80話
俺は翌朝、割と早い時間に目が覚めた。
シェリアはまだ寝ている。うーむ。今は何時だろう。ぼんやりとそう思いながらまだ眠い目を擦った。布団や毛布を捲ってそろりと床に降りる。ぶるりと身体が震えた。あ、まだ初春だった。そりゃあ寒いはずだな。独り言ちながらブーツを探す。
見つけるとそろそろと履いた。シェリアはまだ目覚めない。仕方ない。先に身支度を済ませてしまおう。そう決めて麻袋から歯磨きセットなどを出したのだった。
洗面所に行ってまずは歯磨きをした。シャコシャコと無心でひたすら磨く。泡が口からはみ出るが気にしない。前歯や奥歯を念入りにしながら裏側などもしていった。そうしてから木のコップに入った水を口に含んで濯いだ。何度かそうして歯ブラシも一緒に洗った。木のコップもゆすいで歯磨きを終える。洗顔も終えたらタオルで水気を拭く。髪をブラシで整えた。よし。身支度は済ませたな。シェリアを起こしに行くか。
意気込みながら部屋に戻った。
こうしてシェリアを起こした。最初は「もうちょっと寝かせて」とか言っていたが。仕方なく布団や毛布を剥ぎ取る。数分後にシェリアはやっと目が覚めた。
「……うう。寒い」
「……おはよう。シェリア」
にっこりと笑いながら声をかける。シェリアは目を見開きながらも固まった。
「……お、おはようございます。エリック様」
「ああ。俺は身支度を済ませたから。シェリアも今からするといいよ」
「わかりました」
シェリアは頷くと俺が麻袋から出した歯磨きセットなどを受け取る。そのまま、洗面所へ行った。俺は見送りながらも荷物の整理などをしたのだった。
シェリアが身支度を終える頃には午前7時くらいにはなっていた。そろそろ、他のメンバーも朝食をとりに行く時間帯だ。俺は声をかけてから荷物をベッドの脇に置く。シェリアはまだ少し眠そうだが。俺は仕方ないと立ち上がる。麻袋からブラシと香油、髪紐を出した。実はリアナが持たせてくれたものだ。
「……シェリア。髪の毛を整えるから。そっちの椅子に座ってくれ」
「……わかりました。すみません」
謝られたが。頷くに留めた。椅子にシェリアは言ったように座る。ちなみにベッドの横にあったものだ。俺は香油が入った小瓶の蓋を開けた。キュポンと音が鳴る。中身を手のひらに適量を出して髪に塗り込んでいく。割とベタベタしているが香りはカモミールで爽やかな感じだ。全体的に塗り込めたらサイドテーブルに小瓶を置いた。ブラシを手に取ってひたすら梳いていく。梳けば梳く程、髪に艶が増していった。一通りできたらサイドを編み込んで後ろに持っていく。髪紐で括る。
「ごめんな。一応、ハーフアップにはしてみたんだが。これで我慢してくれ」
「構いません。むしろ、エリック様にはお手数をおかけします」
「……そう言ってもらえると助かるよ」
俺はそう言ってからシェリアの肩を軽く叩いた。
「んじゃ。シェリアの身支度も完了したし。髪結いの道具類を仕舞ったら食堂に行こう」
「はい」
俺は急いで麻袋に道具類を仕舞い込んだ。それを終えたら2人で部屋を出たのだった。
廊下に出るとジュリアスやクォンなどお馴染みのメンバーにラウルやトーマス兄貴、騎士団で数少ない女性騎士3人など8名が待ち構えていた。俺はジュリアスにまず声をかける。
「……おはよう。ジュリアス。それに皆も」
「おはようございます。今日から女性騎士がシェリア様の護衛を致します。皆、挨拶を」
「はっ。わかりました。団長」
女性騎士3人組の内、左側にいた1人が敬礼しながら返答する。次にシェリアの方を向いた。
「……初めまして。今日からフィーラ公爵令嬢の護衛を仰せつかりました。名をリリス・アンバーと申します。よろしくお願いします」
「はい。リリスさんですね。わたくしの方こそよろしくお願いしますわ」
「……次に私の右側で真ん中にいるのがルーシー・イェソン、右端がローリエ・ウォルターと言います。2人共、挨拶を!」
「はっ。隊長のご紹介にあずかりました。あたしがルーシー・イェソンです。以後お見知りおきを」
「最後にあたくしがローリエ・ウォルターです。よろしくお願い致します」
1番左側にいる隊長であるらしいリリスは背が高くまっすぐな茶色の髪を高い位置で纏めてキリッとした目鼻立ちをしている。体格はガッチリしていて女性ながらに威厳を感じられた。年齢は30歳前後だろうか。真ん中のルーシーは背が高いのはリリスと似た感じだが。軽くウェーブが掛かった赤毛を短く切り揃えてボーイッシュな感じだが。優しげな目鼻立ちだ。体格はすらりとしていて柔和な雰囲気である。年齢は25歳くらいか。
1番右側のローリエは背が平均的でまっすぐな黒髪を肩まで伸ばして後ろに一束ねにしていた。目鼻立ちは3人の中で1番綺麗だ。けど少しつり目で冷たく感じられる。体格も華奢な感じだが。年齢はまだ20歳くらいかもしれない。
「自己紹介をわざわざありがとうございます。リリスさん、ルーシーさん、ローリエさん。これから改めてお願いします」
「「「はい!」」」
挨拶は終わった。俺はシェリアの手を握る。
「……んじゃ。行くとするか」
「ええ。行きましょう」
互いに頷き合うと皆で食堂に行く。シェリアが嬉しそうに笑っているのにほっと胸を撫で下ろしたのだった。




