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魔王の復活を阻止しないと世界が滅ぶ乙女ゲームらしき世界設定の魔王に転生した

作者: 真瀬

 孫悟空の頭の輪みたいだなぁと思ったことで思い出した。


 トプンと中に入ることもできる我の背丈の3倍はある円の巨大な鏡に、巨大スクリーンさながらの映像で見覚えのあるイケメンの顔面ズームシーンで我が思ったことだ。


 ちょっと幼いが、この顔間違いない。主人公だ。


 RPGゲームと乙女ゲームを足したようなゲーム世界設定の漫画を日々読んでいた。色々な終わり方の短編小説がコミカライズしたものだ。原作の小説ももちろん読んだ。


 ところどころ何かを意識してると思わせるキャラクター設定が登場人物にはあり、巨大な鏡はたぶん白雪姫意識。主人公のキャラデザは孫悟空だ。


 鏡の前にいるのはもちろん魔女。いや、ここでは魔王。


 我、敵サイドなんだが。そう、我こそ魔王だ。


 しかも、復活を阻止できたら世界の平和が守られハッピーエンド。魔王復活イベントをクリアでなかったら世界が滅ぶんだが?そこからはバッドエンドしかなく、避けなきゃな分岐点のはず。


 すでに我、復活してるんだが?これは、我が前世の記憶を思い出した時点で人間サイドの詰みが確定してないか?


 いや、そもそも我封印されてたか?昼寝しかしてないが?


 そう、前世の設定も思い出したが、我たぶん最強。いくら主人公強くなっても負けることはないと思う。


 なぜ、主人公を見ていたかと言うと、単にドラマを観る人間と同じだ。ボーッとドラマを観てるだけ。彼の生い立ちが複雑で、カリスマ性があるというか、惹きつけるものがある。それもかなりの美形。彼は主人公になれる!と我プロデュースする気満々だったのだ。ガチで主人公だったんだが。


 魔王として今世を生きて、前世のハッピーエンドの魔王の行動原理を思うと、単にドラマの最終回としてはこの方がいいと我が思って自ら姿を隠しただけだとわかる。


 だって、我カンストしてるもの。前世でも我、別に倒されたんではないし。封印が解かれなかったエンドだし。


「ふむ。となると――」


 トプン。鏡の中へ我は進む。


 もちろん、主人公と合流するためだ。


 なぜか?もう観たことあるドラマの再放送を観る趣味はない。何度も気に入ったものを観るタイプではないのだ。


 ならば!魔王が合流して主人公のパーティーに入るのはどうだろう?


 主人公が我を心から信じた時、我が倒そうとしていた魔王と知った時。それはドラマになると思わないか?


「我、楽しみ♪」


 どんな姿がいいか。魔王らしい角に男前の高身長イケメンもいいが、赤い髪の美女もいい。魔王がブカブカの服の幼女もいい。


 この世界ではなんとなく意識してるだろうキャラがある。


 アリスだ。アリスが定番だろう。


 金髪に青い瞳の美少女。もちろん青い服にエプロンだ。


 孫悟空にアリスは合わないな。アリスだと不思議ちゃんキャラか?うーん。食いしん坊キャラのがよいなぁ。美味しいものが食べたい。


 帽子屋にでもなろうか?緑のジャケットに錆色の髪でどうだ。


「誰だ!突然現――」


 まだ早い。キャラを決めかねてるところに登場はよくない。


 ウサギになり、時計の針を戻す。


 もちろん、ウサギを意識した銀髪長髪シルクハットメガネの美形男子だよ。


 悟空の時間を止めて、巻き戻して気付く前にした。


 あ、悟空じゃない主人公のだ。


 やっぱり悟空なら三蔵法師か?いやでも残念ながらすでにそれっぽいキャラがこれから出てくるから被るのはよくない。


 ちなみに、美形の背の低い男性ではない。聖女だ。回復魔法もちろん使える胸は慎ましやかな美女だ。


 魔王っぽいし薔薇の女王にするか?でも配下にそれっぽいのがいる。なのにアリスと帽子屋にウサギはいない。シャチ猫意識かはわからんが、我の配下の薔薇姫の使い魔がぽいからなぁ。


