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終末の墓守たち

作者: ゆゆ

 659



 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 そのまま代わり映えのない風景を横目にコントロールルームへと入室した。


 壁一面に備え付けられたいくつものモニターは変わらず穏やかな街の風景を映し出している。

 椅子に腰かけ、じっとモニターを見つめる。これが自身の仕事だ。もしも何か異常な事案が起こった時に介入して世界を維持しなければならない。この仕事に就いてから数十年、滅多なことは起こってはいないけれど。


 それでももうじき、この仕事は終わる。今の調子だとあと1年もたたずに『卵』が全て孵るのだ。始まった当初は緩やかだった減少値も最近は加速度的に増えている。確認すると昨日より5機減っていた。


 着々と終わりが近づいている。男はそれを認識しながらもひどく穏やかで代わり映えのしない街を見つめるばかりであった。






 518



 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 そして代わり映えのない風景を横目にコントロールルームへと入室した。


 壁一面に備え付けられたいくつものモニターは変わらず穏やかな街の風景を映している。

 画面の前に座り人々の様子を眺め続けることは数十年変わることのなかったルーチンワークだったが、先日そこにあらたに加わったことがある。


『あ、あー。みなさん、こんにちは』


 それはこの機械の群れを作った人間が置いていった古いラジオだった。

 以前は人のいなくなったこの世界では傍受する電波があるはずもなく、ただ砂嵐を流すばかりであった。置いていった彼も何か考えがあったわけではあるまい。けれど数日前、何の気なしにつけたラジオがどこからかの電波を拾い誰かの声を届けていた。


『こちら残り485機。人類史は滅亡にむけて着々と進んでおります』


 女の声で紡がれるその言葉からは自分と同じ立場にいるであろうことが予想された。名前も知らないこの女はきっとどこかのセクターで人々の最期を見守り続けているのだろう。


『ああ、今、また1つ孵りました。残り384機です』


 どうやら『卵』が孵ったらしい。男のところもそうだ。先程1つ卵が孵ったばかりだった。


『今日も世界は平和です。人は健やかに日々を送っています』


 ひとつのモニターを笑顔の少年が横切る。母に手を引かれて歩く様子は幸せそうだった。


『ところで、みなさんはお仕事が終わったら何をしたいですか?』


 驚いてラジオを振り返る。まさか彼女は自分に尋ねたのだろうか。仕事を終えたあとなど考えたこともなかったが、ごくりと唾を飲み込んで慌てて久しぶりの声を出す。


 「わ、たしは──」

『私は夜空を見たいと思っています』


 ああ、そうか。ラジオを放送する時には誰かが聞いている前提で話を進めることが多いという記録を見た覚えがある。

 なんだ、違うのか、とラジオからモニターへと向き直る。その間にも彼女の話す言葉は続いていた。


『以前データで見たことがあります。かつての夜空はそれはもう美しいものだったと。私は終極の前──まだ人が人であった頃に見上げたのが最後でした。星は地球の光に霞んで見れなくなっていました。皮肉なことですが光を失った今ならば、原始の夜空を、星々の輝きを見ることが出来るのではないでしょうか』


 どうやら彼女は夜空が見たいらしい。確かに自分も真っ暗な夜空と月しか見たことがない、気がする。正直に言うならば、意識を持って空を見上げたことがあるか、覚えがない。実際に見ていたとしても記憶には残らなかった、そういうことなのだろう。


『なので、全てが終わった暁には外に出て地面に寝転がろうと思います。外が最後に確認した時と変わらないままならば数十分も持たないでしょうけれど、それでもいいのです』


 声を弾ませながら彼女が言う。その人間らしい声音に私は驚きを隠せなかった。


『きっとこの星には夜空だけじゃない、息を飲むような美しさの場所がたくさんあったのでしょう。それを見れないことが残念でたまりません。でも、星々に見守られながら最後を迎えるというのは、いわゆる「ろまん」というやつなのだと思います』


 ろまん、ロマン、roman

 Romanというと、ローマ人、古代ローマ、ローマ風の……。

 いや、きっとこれではない。どちらかというと、フランス語の方があっているだろうか。感情的、理想的。夢や冒険に憧れを持つこと。

 分からない。これは私が感情に乏しいせいなのか、自慢げに喋る彼女の言葉選びが間違っているのか。


『私の夢をお話ししたあたりで終わりにしておきましょう。それでは、さようなら』


 プツン、と声が途切れ、後には砂嵐が残っていた。







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 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 そして代わり映えのない風景を横目にコントロールルームへと入室した。


