85話
久しぶりの更新です。
俺は陛下――親父の執務室にいた。
ちなみにジュリアスやエルにクォンも一緒だ。今やお馴染みのメンバーだな。親父は書類の決済に忙しそうだ。
「……ああ。エリック。どうした?」
「……父上。報告に来ました」
俺が言うと親父はゆっくりと顔を上げた。目の下にはクマができている。夜も眠らずに執務をしていたらしい。
「エリック。報告か。で。何があった?」
「……ちょっと個人的な事なんですが。人払いをしたいんです」
「わかった。私やエリック、ジュリアス以外は退出してくれ」
親父が命じるとクォンやエル、他の部下達が退出していく。文字通り、親父や俺にジュリアスの3人だけが執務室に残る。
「で。エリック。話とは何だ?」
「……父上。いや。親父。俺はシェリアを怒らせちまったようだ」
「……は?」
親父は目を点にした。鳩が豆鉄砲を食らったような顔というか。まあ、そうなるよな。仕方ないので簡単に説明する。
シェリアに婚約はいずれ解消すると話してある事。次に二番目の婚約者には同じ日本からの転生者を据えると考えているのを聞かれた事を。ジュリアスも補足説明をしてくれた。が、親父は頭を抱えて考え込んでしまう。
「……お前は。前々からどこか抜けているとは思っていたが」
「あの。親父?」
「……こんのバカ息子!!お前、自分が何を言っているのかわかってんのか?!」
ビリビリと鼓膜が破れそうなくらいの檄を飛ばされた。まあ、親父のカミナリが落ちたともいう。
「え?」
「え?じゃないだろ。お前、シェリアちゃんに婚約を解消すると言ったろうに。それはつまりだ。有り体に言えば、フッたのと一緒だぞ」
「……確かにそうなりますね」
「そうなりますねってな。お前はシェリアちゃんを好きじゃないのか?」
「俺は。守りたい、触りたいとは思う」
素直に言うと。親父は深いため息をついた。
「……そう思うのなら。ちゃんと今言った事を伝えてやれ。シェリアちゃんも喜ぶぞ」
「言えないよ。それを言ったら。抑えが効かなくなる」
「エリック。別に恋心に蓋をしなくてもいい。お前がやりたいようにやりなさい。でないと後で凄い後悔する事になる」
「……親父」
「お前はちょっと身分とか立場に囚われ過ぎだ。幸い、シェリアちゃんは婚約者だぞ。想いを告げるのに何の障害もない」
俺は複雑になった。俺がシェリアを好きになっても。将来、彼女を好きで居続けられるか保証がない。そう、アリシアーナが現れたら。俺はきっとシェアに酷い事をしてしまう。
「……俺は。シェリアに想いを伝えたって。あの子に酷い事をしてしまう。傷つける事しかできない」
「……エリック」
「ごめんなさい。今はいい。だけど。アリシアーナ。彼女が現れたら。俺は自身を見失う可能性が高いんだ」
俺の話を聞いた親父は沈痛な表情になる。
「なら。エリック。そのアリシアーナを探す事はできるか?」
「……探す?」
「今の内に憂いの種は潰すに限る。アリシアーナの情報を教えてくれ。お前が知り得る限りでな」
親父はニヤリと笑った。俺は親父の言わんとしている事が読み切れず、ただ茫然とするしかない。
「……確か。アリシアーナは俺やシェリアと同い年だったはずだ」
「ふむ。成程」
「んで。今は平民のはずだが。今から2年後にフェンディ子爵の庶子だとわかって引き取られる。外見は……」
俺はポツポツとアリシアーナに関する情報を告げていく。親父はそれをサラサラと紙に書き記していった。
「よし。アリシアーナに関しての聞き取り表はできたぞ。後はもっと詳しい事を調べるだけだ」
「父上?!」
「エリック。アリシアーナを今の内にこちらの陣営に引っ張り込め。そうだな。シェリアちゃんのフィーラ公爵家か。我が王妃であるエリザベートのセリエス公爵家にでもメイド見習いとして雇わせようか」
親父がとんでもない事を言い出した。ジュリアスは苦笑いだが。
「要は。アリシアーナに勝手な動きをさせないようにするためだ。まあ、会ってみない事には始まらんがな」
「はあ」
「ジュリアス。まずはアリシアーナについて部下に調べさせろ。早めに彼女の身柄を確保して。セリエス公爵に預かってくれるように頼んでみる」
「……承知しました。陛下」
「エリック。お前にも言っておく。アリシアーナはもしかすると。魅了魔法の使い手かもしれん。後は精神干渉系のな。それの対策についてはフィーラ公爵と夫人に訊いてみるといい」
「……わかった。ありがとう。親父」
親父――国王はニヤリと笑った。椅子から立ち上がると目の前までやってくる。ぐしゃぐしゃと髪を混ぜるように頭を撫でられた。
「泣くな。まだまだこれからだぞ」
「はい」
「エリック。お前が打ち明けてくれたから。こちらも色々と動く事ができる。が、なるべく何かあったら。早めに言ってくれよ」
俺は頷いた。親父はクシャリとまた頭を撫でる。乾いているがゴツゴツした剣だこのある大きな手。温かいこの手に不思議と安心できる。親父の肩にはフォルド国の何万人といえる国民の命や生活がのしかかっているのだ。俺がいずれはそれを引き継ぐ。気合いを入れ直すのだった。




