子の目の前で転んで王子に保健室に連れて行ってもらうのは普通なんだろうか」
「普通じゃないですよ。顔見知りで信頼関係がある相手……婚約者ならともかく、初対面でしょうし……実は知り合いだったとか」
ミーシャの言葉に俺の知らない常識があったのかと思ったからそうでなかったのでほっとする。
それにしても目の前で転んで保健室……前世の少女漫画のパターンにあったよなパンを咥えて曲がり角で運命の出会いとか。実際に見ると不自然過ぎるけど。
それにしても側近たちが傍にいるのなら事前に防ぐものではないだろうか。王子の婚約者が常識を教えていたけど、なんで責めるような顔で見ているんだろうか。おかしいだろう。
「先行きが不安だな」
「…………そうですね」
そんな感じで最初は完全に他人事だった。
そう他人事だったのだ……。
「エルドラン~♪」
そのピンク髪は何故か隙を窺ってはこちらに向かってくる。
ある時は、ミーシャと一緒に試作品のテストをしている最中。
ある時は、ミーシャと共に図書館で予習中。
ある時は、ミーシャと廊下で偶然出会って、話がはずんでいる最中。
先日は、二人で食事をしている時に来たのでつい試作品の飛行艇を使って空の上で食事をしてしまった。
「エルドラン~~♪」
許してもいない呼び捨てにしてそいつは近付いてくるのだ。しかも傍にミーシャが居るのにミーシャに気付いていませんでしたとばかりに窘めるミーシャに向かって、
「ご、ごめんなさい。でも……」
と自分が被害者だとばかりに涙を流して謝ってくる様を見て、何も知らない第三者がひそひそと話をしていく様が視界の端に映る。
「ミーシャは正しいことを言っているし、同じ注意を君は何回ミーシャに言われたの。いい加減にこっちが嫌がっている事に気付かないのか」
言い方が悪いかもしれないが、ミーシャが勘違いされて悪者扱いされては困るとひそひそこちらを見ている野次馬にもしっかり聞こえるようにはっきり言わせてもらう。
「ミーシャ。行こう」
ミーシャの手を取って去りながら、ミーシャを守れるような魔道具を作った方がいいなと何かいいものはないかと考え始める。
「なんで……」
ぽつりと声が聞こえる。
「きちんとゲーム通りに向かったらエルドランに会えたのにイベント内容が違うじゃない。何かのバグなの」
ピンク髪の女が呟くのが聞こえて、ゲームとかイベントという言葉が不穏に感じて、ますます対策となる魔道具作りも早めないといけないと思った。後ミーシャ以外にも被害者が出るかもしれないと思って、その道具は多めに作った方がいいかもしれないと判断した。と、それと同時に、
「ミーシャ。相手にすると付け上がらせるかもしれないから相手しない方がいいと思う」
と、忠告しておく。
そして、二人で移動した空き教室でお弁当を食べてのんびりした後に、さっそく防衛できそうな魔法と魔道具を作成してみようと前世の猫型ロボットの使用していたポケットもどきの魔道具から使えそうな素材を取り出してみる。
「資材が少なくなってきたな。そろそろ集めに行こうかな」
いつなら行けるかなと予定を思い出していると。
「エルドランさま。何を?」
「ん~。悪意がある人をはじく結界。及び、それを自動で作れる魔道具かな~。あのピンク髪を見ているとなんか妙な言いがかり付けられそうで……」
ミーシャに危険が及ばないようにしたいと思うからと風魔法の応用とかいや風ではなく空気を操るモノをといろいろ組み合わせてみる。
「エルドランさまはすごいですね……」
「すごくないよ。ただの趣味だし。それに付き合ってくれるミーシャが居るからできたものもあるしね」
ミーシャは退屈じゃないかと心配になるが、一度もそんなことを言われた覚えはない。もしかしたら心で思っているかもしれないけど。
「いえ……やはりすごいです。でも、時には休憩してください」
と淡々とした口調でお茶を用意してくれる。ちなみにお茶を入れるためにポット型の魔道具を使ってくれたようだ。
「ありがとう」
お茶を受け取り、そういえば、このポットはミーシャと婚約してすぐにプレゼントしたものだったなと大事にされている様を見て嬉しくなる。
「うん。おいしい」
「………エルドランさまは変わりませんね。お茶は侍女かメイドにさせればいいのにと言わないのですから」
懐かしそうに目を細めている様に、
「好きでお茶を入れているのならいいと思うよ。ミーシャのお茶はおいしいし」
美味しくなかったらさすがにやめさせたかもしれないがと思いつつお茶を楽しむ。
「ミーシャ。魔道具を装飾品にしたいけど、希望は?」
「そうですね……。髪飾りとかがいいですね……」
髪飾りと希望を出されて、近くにあったスケッチブックもどきでイラストを描いていく。
「この四つ葉のクローバーがいいです」