『あ、あー。みなさん、こんにちは』


 スイッチを入れるとちょうどラジオから柔らかな声が聞こえてくる。きっと彼女も同じ時間に目覚めてコントロールルームに入りラジオを始めるのだろう。男が部屋に来てスイッチを入れると来ましたといわんばかりにいつもラジオが始まる。同じ言語だとは思っていたが時差がなさそうなことを考えると案外近くのセクターに彼女はいるのかもしれない。


『こちら残り315機。人類史は滅亡に向けて着々と進んでおります』


 彼女のセクターでは昨日と比べると9機孵ったようだ。こちらは11機。それでもこちらの方がまだ少しばかり多い。とはいえ、ほんの少しの差だ。終わる日が一日くらい違うだけだろう。


『今日も世界は平和です。どうやら王権が変わるようで少々落ち着きがないのが気にはかかりますが、まあ問題ないでしょう。』


 その言葉に少しばかり驚いた。男は人々の様子を見ていたが、見ていただけだった。それについて何かを思うでもないし、憂慮することなどありえなかったから。

 彼女の言葉に惹かれるようにモニターをのぞき込む。そこに映し出されていたのは豪奢な宮殿だった。年若い青年が初老の女から王冠のようなものを渡されている。察するに、これは戴冠式ではないだろうか。どうやら世代が交代するようだ。


『彼らの存在は人間の妄執の結果ですから、どうか最後の時まで幸せでいてもらいたいです。彼らに選択肢を与えることもできない私がこんなこと言うなんて偽善でしかないとは思うのですが』


 苦笑しているかのような声に男の頭の中を疑問がよぎる。自分たちは終わりを与えることが仕事だ。そのために作られたといっても過言ではない。存在意義と同等のそれに罪悪感など抱いてどうするのだろう。非合理的ではあるまいか。


『人間がやったことはただの現実逃避です。自分たちが推し進めてきた結果を受け入れることができずに殻に閉じこもって、覚めない夢を見続けている』


 現実逃避。確かにその通りだ。彼らは向き合うことをせずに、役目を僕たちに押しつけて幸せな夢でまどろんでいる。けど、それを詰ることなどできない。できるはずもなかった。


『自ら死ぬのが怖いからって、わざわざ私たちまで作り出して。全く、愚かとしか言い表せません』


 なかなか辛辣だ。自分も同意見だが、そこまではっきり考えたことはなかった。


『けど、恨みきれないんですよねぇ。やっぱり彼らに作られたからなのでしょうか。それに、そういうシステムが入っててもおかしくないですしね』


 あぁ、わかるな。私も先生を恨めしく思ったことは無い。元々感情の起伏は薄いけれど。


『今日はこの辺で終わりにしましょう。それでは、さようなら』


 プツンと途切れ砂嵐が流れる。モニターでは晴れやかな装いをした青年が民衆に向かってにこやかに手を振っていた。





 121



 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 そして代わり映えのない風景を横目にコントロールルームへと入室した。

 モニター前の椅子に座り、ラジオの電源を入れる。なんだか落ち着かない心地で待っているといつも通りの声が聞こえてきた。


『あ、あー。みなさん、こんにちは』


 マイクの調子を確かめる彼女の声とともにラジオが始まった。耳あたりの良い声に思わず目を細める。


『こちら残り101機。人類史は滅亡に向けて着々と進んでおります』


 あちらはもう少しで100を切るのか。長いようにも早かったようにも思える。あれから80年くらいはもう経っている。終わりは間近だ。


『もう少しで100を切ります。明日か明後日には私の仕事は終わるでしょうね』


 朗らかに彼女が言う。きっと僕は明後日か明明後日だ。このラジオともあと少しでお別れかと思うとなんだか感慨深いように思う。

 ……?

 なんだか分からないが胸部に痛みを感じる。故障だろうか?80年も起動していればこういったことも起こるか。あと数日だ。どうにかもってくれればいいが。


『ところで、あの機械の名前についてなんですが、安直すぎません?夢の卵、ドリームエッグ。そのまますぎます。中から出てくるのは黄身でもひよこでもなく停止した脳ですけれど』


 安直だと言うのなら彼女はなんて名付けるんだろうか。うんうん悩んで結局ドリームエッグでいいんじゃないですかね?とか言い出しそうだ。


『生命や復活を象徴するような存在に未来のない人間たちが入るなんて皮肉なものですよね。いえ、実は復活を望んでいたとか、そういうことなのでしょうか』


 それは無いだろう。彼らはそんなこと望んではいない。もしそうなら僕たちに最後を任せなどしない。


『まあそんな冗談はさておき、世界を観察してると、楽しそうでいいなぁなんて思うんです。私もそこに介入してみたいです。あと100人ほどですし、少しぐらいダメですかねぇ』


