83話
俺とシェリアが陽月華の呪文を唱えた後、真っ黒だった泉は次第にオレンジ色に変わった。
眩い光が収まってから目を開けたら確かにオレンジ色になっていたのだ。が、不思議な事にオレンジから黄色、白へと瞬く間に変わる。
「……エリック様。泉が浄化されたようですね」
「みたいだな。陽月華にこんな効果があるとはね」
「わたくしも驚きました。アタラ神様に感謝ですわね」
だなと頷く。シェリアは繋いでいた手を離すと泉に突き刺していた月光剣を抜いた。そのまま鞘に納める。俺も同じようにして突き刺していた太陽剣を鞘に納めた。とりあえずはスタンピードがどうなったかを見に行く必要があるな。そう思ってシェリアを見た。
「……シェリア。今から皆の所に戻ろう。ちょっとあの後にどうなったのか心配だし」
「そうですね。戻りましょう」
互いに頷きあうと俺が前に出て歩き出す。シェリアと2人で仲間達の元へ戻った。
泉から拓けた所に出る。仲間達――一番先頭にいたジュリアスやラウルの姿が見えた。俺やシェリアが大きく手を振るとラウルの方が気づいたらしい。
「……エリック。それにシェリア殿。無事だったんだな!」
「ああ。ラウル叔父上達も無事で何よりだよ!」
「スタンピードがつい先程に急に収まったんだ。何が起こったのかと皆で思っていたんだがな」
ラウルが言うとジュリアスが頷いた。
「……ええ。エリック様。シェリア様。何があったのでしょうか。もしご存知なら教えてください!」
「うーんと。わかった。けど今はここを離れよう。またいつ何が現れるかわからんしな」
「そうですね。では。皆を呼んできます。少々お待ちください」
ジュリアスはそう言うと他のメンバーや騎士団の面々を呼びに行く。残ったラウルは近づくと俺の肩に手を置いた。
「もしかして。エリック。お前、何かしたか?」
「……したのはしたかな。その。シェリアと一緒にスタンピードの発生源の泉に行ったんだ」
「それは本当か?!」
仕方ないので頷く。シェリアは黙って何かを考えているようだ。
「……ああ。スタンピードに対応しようとしたら。不意打ちで太陽神のお声が聞こえてな。さっきにいた泉を封じて清めてほしいと言われたんだ」
「成程。それで2人が宙を浮いていたわけか」
「見られてたのな。宙を浮いていたのは太陽神のお力だよ」
俺が言うとラウルは目を見開いた。しばらく無言になる。
「……そうか。とりあえず、ジュリアスさんが来たみたいだし。詳しい話は後だ」
「わかった。シェリア。行こう」
考え込んでいたシェリアに声をかけた。少しぼんやりとしていたが。俺が再度呼びかけたら我に返ったらしい。
「……あ。すみません。話を聞いていなくて」
「……ここは危険だから離れようとラウルと話してたんだよ。ジュリアスは騎士団の第一部隊を呼びに行っている。もう戻ってきたみたいだが」
「本当ですわね。行きましょうか。エリック様」
シェリアが言ってきたので頷く。2人で手を繋いでラウルと一緒にジュリアスの元へ行った。
その後、ラーリの町を離れた。住民達からは感謝されて僅かばかりだがと言って干し肉や干芋などの保存食をもらった。しかも俺などの主要メンバーに加えて第一部隊の全員にもだ。皆で礼を述べて出立をした。
ラーリの町から王都までは馬で5日はかかる。けど。馬はたっぷりと休養をとり、水や牧草などを与えられているからかその足取りは軽い。俺は後ろに乗っているシェリアと話した。
「……スタンピードが収まって良かったよ」
「本当ですわね」
「後は王都に帰るだけだ。けど。気は抜けないな」
俺が言うとシェリアは頷く。
「ええ。いついかなる時も気を引き締めた方がいいですわ」
「だな。シェリア。王都に帰れたら神官長方に頼んで休みをもらいな。最低でも2、3日はゆっくりした方がいいぞ」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
シェリアが言うと俺は手綱を握りしめた。青く澄み渡った空を見上げた。
5日が経って王都に戻れた。親父――国王やお袋もとい王妃、宰相など錚々たるメンバーが出迎える。
「……エリック。シェリア殿。それに皆も。よくぞ無事に戻ったな」
「……父上。いえ。陛下。只今戻りました。馬上での挨拶をお許しください」
「構わぬよ。皆、疲れたろう。こちらでまずはゆるりと休んでくれ。フィーラ公。並びに夫人。ウィリアムス騎士団長。それにジュリアス副団長。我が息子や弟を守り導き、共によく戦ってくれた。第一部隊の皆も大儀であったな」
親父が厳かに言うと皆が馬上ではあるが深々と礼をした。親父は鷹揚に頷く。やり取りが終わるとお袋が真っ先に俺の所にやってきた。
「……エリック。よく頑張ったわね。シェリアさんもお疲れ様」
「……母上。ご心配をおかけしました。まずは馬から降りてもいいでしょうか?」
「いいわよ。悪いわね。また後であなたの部屋に行くわ」
「はい。ジュリアスと一緒に厩舎に行ってきます」
「ええ。シェリアさんも厩舎に行ってきなさいな」
「はい。一旦失礼します。王妃陛下」
シェリアが言うとお袋はにっこりと笑う。手を振りながら王宮の中へ戻っていった。




