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3

 シゲユキは諦めて渋々席を立った。二階の自分の部屋へ行こうとする前に、祖母がこっそり耳打ちする。

「後でちゃんとお礼するからね」

 祖母が柄にもなくウインクする。シゲユキは首を思いきり縦に振って、小さくガッツポーズした。


 宿題を早々と終えたシゲユキは、家の外を回って祖母の待つ裏庭へ向かった。畑にはトマトやキュウリ、獅子唐といった夏野菜がたわわに実っている。祖母は農作業用の服装に着替え、茄子の収穫をしている最中だった。

「ばあちゃん!」

「おや、やっと来たかい」

 シゲユキが声を張って駆け寄ると、祖母は農帽をわずかに上げて孫に微笑む。祖母の額からは多量の汗が滴っており、いくらも外にいないシゲユキの後頭部にも、じわりと汗が滲み出していた。

 シゲユキは早速、丸く膨らんだ茄子に手を伸ばした。そのとき、横から肩をトントンと叩かれたので、彼は思わず動作を止める。首にかけた手拭いで汗を拭き取った祖母は、エプロンのポケットから子供用の軍手を取り出した。

「ほら、軍手をしな。茄子はトゲが刺さると厄介だからね」

「痛いの?」

「なかなかトゲが抜けないのさ。運が悪けりゃ、一生そのまま……。お前さん、興味があるかい」

 肝を冷やしたシゲユキは、慌てて軍手を身につけた。

 二人は氷水の入った水筒でときおり水分補給をしながら、昼前には収穫作業を済ませた。竹籠いっぱいに詰め込んだ野菜は、畑の匂いと新鮮な香りに満ちている。それを台所にいる母の許へ届けて、漸く祖母の手伝いが終わった。

「あら、随分頑張ったじゃない」

 母は素麺を煮る傍ら、息子の頭を撫でた。シゲユキは祖母から百円を貰ったことは告げずに、満面の笑みを母に返す。午後に友人たちと駄菓子屋で待ち合わせているため、シゲユキは今から何にお金を使おうかと、楽しみで仕方がなかった。

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