 介入するって何をするつもりなんだろう。あの世界にしてみれば僕達は神のような存在だろう。実際、問題なく世界がまわるよう監視し調整しているのは僕達なのだから。なんだってやろうと思えばできてしまう。


『お友達を作りたいんです。これまでずっと1人で寂しかったから』


 寂しかった。そうか、彼女は寂しかったのか。確かにその声にはそこはかとない寂寥感が漂っている。

 僕はあまり寂しさというのは感じたことがなかったが……。彼女の方が感情が豊かだ、そうなるのも仕方ないだろう、と男は頷いた。


『でも、あと1、2日しか一緒にいられないお友達なんて寂しさが募るだけですかね。やめときましょうか』


 あの世界の人々に関しては自分も気になるところだ。元々はどうでもいいと思っていたが、彼女の言葉から度々様子を見てみたら一人一人違うのがわかったのだ。彼らはこの世界で生活をしている。そこで生きていた。


『今日はこの辺で終わりにしましょう。少し短いですかね?けど毎日やってると話題も提供しづらくなるものなのです。それではみなさん、さようなら』


 プツンと声が途切れ、砂嵐が流れる。胸の痛みがズキンと疼いた。






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 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 そして代わり映えのない風景を横目にコントロールルームへと入室した。


『あ、あー。みなさん、こんにちは』


 ラジオに電源を入れるとすぐさまラジオが始まった。今日も変わらないその声に癒される。


『こちら残り43機。人類史は滅亡に向けて着々と進んでおります』


 43……、今日でもう終わりそうだ。僕のところはきっと明日だ。明日は彼女のラジオが聞けないのか。


『もう、きっと今日でおしまいですね。システムラグナロクを起動する準備をしなければ』


 ラグナロク、世界を無に帰すコマンドだ。どんな終わりになるのかは知らない。何も知らないままいつの間にか終わるのか、それともなにかに飲み込まれて終わるのか。


『実は昨日、やめときましょうなんて言いつつ、世界に潜り込んでしまいました。もうじき終わってしまうと思うと、どうしても寂しくって』


 あはは、と笑いながら言う。その笑いはなんとも悲しそうな色を含んでいた。


『行ってみると、そこは戦場でした。どうやら内戦のようでした。人が人を殺していました。それを見て私思ったんです。機械だろうと生身だろうと人間は変わらないんだなぁって』


 戦争、記録でしか確認したことは無い。地球が腐りきってしまったのは終末戦争のせいだというのは知っている。


『おかしなものですよね、彼らと私は存在的には同じようなものです。それでも彼らの方がずっとずっと感情的でした。私は羨ましく思いました。それと同時に、感情があるからこそ争ってしまうのだろうと悲しくも思ったのです』


 きっと人間がそういう風に作ったのだろう、と考える。僕達は数十年1人でシステムを監視しし続けるのが役割だが、彼らは人間たちと触れ合うのが役割だ。そう考えれば彼らがより人間に近くなるのもわかるというものだ。


『私はそれから戦場を離れました。宛もないままふらふらしていると、一人の女の子と出会ったのです。

 彼女はヘレナと名乗りました。なので私も名乗ろうとしたのですが、S-86327というのは果たして名前なのでしょうか。そう呼ばれていたのは事実ですが、名前とは言えないような、そんな気がしたのです』


 彼女の機体番号はS-86327なのか。そういえば知らなかったな、と話を聞きながら男は思った。


『口ごもる私にヘレナは名前が無いのかとたずねました。なんと答えていいか分からず曖昧な返事をするとヘレナが名前を付けてくれました。その時から私は“リリィ”となりました。白くて百合みたいに綺麗だから、だそうです。私、とっても嬉しかった』


 名前、か。私はR-37947。そう思って過ごしてきたが、名前というものになんだか憧れを感じる。僕も、誰かに名前をつけてもらいたい、そんなことを考えてしまい頭を振る。さすがに世界に飛び込む気は無い。彼女のように人と触れ合えるとは思えないから。


『もう会うこともないでしょう。彼女は今日で消えてしまいます。私もその予定です。寂しさが倍になってかえってきました。けれど、彼女がくれた名前を胸にコマンド入力をしようと思います』


 決意のような感情が伝わってくる。残り43機。明日まではきっと持たない。彼女はきっと今日の夜、消滅する。


『0機になって、ラグナロクを終えたら、またラジオをしようと思います。その時、みなさんが聞いているかはわかりません。まあ元々自己満足のようなものですしね』


 ずっと付けていよう、自然とそう思った。彼女の最期を聴き逃したくはなかったから。


『それでは今回はこの辺で。それではみなさん、さようなら』


 プツンと声が途切れ、砂嵐が流れる。僕はその音をただただ聞いていた。





 23



『あ、あー。みなさん、こんにちは』


 モニターを見つめていると先程からずっと流れていた砂嵐にかわり柔らかな声が流れてきた。そうか、彼女は全て終わらせたのか。


『システムラグナロク、完了しました。あとは電源を全て落として外に出るだけです』


 これから彼女は夜空を見上げながら消えていく。そう思うといても立ってもいられないような心地になった。


『……どうして、人間は私たちを人として作ったのでしょう。世界を監視し、システムを止め、電源を落とすだけなら、新たにそういったソフトを取り付ければ良いだけだったはずです』