 主人公の反応で決めることにした。


 何度も繰り返してみると、やっぱりアリスの時が1番反応がいい。透明感ある美少女だからな。


「アリス。俺と行くか?」


「よろしいのですか?嬉しいです!」


 さぁ。冒険に行こうか♪我を倒しに。


 配下が可哀想だからやっつけられた後にウサギになっては時を戻して復活してやった。ウサギになる必要は特にない。


 そしたら、裏ボスはウサギと主人公に勘違いイベントが起きた。たぶん主人公見ちゃったのだろう。なにその展開我知らない。楽しい♪


 ウサギを時の魔王のような雰囲気に仕上げてみた。我だが創り出せるから創ってみた。


 なんなく倒せた。回復魔法の三蔵法師も大活躍した。いや、今回は聖女じゃなく、美形の背の低い男性だ。しかも、勇者パーティーの中でなんと最年長だ。たぶん30手前。いいキャラだ。


 我、悟空と結婚した。子も孕んだ。


 さて、ここからはどうしようか?我魔王。産まれる子は間違いなく魔王と勇者の力を受け継ぐ化け物だ。


()、楽しみ♪」


「ああ。もうすぐだな」


 愛する妻が魔王で、生まれた我が子が化け物となると、勇者はどんな反応するのかな?


 つまらなかったら、時を戻してまた1から楽しもう。


 ウサギの姿を見せる時の勇者はどんな顔をするかな?時を戻せば生まれた我が子はこの世から消え失せるかな?


 ああ、それなら愛情たっぷりに育てて化け物の我が子を愛するまで、化け物と知っても殺せなくなるまで育ててから明かそうか。


 我が子が5歳になった。不思議とアリスそっくりだ。何も手を加えていないのにアリスに化けてる間に創られた命だからか、アリスを小さくした感じながら勇者の面影もある。


 アリスは透明感ある美少女にしたから大人になっても綺麗で儚さそうな美女だが、その母よりも父の活発な性格が表情に出ているのか利発そうで活発な凛々しい顔立ちのなかなかの美少女だ。


 今、我の腹にはまた勇者との子がいる。弟をサリアが望んだからだ。ああ、サリアとは我が子のことだ。望み通り化け物となっているが、いきなり魔力暴走からの生まれた我が子を即退治も見所はあったが、瀕死になったサリアを生き返らせといた。


 勇者は気が狂ったようにおかしくなっていたが、そこから先はただの闇エンドだと思えたので、充分我は楽しんだから巻き戻してやった。


 ああ、もちろんサリアが魔力暴走した時に母であるアリスは死んだことにしたよ。その方がドラマチックだと思ったからね。


 三蔵法師との寝盗られシーンはどうなるかと思い誘ったが、アリスを愛し過ぎていて「どうしたの?あなた」といつも通りの笑顔で他の男に今まさに抱かれていた現場の中、裸のまま愛おしげに透明感ある澄んだ瞳で三蔵法師を殴り過ぎて血だらけの主人公をよしよしとしたら、また狂ってしまったよ。


 面白いのが、完璧に記憶を消してるはずなのに、それどころか時を戻してなかったことにしているはずなのにだ。魂に刻まれるのか、三蔵法師も悟空も時を戻してもどこか違和感を感じる瞬間があるようで、少しおかしくなるのがたまらなく面白い。


 弟を宿した時にそれまでは全く、三蔵法師に嫉妬したことがなかった主人公が殴り殺した時のような感情を一瞬抱いたからな。抱いたことすら自覚できずに、不思議そうにアリスを愛し過ぎて全ての男に嫉妬してしまったのかと苦笑いして折り合いを付けていたが、実際抱かれる姿を見せつけているからな。いや、巻き戻しているから見てはいないはずなのだが。


 我は配下が勇者パーティーを襲ってくる時に「やめてください!魔物と人間に必要なのは対話のはずです!」と聖女の台詞を代わりに喚き、もちろん配下には【さぁ。早く我を襲え――】と命令している。


 当然、何も知らない配下は困惑するも忠実に命令には従おうとするから、どちらの願いも魔王からなのだから迷いが生じる。


 それを勇者達が見るとどうなるか――。


 アリスの声が魔物に届いて襲うのを躊躇しているように見えるという訳だ。

 三蔵法師、今回は聖女ならぬ男性聖職者のマリアはあらゆる傷を癒すが、魔物との対話まではできないからな。


 すっかり今回の我の立ち位置は聖女に納まっている。魔王が聖女だ。楽しい♪


 ただ、サリアを宿る前まで戻すとどうなるかの実験をする気にはならなかった。我も実は初めてなのだ。子を宿すことも産み育てることも。


 何事も挑戦だ。今、我の中にも子はいる。サリアを潰してもストックがいる。生まれる子を産んだ後にまた戻して再度同じ子が産まれでるかを試してみてもいいはずだ。失敗してもその場合は、サリアがいる。


