92話
久しぶりの更新になります。
仙人爺さんの魔法のレッスンは夕方に終わった。
俺もリアもヘトヘトだ。爺さんは、ホクホク顔で魔導書や杖を受け取る。
「お疲れ様でしたな、もうここまでにしましょう」
「はい」
「殿下、またお時間があったら。いらしてくだされ」
俺は頷いた。リアもだ。爺さんにまた、一礼をする。そうしてから2人で神殿を後にした。
自室に戻ると、俺はウェルズ先生の授業を受けるための準備をする。リアは王妃教育の時間だと言って、部屋を去った。それを見送りながら教科書やノートなどを取り出す。
(よし、必要な物はこれくらいかな)
一通り、チェックをして授業用の部屋に行く。もう、ウェルズ先生の教えを乞うようになってから6年が過ぎようとしている。俺も再来年の春頃には、王立学園に入学になるが。大丈夫かなと今から、心配だ。リアの事もあるし。ふうと息をついた。
その後、ウェルズ先生がやってきた。俺は礼をして挨拶をする。
「こんにちは、先生」
「ええ、こんにちは。殿下」
先生はにっこりと笑って、返事をしてくれた。
「午前中は神殿に行かれていたと聞きました。魔術の講義を受けておられたのですか?」
「はい、神官長に教わっていました」
「そうですか、神官長様ならそこの所は手抜かりはないでしょう」
そう言いながら、先生は教科書をカバンから出す。授業の開始だ。俺は教科書などを机の上に置く。椅子を引いて座る。
「それでは、始めましょう」
「はい」
ウェルズ先生は、教科書を開いた。俺も教科書やノートを開き、筆箱から羽ペンやらを取り出したのだった。
ウェルズ先生は歴史的な話を授業が終了してから、してくれていた。
「……今日は、何の話をしましょうか。そうだな、フォルド国の先代の国王陛下についての話にしますね」
「はい」
「確か、ラウル様は先代の陛下のご子息である事は殿下もご存知ですよね」
「存じています」
「ラウル様の母君であるスズコ様は、2番目の王妃でした。1番目の王妃は病により、当代の陛下を残して儚くなられました。ラウル様をお生みになったスズコ様は当然ながら、他のお妃方や王子達に疎まれます。命まで狙われるようになるのは、時間の問題でした」
ウェルズ先生はそう言って、メイドが淹れた紅茶を一口飲んだ。静寂が部屋に落ちる。
「そして、先代の陛下は決断をなさいます。スズコ様とラウル様を秘かに、イルミナ伯爵家に逃げさせたのです。つまりは王宮から出させたのですが。陛下が退位なさり、当代の
アルフレッド陛下が即位なさいました。スズコ様やラウル様は、行方知れずという扱いのままでいらっしゃいましたね」
「だとしたら、スズコ様がラウル叔父上と王宮にいらしていたのは?」
「……陛下がイルミナ伯に内密に、打診をなさったからです。『スズコ様とラウル様の命は助ける、代わりに王籍を剥奪する』と。つまりはスズコ様を表向きは伯爵夫人として扱うように、そう命じたのですよ」
ウェルズ先生はそう話すと、また紅茶を飲む。俺は意味を考えた。スズコ様が王籍を剥奪されていたとはな。
「あの、それは何年前の話か訊いても良いですか?」
「そうですね、今からだと。8年程前になるでしょうか」
8年前と言ったら、まだ俺が1歳くらいか。前世の記憶を取り戻す2年前だな。まあ、赤ん坊といっても差し支えないが。俺はふうむと唸りながら紅茶を飲んだ。冷めてしまっているためか、あまり美味しくはなかったが。ぐいと飲み込んだ。ほうと息をついたのだった。
ウェルズ先生は、歴史の話を終えると帰っていく。それを見送ってから、リアナに便箋や羽根ペンなどを用意してほしいと言った。ラウルに手紙を出すためだ。
「殿下、ラウル様に手紙を出すとは珍しいですね」
「たまにはいいだろうと思ってな」
「ラウル様も王立学園に入学なさってから、もう4年が経ちますね。殿下からお手紙が届いたら、驚きますよ」
俺は驚いて、声が出ない。ラウルが学園に入学して4年だって?!道理で王宮で姿を見ないわけだ。俺としたことがうっかりしていたぜ。自分のことしか考えていなかったな。
「そうだったのか、道理でな。最近、姿を見かけないと思っていたんだ」
「それはそうでしょうね」
リアナは笑いながらも、テキパキと便箋などを準備する。インク壺や羽根ペンも新しいのを出してきてくれた。正直、助かった。そう思いながらも窓から空を眺める。既に夕方から夜になろうという時刻だ。部屋には、照明用の魔導具が辺りを照らしている。
「殿下、できましたよ」
「あんがとよ」
「では、一旦失礼しますね」
俺が頷くと、リアナは寝室を出ていく。俺は椅子に座ると便箋を開いて、羽根ペンを手に取る。インク壺は蓋が開けてあった。リアナは流石に気が利いている。
にんまりとしながらも羽根ペンの先端をインク壺に浸す。ラウルへの手紙を認めた。
<ラウル叔父上へ
お元気でしょうか?
俺は元気にしています。
ちょっと、今日に叔父上のことをウェルズ先生に聞いてな。
それで、気になったことがあります。
詳しくも訊きたいので、一度王宮へ来て頂けないでしょうか?
それでは、さようなら。
エリック・フォルド>
手短に認めると、インクを乾かす。そうしてから、折り畳んで封筒に入れた。封蝋を施す。親父から託された指輪に彫り込まれた印を蝋になつ印した。それらを済ませたら、リアナを呼んでラウルに届けてくれるように頼んだのだった。