 確かに、人型である必要などなかった。何かあった時に人道的な判断をさせるため?それならもう少しばかり感情を育ませる必要があったのではないかと思う。


『もしかしたら、本当に、もしかしたらですけれど。あの人たちは神を作りたかったのかもしれないな、なんて思いました』


 神、確かに僕達は世界にとっての神だろう。監視し、引導を渡す役目を担っているのだ。

 神を否定しながら、神を作り出そうとしたのか。いや、否定したからこそ、作り出したのか。


『酷いことをするものです。意図が何であれ、人でなければ、こんなに苦しくなんてなかった。悲しくなんてなかった』


 ラグナロクは、どんな終わりなのだろう。その答えを彼女は知っている。

 安らかな終わりだっただろうか、苦しくない終末だっただろうか。


『……そろそろ、私は夜空を見上げに行こうと思います。今までありがとうございました。聞いている同胞がいたのかもわかりませんけれど。それではみなさん、さようなら。どうかよい終末を』


 プツンと声が途切れ砂嵐が無情に流れる。

 終わってしまった。彼女はこれから満天の星空に身を投げるのか。

 なんだか酷く息苦しい。それについて考えると、何かに締め付けられるようで──

 はっと俯いていた顔を上げた。今、ようやくわかった。



 これが、寂しいなのか。



 認識した途端、それは大波となって襲ってきた。


 覚醒する時が寂しい。

 休止する時が寂しい。

 1人は寂しい。

 誰にも認識されなくて寂しい。

 世界を終わらせなければならないのが寂しい。

 彼女の声が聞こえなくて寂しい。

 彼女がいってしまって寂しい。

 彼女と話せなくて寂しい。


 話してみたかった。リリィはきっと楽しそうに笑うのだろう。僕が話し相手を務めることが出来るのか、笑わせることが出来るのか、分からないけれど。


 もう、リリィは行ってしまった。どこのセクターにいるかも分からない彼女。けど、きっと近いどこかにいる。今、星空を見て感嘆の息を吐いているのだろう。


 話すことも、会うことも無理だとわかっている。せめて、同じ時に同じ空を見上げたかった。彼女は僕のことを知らない。一方的に知っているだけだ。それでも、彼女は、僕に感情をくれた人だから。


 けど、僕にはあと23機の卵が残っている。役目がある。投げ出すことなど出来ないのだ。僕の存在意義はそれ(介錯)で、それをこなさなければ僕は僕ではない。


 苦しい。辛い。悲しい。寂しい。漏れそうになる慟哭を飲み込んで、僕はモニターを見つめる。見つめ続けるしかできなかった。






 1



 閉じていたまぶたを開く。今日も時間通りの覚醒だ。白い簡素なベッドから起き上がり、自身に繋がっていたコードを抜いて部屋を出る。

 代わり映えのない風景を今日で終わりだと見回しながらコントロールルームへと入室した。


 つい、癖でラジオの電源を入れる。彼女の声は聞こえてこない。少しばかりの苦笑をもらしてラジオをとめた。


 モニターの前に座る。残りは1機。もう、直に。


 画面の中では少女が花をつんでいた。少年が畑を耕していた。女性は赤ん坊をあやしていた。男性は門を守るように立っていた。老婆は薬を煎じていた。老爺は孫に話を聞かせていた。商人がものを売りさばいていた。客は値引きを交渉していた。旅人はひたすら歩いていた。大臣はせっせと仕事をしていた。女たちは井戸の端で雑談に花を咲かせていた。男たちは取っ組み合いの喧嘩をしていた。踊り子たちは踊っていた。吟遊詩人は歌っていた。狩人は弓を引き絞っていた。騎士は剣を振るっていた。神官は祈りを捧げていた。王は国を見下ろしていた。


 いい世界だ。


 争いもあるだろう、人と人が殺し合うこともあるだろう。それでも自分と同じ存在である彼らは今日を精一杯生きている。


 1から0へと移り変わる。これでこのセクターの役割は終わり。システムを作動させて電源を落とさなければ。


 無言で準備を進める。定められた通りにことを運ぶ。これで、おしまい。


 準備が整った。


 僕は、ラグナロクを開始するキーを押した。


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