 今回は男を望んだ。我が望めばなんでも叶う。


 そうだ。サリアの時は子が欲しいなど望まなかった。宿ったとわかった時、どうなるかただ楽しみでいた。それも一興だと様子見をした。


 今回は、我が望んだ。我が創り出した。サリアが望んだから創り出した弟。


 これは、我が創り出したウサギと何が違うというのだろう?


 この気持ちはなんだ?消してしまおうか。なぜ今消したくなる?


 そうだ。産まれてきてから時を戻そうと考えていたのに、今戻す理由はなんだ?


 なんとなく、充分な理由のはずだ。我が我慢することなどない。気分で動けばいいのだから。


 戻したくない。戻したい。わからない。楽しくない。


 なんだ?この感情は――。



「アリス」



 心配そうな顔の主人公。悟空もどき。勇者。我の伴侶。


「あなた…」


 ああ、こんな時は何も知らない透明感のある笑顔を浮かべるのだったな。今、我はどんな顔をしている?


「大丈夫だ。不安になることはない」


 そっと、壊れ物を扱うように我を抱きしめる、こやつはなんだ?我の、伴侶?玩具のはずだ。プロデュースする気でいた主人公。我が見つけた。我の玩具。


「サリアの時はなかったかもしれないが、子が宿ると情緒が不安定になることがあるものだ。何もおかしいことではない。気にする必要はない。大丈夫だ。何も心配ない」


 そっと、我の頬を愛おしげに心配そうに撫でる。


「お母様…」


 アリスの分身。我の初めて産み落とした子。サリアと、我の真名から名付けた我が子。


 心配そうに、ベッドの上でボーっとしてしまっていた我のお見舞いに来てくれたのだ。可愛い。推せる。これがファンになるということなのだろう。なるほど。元に戻せなかったら推しではなくなるから、戻せなかったのだろう。


 腹に子を宿してから、我はベッドからあまり動かなくなってしまった。

 それもアリだなと、我が思ったからだ。2人目を産み落とす時に、母親が死ぬ。よくあるできた物語だろう?


 弱っていく姿を見せつけ、腹は順調に膨らんでいった。


「銀髪…」


 生まれた我が創り出したサリアの弟。凄く消し去りたくなる。

 悟空、主人公のジルは赤茶の髪に瞳だ。産まれたサリアは、アリスの髪色を受け継ぎ、赤茶と青色の瞳をしている。


 三蔵法師、いや聖職者マリアは我よりも白に近いブロンド。まだ、マリアの色のが近しい。


 ただ、この色はウサギだ。我がウサギが出てくると思ったからだ。なぜ、そう思ったのか。わからない。都合も悪い。それでも戻さない。最近、時を戻していない。


 時が経った。つまらなかったからか、時の流れが早かった。産まれたウサギは、今年でもう12になる。顔もウサギそのままだ。瞳の色は黄色。私の子としてもおかしい色。


 ジルは、最初愛そうとしない私からウサギを守った。そう、愛だ。私はジルを愛した。サリアも。ファン、推し、遊びの心のはずが、愛した。我の大事な家族だ。


 ウサギを消そうと思った。あの消し去りたい感情が、不安だと知った。理解した。アリスとして過ごして、アリスとしての人格を創り過ぎた。我は壊せなくなった。


 だから、邪魔なウサギを消そうと思った。だが、ウサギもジルと私の子だった。確信はない。我が創り出しただけかもしれない。それでも、確かに腹は膨れて産み落としたのだ。


 ジルも己が倒した魔王の姿にどんどん似ていくウサギを愛せなくなってきている。魔王に呪われたと考えているようだ。


 嫉妬するようになってから少し疎遠になっていたマリアを呼ぶほどに。浄化や呪詛解除や祝福など、全てを試した。


 ウサギを魔王っぽく仕上げたのは我だ。当然、浄化されれば苦しみ、呪詛解除でも黒いモヤを出し、祝福でもがき苦しんですぐさま復活させた。何も、今は手を出していないのに。


