表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/118

73話

 翌日からクォンも護衛に正式に加わった。


 身分は騎士見習いだが。特別に王太子の護衛として側に付き従うのを許されたのだ。クォンは「殿下の父君ってなかなかに食えないところがあるな」と言っていたが。俺は曖昧に笑うに留めておいた。そんなこんなでさらに俺の周りは賑やかになった……。


 もう時の流れは早いもので季節は冬になっている。俺やシェリアや護衛のジュリアス、エルにクォン、オズワルド、アンジュの7人で庭園をそぞろ歩く。シェリアは俺に右手を握った上で引かれながら歩いている。アンジュはジュリアスに抱っこされていた。去年にもこういった光景を見たような。さくさくと薄っすらと地面に積もった雪を踏みしめた。


「……それにしても寒いですわね」


「そうだな。シェリア、体調が悪くなったらすぐに言ってくれよ」


「わかりました」


 シェリアが頷くのを見て俺は再び前を向いた。アンジュは相変わらず、ジュリアスに抱っこされて顔を赤らめている。そりゃそうだろう。ジュリアスに自覚はあるか知らないが。結構な美男だからなあ。さすがに攻略対象キャラの兄なだけはある。とか、頭の中で考えていた。


「……エリック様。あの」


「……どうした?」


「去年みたいに雪遊びをしたいのですけど」


 シェリアがおずおずと言ってきた。うーむ、可愛いな。おい。くだらない事を胸中で呟いた。


「……雪遊びか。いいぞ。ちょっと待っててくれな」


「……エリック様?」


 シェリアがこてんと首を傾げる。ジュリアスはアンジュを地面に降ろした。


「……ありがとうございます。ジュリアス様」


「いや。礼はいいよ。アンジュちゃんが転けると危ないしな」


 実はジュリアスってロリータ・コンプレックス――ロリコンじゃなかろうな。俺は密かに思った。まあ、アンジュが嫌じゃなかったらいいんだが。けど母であるリアナが黙っちゃいないだろう。アンジュはまだ7歳。ジュリアスはもう25歳だし。もし、アンジュが成人の年である18歳になったら。ジュリアスは36歳かあ。うん。既にオジちゃんの仲間入りだ。


「……殿下。なんか、くだらない事を考えていませんか?」


「いんや。何も考えていないぞ」


 クォンに言われて俺は焦った。こいつ、なんつー勘がいいんだ。仕方ないのでシェリアの方を向いた。


「シェリア。ちょっとこっちに来てくれ」


「はい」


 俺は手招きをすると雪を両手に掬う。それをギュッギュッと固めた。両手に乗るくらいの大きさにすると一旦地面に置く。急いで木々の中に入り南天の実や葉っぱを取ってきた。地面に置いた雪の塊に実を押し込み、葉っぱを縦に突き刺した。雪兎の出来上がりだ。


「あ。去年に作っていただいたユキウサギですわね」


「そうだ。作り方を教えるからさ。シェリアも作ってみたらどうだ?」


「わかりました。作ってみますわ」


 シェリアはそう言うと早速に雪を手に取る。俺は力を入れて固めるように言う。


「……ギュッギュッと手に力を入れてみな」


「……こうでしょうか?」


 初めてにしては上手にシェリアは雪を固めてみせた。それをさらに両手でもう少し固めたらいいとも教える。地面にその塊を置いたら俺は余った南天の実や葉っぱを彼女に手渡す。


「……まあ。これをどうするんですの?」


「まず、赤い実を塊の先っちょ辺りに押し込んで。それから葉っぱを上にさすんだ。そしたら完成だな」


「わかりましたわ。えっと」


 シェリアは俺に言われたように南天の実を塊の先っちょに押し込んだ。2つをそうすると少し位置がずれたが。つぶらな目になった。葉っぱを上側にさすと不格好ながらも雪兎が出来上がった。


「……ふふっ。ちょっと下手にできましたけど。可愛らしいですわね」


「だろ。初めてにしては綺麗にできたもんだぞ」


「ありがとうございます。わたくし、邸に帰ったらもっと上手にできるように練習しますわ」


 シェリアはにっこりと笑って言った。が、俺は苦笑いする。


「……程ほどにな」


「はい。風邪をひかないようには気をつけます」


 俺は頷くと自分のマフラーを解いてシェリアの首に巻き付けた。


「エ、エリック様?!」


「シェリア。君、マフラーを忘れてるだろ。なんで巻いてないのかずっと気になっていたんだぞ」


「……ごめんなさい。いらないと思ったんです」


 俺はふうと息をついた。シェリアは一昨年辺りに自分が風邪をひいたのを忘れているのだろうか。


「シェリア。ちょっと自分を過信し過ぎだ。俺は男だからいいけど。君はまだ7歳の女の子なんだからな」


「……エリック様。それでしたらアンジュさんも同じでしょう」


「あの子はジュリアスがいるからいいんだよ。シェリアに何かあったら兄貴に締め上げられるしな」


 そう言うとシェリアはトーマス兄貴の事を思い出したらしい。確かにと頷いた。


「……そうでしたわね。兄様ならわたくしに何かあったら。エリック様を責め立てそうです」


「うん。確実にな」


 互いに頷き合う。シェリアもトーマス兄貴のシスコンぶりには何か思うところがあるらしい。俺に「兄様にはエリック様を締め上げないように言っておきますわ」と言ってくれたのだった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