78話
俺がスタンピードを矢恵さんに聞いてから1ヶ月が経っていた。
俺やシェリア、ジュリアスにエル、クォン、ラウルにトーマス兄貴、オズワルドにカーティス、ウィリー、ウィリアムス師とこのメンバーはお馴染みになったが。念の為にと親父――陛下からの命で近衛騎士団の第1部隊の連中が派遣されていた。
第1部隊隊長はジュリアスだ。国の騎士達の中でも1番の実力を誇る隊が同行している。俺はスタンピードをなめていたなと実感させられた。矢恵さんが聞いたら「しゃきっとしなさい!」と言われそうだが。とりあえずはスタンピードが実際に起こったとされる町――ラーリに向かう。
俺も1人で馬に乗れるようになっている。2年前から猛特訓して今に至っていた。シェリアを後ろに乗せているが。念の為に俺に何かあったら兄貴かジュリアスの方に行くようには言ってある。
「エリック様。スタンピードが起こったのはフォルド国の南部にある町だと聞きましたわ。ラリーと言うそうですけど」
「ああ。ラリーは王都からだと馬で片道1週間はかかるらしいな。いくら俺がいても危ないのには変わらない。シェリア。何かあったらジュリアスかトーマス兄貴の方に行けよ」
「……わかりましたわ。エリック様」
シェリアは真面目な顔で頷いた。俺は馬の手綱を改めて握りしめる。背中にシェリアの温もりと重みを感じながらも決意を新たにした。
半日が過ぎて夕方になっている。今夜は王都の北側にある村で泊まる事になった。といっても第1部隊も一緒なために宿屋だけでは部屋数が足りない。仕方ないので近くの民家にも頼み込み、騎士達を泊まらせてもらった。8戸程の民家の家主が協力を申し出てくれる。1戸につき、4人ずつ泊まらせてくれた。俺は一戸ずつ礼を言いに行った。家主達は「この国を守っている騎士さん達なら構いませんよ」と言っていた。大いに感謝したのは言うまでもない。
宿屋にてシェリアを1人にさせるのも危ないので俺と2人部屋になった。必然といえるだろうな。役得とはいうまい。
「……エリック様。着替える時はいいとしても。お風呂はどうしましょう?」
「……お風呂は騎士団に女性騎士がいたはずだから。彼女達と一緒に入ったらいいだろうな」
「そうなのですか。あの。着替えの時は……」
「あー。その時は言ってくれ。部屋を出るから」
「わかりました。すみません」
シェリアは照れながらも謝った。俺も頬に熱が集まるのがわかる。一応、俺は男なわけで。決して他意はないんだが。ちょっとこっ恥ずかしくはある。2人でしばらくは無言でいた。
シェリアは第1部隊に所属する女性騎士の5人組と一緒にお風呂――大衆浴場に行った。ちなみにちょっと離れた所にはクォンの使い魔もいる。見張り兼護衛をしてもらっていた。シェリアがいない間は暇なので荷物の整理をする。ガサゴソと麻袋を探った。とりあえず、足りない物はなさそうだ。何回も野営を経験したからか普通の王子にはあり得ない程に俺の手際は良くなっていた。何がって?
まあ、荷物の整理やチェックについてだが。それにしたってシェリアはまだかな。ぼうっとしながら待ったのだった。
1時間くらいでシェリアは戻ってきた。髪はすっかり乾いている。
「……お帰り。シェリア」
「はい。ただいま戻りました。エリック様」
「ん。お風呂はすませてきたんだな。じゃあ、俺も行ってくるよ」
「はい。わたくしはこちらで待っていますわ」
「だな。もし、女性騎士が声をかけてきたら構わずに行ってくれたらいい。腹も減るだろうし」
俺が言うとシェリアは頷いた。とりあえず、石鹸やタオルなどのお風呂セット、着替えを濡れても大丈夫な油紙で作られた袋に入れた。洗面器は手で持って部屋を出る。既にジュリアスやエル、クォン、ラウルにトーマス兄貴が待っていた。
「エリック様。風呂に行きましょうか?」
「ああ。そう思っていたところだ。行こうか」
「ええ。皆、行くぞ」
ジュリアスの掛け声に他のメンバーも頷く。俺も付いて行った。
大衆浴場に行くと俺は意外にもクォンに脱衣場にてどうするかを改めてレクチャーしてもらう。まあ、行った事はあるんだが。それでもいつもではない。なのでクォンは丁寧に教えてくれる。
「……まずは。この棚にある籠に脱いだ衣服を入れる。んで油紙の袋に入浴用の道具はあるだろ?」
「ああ。持ってきたよ」
「じゃあ。着替えは籠にひとまず入れて。その道具と洗面器だけを持って浴場に行くんだ」
「わかった」
「あ。とりあえず、頭と身体は浴槽に浸かる前に洗えよ。タオルや洗面器を浴槽に入れたりはするな。近くに置いとけばいいから」
「……石鹸なんかも浴槽には入れないから安心してくれ」
「……当たり前だけどな」
呆れた目で見られながらも浴場に入る。椅子が置いてあったのでそちらに座った。シャワーがちゃんとあったので洗面器やタオルなどは近くに置く。まずはシャワーの蛇口からお湯を出す。捻り口があるからそれを捻り温度を見た。ちょっと熱いか。そう思って水色の線の所に温度のレバーを動かす。丁度いい感じになったので髪をすすぎ、シャンプーをしたのだった。