 魔王というよりも、それは悪魔のようだった。

 我が望んだ。我が創り出した。でも、あれは私の子。


 ふと、思い出した。漫画だ。前世の設定だ。妄想した。


 勇者と聖女の子が、魔王の呪いで魔王の依代にされた。最高の復讐。最高な展開。迫害され両親からは疎まれ、おそらく学園では魔王と恐れられ忌み嫌われる。それは、主人公だ。彼を救うヒロインが現れる。きっと、ライバルキャラは主人公の姉だ。意地悪な悪役令嬢。サリア!サリアが不幸になる。


 我が望めば願いは叶う。


 我は不安を抱いてはいけなかった。我が望めば願いは叶う。


 初めて死にたくなった。


 我は最強。我を殺せる者はいない。きっと、我を除いて。


 我が倒れ、ますますウサギの家での扱いは悪くなった。


 父親として愛情を注ごうと努力していたジルも、愛する妻が倒れて心を濁らせた。すでに、魂には傷をつけていた。目の前で信頼していた仲間と裏切るシーンを見せつけているのだから。


 何度も狂ったことをなかったことにしても、ジルは狂った。


 もう精神が限界だったのだろう。人間とは脆弱だ。時を戻してなかったことにしても、魂には刻まれるのだろう。


「お、母様…」


 私に近寄らないウサギが、本物のウサギのように目を真っ赤にして覗き込んでいる。泣き腫らした顔だ。哀れだ。


 顔を、撫でてやる。驚きで目を見開いている。


 ああ、なんて可哀想な愛しい我が子――


「――愛せなくて、ごめんね」


 絶望に歪んだ顔。目を見開きこちらを見る様子が、閉じゆく瞼の隙間からでも確認できた。魔王が産まれた瞬間だ。


 この世に必ず、魔王は1人。魔王が消える時、魔王を生み出さなければならない。


 サリアを幸せにして。悪役令嬢が大逆転。それも想像したからきっと大丈夫よね?悪役令嬢が、闇堕ちして魔王になる弟のフラグを叩き折って、弟を溺愛して、きっとブラコンにさせるはず――。


 我、楽しかった。もっと、生きたかった。見守りたかった。この先の子供達を、愛するジルと一緒に。



「アリス――!!」


「お母様!お母様ぁー!!」


「ぐすっ…」


 愛しい我が伴侶に、我が子供達。泣き腫らした目を皆がこちらへ向け、涙を流している。


「よかった…本当に今回ばかりはもうダメかと」


 聖職者マリアが、ほっとした顔で一歩引いたところで涙を拭いながら微笑みかけた。


「私、は…」


「君は一度命を落としたんだ。それをアレクが――おそらく時を戻した」


 なんと!時を戻す能力までそのままとは。完全にそれは魔王ではないか?なのにこの家族の一員としてすでによくやったと父親に頭を撫でられているウサギ、アレクが嬉しそうに見たことない子供らしい顔で笑っている。


「お母様、本当によかったっ…!」


 ぎゅーぎゅーと、淑女にしては褒められないが、サリアが私を抱きしめる。ジルがその上からサリアごと私を抱きしめる。


 魔王が望めば、願いは叶う。――そういうことか?


「アレク」


 私は、ウサギを名前でまともに呼びかけたことなどない。


 今、私はどんな顔をしている?ウサギに感謝の感情を向け、名を呼べることに涙を流しながら、輪に入れていない引っ込み思案な息子を呼ぶ。


「お母様」


 私が腕を伸ばしたら、ジルはアレクのスペースを空けて皆で抱きしめあった。


 なんだ?このハッピーエンドは?我は知らない。面白い展開ではある。


 だが、違和感が凄まじい。


 最後のトラウマを植え付けたエピソードからの、母親が死なずに生き返るエンドとはなんだ?


 物語はどうなるんだ?時を戻せる魔王の力を堂々と母親の命を救うエピソードでひけらかしているのに、受け入れられている。


 両親との確執は?母親の命を救ったことで丸っと解決か?


 どうして、私はこんなに受け入れて嬉しそうにしている?


 この世に魔王はただ1人。


 そうだ。そういうことだ。彼が望めば全てが叶う。


 もう、私は魔王ではない。ただのアリスだ。


 魔王の母。彼を愛してやまないたった一人の母親。それが私という存在価値に他ならない。



 ――魂に傷ができるわけだ。全く楽しくないね。

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