番外編 シェリアちゃん&エリック君のホワイトクリスマスイブ
わたくしは今年で8歳になっていた。
フォルド王国を守護するという月の聖女に選ばれてから早くも2年が経とうとしている。対の光の神子のエリック・フォルド王太子はわたくしの婚約者でもあった。年齢は同い年の8歳だ。そんな彼からこの年の十二の月の下旬頃に贈り物が届いた。
緑色の包装紙に赤いリボンが結ばれた両手で抱えられる程の大きさの箱だ。そういえば、今日は十二の月の二十四日だったかしら。不思議に思いながらもリボンを解き、包装紙を破る。
中には1通の手紙と丁寧に折り畳まれたマフラー、ショールがあった。下には柊の葉が刺繍されたハンケチーフや手袋もある。わたくしがどれも好きな色で揃えてあった。マフラーやショールは薄いオレンジ色、ハンケチーフが落ち着いた赤色、手袋はわたくしの髪と同じの深みのある藍色だ。しかも瞳と同じ琥珀のペンダントも入れてある。これには目尻に涙が浮かんだ。手紙を取り、読んでみた。
<シェリアへ
元気かな?
もう冬も本格的になってきた。トーマス兄貴もやたらと君の事を心配していて。
俺も君が風邪をひいていないかとか色々と気になってな。
そこで母上――王妃に相談してみたんだ。
そしたら、「冬に使う防寒具やお守りになりそうな物を贈ったら?」って勧めてくれた。
んで、母上に編み物のやり方を教わりながらマフラーや手袋を作ってみた。
君にいつかの時にハンケチーフやペンダントをもらったよな?
今でも大事に使っているんだ。
せめてお礼にと作った編み物と母上と一緒にだが選んだショールやペンダントも合わせて贈らせてもらうよ。
敬愛する婚約者殿へ
エリック・フォルド>
手紙にはそう書いてあった。わたくしは心がじんわりと暖かくなるのがわかる。エリック様は心配してこれらを贈ってくれたのか。不思議と嬉し涙が出てくる。お返事をどう書こうか考えた。
翌日、エリック様に会いに王宮へ出向いた。馬車に兄様と一緒に乗り込む。手紙を書こうかと考えたが。直接伝えた方がいいかなと思い、わたくしはメイアと一緒に仕上げた宿り木の刺繍が施されたハンケチーフを小さなカバンに入れていた。それを知らない間にギュッと握りしめていたが。兄様が苦笑いしたのですぐに手を離した。
「……シェリア。緊張しているな」
「ええ。喜んでいただけるか不安で」
「大丈夫だよ。エリック君はお前の作った物なら喜ぶに決まってる」
兄様はそう言うと手を伸ばして頭を優しく撫でる。髪が乱れないようにその手つきはらしくなく丁寧だ。ちょっと嬉しくなったのは内緒だけど。
馬車から降りたら王宮の入口付近でエリック様がジュリアスさん達と待ち構えていた。兄様と2人ですぐに礼を取る。兄様が騎士の礼をしてわたくしは淑女の礼――カーテシーをした。けど。エリック様は近づくとわたくしの肩に触れる。
「2人とも。そんな堅苦しい挨拶はいいから。トーマス殿は叔父上が客室で待っているからそちらに行って。シェリアは俺と一緒に来てくれ」
「……わかりました。では。後程。殿下」
「ああ。シェリア。行こうか」
わたくしはカーテシーを解くと顔を上げた。エリック様は手を差し出す。それに自らのそれを乗せる。キュッと握られた。ゆっくりと雪が降りしきり空気が冷え込む中を歩いた。
エリック様の私室に着くと早速、カバンからハンケチーフを取り出す。彼にそっと差し出した。
「……あの。昨日は贈り物をありがとうございました。これはせめてものお礼ですわ」
「……これは。ハンケチーフかな」
「はい。宿り木の刺繍をメイドのメイアと一緒に作りましたの。あまり上手くはありませんけど」
顔に熱が集まるのを感じながら何とか言った。エリック様は綺麗な蒼の瞳を見開きながらハンケチーフを食い入るように見つめる。少し経ってからそっと受け取ってくれた。
「……いや。昨日のあれはクリスマス・イブのプレゼントのつもりだったんだがな。まあ。喜んでもらえたみたいだし。ありがとう」
「……受け取ってくださいますのね。良かったです」
わたくしはそれだけ言うと目から何でか涙が出てきてヒックとしゃくりあげた。急いでスカートのポケットからハンケチーフを出して目元を拭う。けど次から次へと涙が出て止まってくれない。
「シェリア。あの。泣かないでくれ」
「……うう。どまっでぐれないのですわ!」
「そうか。嬉し涙といったとこかな」
エリック様がぴったりな事を言う。わたくしはしまいにはエリック様にしがみつく。わぁわぁと声をあげながら泣いた。優しく抱きしめられながらだが。背中を撫でる温かい手に余計に涙腺は緩むのだった。
夜になり王宮に泊まる事になった。エリック様は自室の浴室をわたくしに使うように勧めてくれる。有難く使わせてもらった。乳母であるリアナさんや他のメイド達が甲斐甲斐しくお世話をしてくれた。お風呂から上がるとエリック様が温風魔法で髪を乾かしてくれる。しかも香油を塗り込みながらブラシで梳く事すらやってもらう。エリック様は意外と慣れた手付きだ。いつも驚かされてしまう。
「……終わったぞ。後でリアナに瞼の辺りを冷やしてもらいな」
「わかりました。いつもすみません」
「気にすんな。さ、湯冷めしない内に行ってきたらいい」
わたくしは鏡台の椅子から立ち上がるとリアナさんの元に行く。瞼を冷水に浸したタオルで冷やしてもらい、しばらく待った。腫れが収まるとそのまま寝室に行った。
「……あ。シェリア。だいぶ、腫れがひいたな」
「はい。あの。もう寝ませんか?」
「だな。シェリアが来るまで待ってたんだ」
エリック様は穏やかに笑いながら言った。手招きをされてベッドに向かう。不意に額に軽くキスをされた。
「……じゃあ。お休み。シェリア」
「はい。お休みなさい。エリック様」
2人でそう言い合ってベッドに入る。しんしんと雪が降る夜に眠りにつく。エリック様が「ホワイトクリスマスだな」と呟いた。それにふふっと笑いながら寄り添うのだった。
――終わり――
メリークリスマス・イブ!




