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93話

やっと、更新ができました。

 翌日の昼頃、ラウルが俺の部屋にやってきた。


 ラウルは久しぶりに会うが俺よりも二十センチは身長が高くなっているような気がする。たぶん、百六十三センチはあるだろうな。黒のスラックスに白の縦襟シャツ、焦げ茶色のジャケットを着ていた。もちろん、コートやマフラー、手袋も持参している。


「……久しぶりですね、叔父上」


「ええ、久しぶりです。殿下」


「今日はわざわざ、ご足労いただきありがとうございます。僕の手紙を読んでくださったようですね」


「読みました、何でも。私に訊きたいことがお有りとか」


「はい、ちょっと込み入った話しにはなるんですが」


 俺が言うと、それを皮切りにラウルが無詠唱で防音に侵入者阻害の結界を張った。さすがに魔力量が断トツなだけはある。学園に通うようになってから、魔術の腕を格段に上げてもいるらしい。


「……エリック、結界は張っておいた。これでしばらくは話ができるぞ」


「あんがとよ、ラウル」


「それで、改めて訊くが。聞きたいことって何なんだよ?」


 俺は深呼吸をした。二回程したらラウルを見据える。


「昨日にウェルズ先生から話を聞いてな。詳しいことを教えてほしくて手紙を送ったんだ」


「もしかして、俺の過去について聞いたのか?」


「そうだよ、なあ。ラウルはイルミナ伯の元で暮らしていたんだよな?」


「……ああ、イルミナ伯爵領はこちらとは比べもつかない程の田舎でな。田園風景にまばらな民家に。後は山ばかりといった所だったよ」


「そうなのか」


 俺がポツリと返事をしたら、ラウルは苦笑いをした。


「イルミナ伯爵は凄く明るくて朗らかな人でな、母上や俺を本当の家族のように扱ってくれた。伯爵には、亡くなった前妻との間に二人の息子がいてな。長子がリチャードで次子はルイと言うんだが。奴らとはよく遊んだ仲だよ」


「ふうん、リチャードさんやルイさんとは一度会ってみたいな」


「……俺が頼んだら会ってはくれるかもな、わからんが」


 ラウルは肩を竦めた。


「けど、俺が十歳になった年に今の陛下もとい兄が俺や母上を王都に呼び戻した。まあ、それ以前にも王宮には滞在させてもらっていたが。兄は謁見の間にて、母上や俺にこう言ったんだ。『お前達の処遇を決める、スズコ前王妃はイエンレイ修道院へ入ることを命ずる。ラウル王子は王籍を剥奪の上でラルフローレン公爵家に養子入りせよ』とな。要は母上や俺を王家から切り捨てたんだ。この時くらい、悲しくて悔しいことはなかったよ」


「……ラウル」


 俺はラウルの独白を聞いて、遣る瀬無くなった。何故、三年前にラウルを助けられなかったのか。どうしてもと親父もとい、陛下に頼めば。ラウルを王子のままでいさせられたかもしれない。


「エリック、そんな落ち込んだツラをすんなよ。お前が気にすることじゃない」


「けど!」


「どーせ、三年前にどうして俺を助けられなかったのかとか考えてたんだろ。過ぎたことを後悔したってどうにもならん」


 きっぱりと言われて俺はムカッときた。


「何で、あんたはそんなに諦めがいいんだよ。もうちょい、言い様があんだろ!」


「あのな、何もかもを手中にしているお前に俺の何がわかる。お前は恵まれた立場にいるんだ、何もかもを失った奴の気持ちなんかわかんないだろうが」


「そりゃ、そうだけど」


 俺は危うく泣きそうになった。確かに、ラウルは父である先王を亡くし。後ろ盾や身分などいろんな物を失っている。しまいには、母君と別れ別れになってしまっているしな。だからこそ、ラウルの放った言葉には実体験した者の重さがあった。


「エリック、お前がシェリアちゃんを手放したら。俺が引き受けるという約束をしたよな?」


「……ああ、したな。そういえば」


「俺は本当に彼女が好きだ、女性としてな。が、お前はどうなんだ?」


「俺はリアを妹みたいには思っている、残念ながら。女性としては見れそうにない」


「そうか、なら。お前の代わりに俺が婚約者になっても問題はないな」


 何を言っているんだ、コイツは。俺は耳を疑った。今、ラウルはシェリアを好きだと言ったよな?


「……ラウル、あの。シェリアはまだ九歳だぞ」


「わかってる、今の話をしているんじゃないよ。シェリアちゃんが大きくなってからのことを言っているんだ」


「成程、そういうことか。一瞬、ラウルが今のあの子を婚約者にと言っているのかと思っちまった」


 俺が軽口を叩くと、ラウルは頭を小突いた。


「アホ、いくら俺でもあんなにお前しか見ていないあの子を無理にとは思わねーよ。勘違いすんな!」


「わーったよ、けど。小突くのはやめてくれ」


「エリック、せめて。シェリアちゃんが成人するまでは守ってやれよ。いいな?」


「……ああ、約束するよ。リア本人にも言ってはいる」


「そっか、なら。いいんだ」


 ラウルはやっと、目尻を緩めて安堵したように笑った。

 いずれ、シェリアはラウルを生涯の伴侶に選ぶだろう。それまでは彼女を本当に守らなければ。婚約者として、兄代わりとして。

 ……そっか、俺はシェリアを妹みたいに長年見ていた。だから、彼女の想いには応えられない。今は告げない方がいいだろう。そんな相反した思いを抱きながらも俺は一つの決意を固めた。

 やはり、シェリアをラウルに譲ろうと。そして、それまでは彼女を守ろうとも。そう考えたら、不思議と頭がスッキリしたのだった。


 

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