ミーシャが目を輝かせて――それでも表情は知らない人からすれば相変わらず無表情に見えるのだが――指差すイラストに決まったので早速その形に仕上げていく。
魔道具を作るのに魔道具を使用する事もあるけど、俺が作り上げた魔法によって時間短縮も出来て、前世だったら職人が何日もかけて制作しているモノがものの数分で完成してしまう。
まあ、魔力を使うので疲労が激しいが。
「ありがとうございます……」
相変わらず淡々とした口調。でも、僅かに喜んでいるのかなと声が弾んでいる気がする。
「念のため魔道具が作動したら俺にも伝わるようにしたから」
防犯ブザーの役割も兼ねていると説明しつつ、ストーカーみたいな感じで四六時中様子を窺うようなことはしないからときっちり説明する。その際、ストーカーの意味を聞かれてそれの説明をする羽目になったのだが。
でも、そんなほのぼのとした時間も一時的で、ピンク髪に追いかけられる日々は続いていたし、
「なんで攻略が進まないの……他のキャラの好感度は上がっているのに」
とか。
「ゲームでは、無気力キャラで人形の様な婚約者と共に似た者同士でそこから離脱したがっていたのにできないジレンマを抱えていたのに」
とか。
「バグかしら……」
とぶつぶつ呟いているのを見かけて慌てて隠れることも何度かあった。
攻略キャラとか、ゲームとか。バグとか。どう聞いてもこの世界にはない言葉だから彼女も転生者かもしれないが、彼女が何をしているのか全く分からない。
他の攻略キャラというのが引っかかって、あのピンク髪の噂を集めてみたら何故か王子含む側近と仲良くしている様があげられる。婚約者がいるのにとかあんな平凡そうな子がという嫉妬の声は置いておいて、冒険をしているとかそんな感じはないからゲームというのは恋愛ゲームなんだろうけど。
「婚約者がいる相手と恋人になるゲームなんてあったか……?」
自分の知っている恋愛ゲームといえば、神子として召喚されて自分を守ってくれる男性と絆を深めるものとか、音楽を通してチームとかペアになっていくというものばかりで、婚約者がいるようなものはなかったような……。
とか、考えていたらミーシャに渡してあった防犯魔道具が反応したのが伝わった。
すぐに魔法を展開させて、目印……ミーシャの髪飾りを目印にしてあるのだが、若干離れた場所であるがそちらに向かって転移する。すると、
「あんたも転生者でしょう!! 悪役令嬢が攻略キャラを攻略しているというのはよくあるパターンだから知っているわよっ」
腰に手をやって、そんなことをミーシャに向かって喚く様に前世の女性の嫌な記憶が思い出される。
「なんのことでしょうか……?」
「惚けないでよっ!! あんたが好き勝手やっているからエルドランとの好感度が上がらないじゃない!!」
「……エルドランさまを呼び捨てになさらない方がいいと何度もお伝えしましたが」
「煩い。悪役令嬢のくせに!!」
と手を出すのが見えたので二人の間に割って入る。
「ミーシャに何をする」
「エルドランさま……」
「エルドラン~!! パウラを助けに来たのね」
ピンク髪の名前はパウラだったのかと今更な事を思いつつ、
「ミーシャ。大変だったね」
と無視する。
ちなみに防犯魔道具が反応した時点で教師たちにも連絡をしたのですぐに駆けつけてくる。
「エルドラン。なんでそんな悪役令嬢に!!」
きぃきぃ喚く様に喧しいなと思いつつ、拘束魔法を掛けておく。
「ミーシャ。後は先生たちに任せて行こうか」
こんな場所にミーシャをいさせたくないし、防犯魔道具が反応したからケガは無いだろうけど、確認したい。
ついでに教師陣には今までの彼女のやらかしを魔道具に収めておいたから提出しておく。これでもうピンク髪に関わらずに済むだろうと安堵したのだった。
「あ~。やっとイチャイチャできる~」
と、珍しく魔道具も魔法も考えないでミーシャを後ろから抱きしめる。普段は節度とか結婚前だからと我慢していたのだが限界に達したのだ。
「…………」
ミーシャにしては珍しくもじもじと身体を動かして落ち着かない感じでいるが、
「わ……わたくしも……」
そっとミーシャが抱き付いている腕に触れて、
「わたくしも……です」
と言われて、
「録音機能にすればよかった……」
と悔やんでいると。
「世間一般では、趣味に没頭していていちゃいちゃしていないと思われていたようですよ」
とミーシャは思い出したように告げてくる。
「それで付け入る隙があると思われたみたいで………すごい勘違いですよね」
とわずかに笑っていたのがトドメで、一気に天国に行ってしまった。
「エルドランさまっ!! しっかりしてください!!」
慌てるミーシャの声が遠くに聞こえたと思いつつ意識を失ったのだった。
ちなみにエルドランの知っているゲームは遥かとかコルダ。悪役令嬢というものはいないゲームのみ。