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76話

 俺はその後、夕方になったのでシェリアを起こした。


 けどシェリアはまだ眠そうだ。それになんだか頬が赤くなっている。ちょっと謝りながら額に触れたら。かなり熱かった。


「……あっつ。シェリア、熱が出ているじゃないか。とりあえずは誰かを呼ばないと!」


 俺は急いでシェリアをベッドに寝かせると寝室を出る。控え室にいるはずのリアナを呼びに行く。


「……リアナ、リアナ!いるか?!」


 控え室のドアの前まで行って大声で呼びかけた。するとドアが開かれてリアナが驚いた表情で出てきた。


「……まあ。殿下。どうかしましたか?」


「……実は。さっき、シェリアの様子がおかしかったから額に触れてみたんだが。かなり熱くてな。どうやら高熱が出たみたいだ」


「えっ。シェリア様が高熱ですか?!」


「そうだ。すぐに医者を呼んで来てくれ!!」


「わ、わかりました。少々お待ちください!」


 リアナは慌てて控え室を出て医者を呼びに行ってくれる。俺は中にいる矢恵さんに呼びかけた。


(……矢恵さん。こういう時はどうしたらいい?)


『……高熱が出たのならすぐに洗面器に冷たい水を入れて。タオルも用意したらいいわ。後は。経口補水液を作ってもらってね』


(ケイコウ、ホスイエキ……?)


『経口補水液っていうのはね。まあ、簡単に言えば。発熱した際やお腹を壊した時なんかに補給する飲み物の事よ。お砂糖と塩、レモン果汁、水さえあったらできるわ』


(そうなのか。じゃあ、他のメイドにも知らせないとな)


『そうしたらいいわ。分量を詳しく教えるから厨房に行きましょ』


 俺は仕方なく頷いた。リアナが戻ってきたので厨房に連れて行ってほしいと頼んでみる。最初は驚かれたが。それでも経口補水液を作りたいと言って簡単に説明をしたら。ジュリアスを呼ぶように他のメイドに指示を出してくれた。その間にリアナは寝室へ行き、シェリアの様子を見に行ったらしい。


「……殿下。シェリア様の看病は私にお任せください。ケイコウホスイエキでしたか。それを作ってらしたらすぐに戻ってきてくださいまし」


「わかった。頼む」


「さ。皆、シェリア様のお着替えやらやる事はいっぱいありますよ。殿下がいらっしゃらない間は私共でシェリア様をお守りせねば!」


「「「はい!」」」


 メイド達が皆、一斉に言った。俺は面食らいながらもジュリアスが来るのを待った。


 少ししてジュリアスがやってくる。急いで来たのか肩を揺らしてゼイゼイと息が上がってしまっていた。


「……で、殿下。リアナ殿から急の用ができたと言伝があって。それで来ましたが」


「ああ。悪いな。シェリアが熱を出してしまったんだ。今から経口補水液を作りに行きたいから。厨房に案内してほしいんだが」


「……はあ。シェリア様が熱をですか。わかりました。案内します」


 ジュリアスは頷くとすぐに俺にも付いてくるように促した。本当に根掘り葉掘り聞かずにいてくれるので俺としては助かる。広い王宮の中を速足で歩いて厨房に向かう。20分は歩いたろうか。やっとの事でたどり着く。


「……料理長に厨房の一角を借りられるように頼んできます。少々お待ちください」


「わかった。俺はここで待ってるよ」


「では。一旦、失礼します」


 ジュリアスは踵を返して厨房の中に入る。俺はどうしたもんかなと思いながら待った。


 5分もしない内にジュリアスが戻ってきた。にっこりと笑っている。


「殿下。料理長が良いとの事です。代わりに自分が側にいて手伝うとも言っていますが」


「わかった。料理長がそう言うんなら従うまでだ。スープかパン粥でも用意してくれるように俺からも言うよ」


「そうですね。では行きましょう」


 ジュリアスと2人で厨房に入った。中では晩餐用の料理を作るために料理人達が忙しく立ち働いている。それを掻い潜るように行くと背の高いがっしりとした中年とおぼしきおっちゃんが待ち構えていた。ジュリアスによるとこのおっちゃんが料理長らしい。


「……待っていましたよ。今からケイコウホスイエキなるものを作りたいとか。わしも手伝いをさせていただけると嬉しいんですがね」


「……はあ。料理長、俺が作るのはそんなに難しいもんじゃない。そうだなあ。早速で悪いが。まずは水――一回は煮沸させているのと。塩と砂糖、レモンを用意させてくれないか?」


「成程。わかりました。わしが用意するので待っていてください」


 頷くと料理長は魔導保冷庫に行ってレモンを取ってきたり水を用意したりとテキパキと動く。最後に塩と砂糖を準備する。俺はレモン汁の絞り器や泡立て器、ボウル、計量カップも用意してほしいと言った。目を丸くしながらも若い料理人がこちらを用意してくれる。


「……よし。道具は揃ったな。手を洗うから流し台を使わせてくれ」


「はい。そうですな」


 流し台に行ってざざっと手を洗った。タオルで水気を拭いたら調理台に向かう。まずは水を矢恵さんの指示通りに計ってボウルに入れた。次にレモンを絞り器にかけてグリグリと回転させながら果汁を絞る。砂糖を計量スプーンの中さじですり切り5杯くらい、水の中に入れた。塩は小さじの方で1杯だけ加える。最後にレモン果汁を入れたら泡立て器でひたすら混ぜた。とろみがついて混ぜきったら水差しに入れてマグカップも用意した。


「よし。できた。料理長、スープかパン粥みたいに食べやすい料理も頼む」


「もちろん。お安い御用です」


 俺は水差しなどを乗せたトレーをジュリアスに持ってもらう。料理長に礼を言って厨房を後にした。

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