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72話

 クォンは神官長――爺さんを見てにっと笑った。


「……神官長には色々とお世話になりましたから。けど。殿下に怪我の一つでもさせたら。その時は覚悟しておいてくださいよ」


「……ほほう。儂になかなかな口をきくのう。クォン」


 爺さんも片眉を器用に上げるとクォンとしばらく睨み合う。静かに時は過ぎていくかに見えたが。それを破ったのはエルだった。


「クォン。神官長はこう見えてかなりの魔術の使い手だ。あんまり挑発はしない方が賢明だぞ」


「へえ。そうなのか。なら余計に面白いな」


「……二人とも。そこまでにしておけ。殿下やシェリア様の前だぞ」


「……ジュリアスさんの言う事なら聞きますよ」


「わかったよ。ジュリアスの言う通りだな」


 三人が三様で言いつつも納得は皆したらしい。俺やシェリアの方を向いた。


「とにかく怪我がなくてようございました。戻りましょうか。殿下」


「……そうだな。シェリアを迎えに来たのが目的だったし」


「ええ。シェリア様もご無事で何よりです」


「いえ。ジュリアス殿、わたくしの事まで気にしてもらい、ありがとうございます」


 シェリアが礼を言うとジュリアスは穏やかに笑った。まるで先ほどの光景が嘘のようだが。


「んじゃ。行こうか。神官長。失礼します」


「……失礼致します。神官長様」


「……ええ。道中お気をつけて」


 皆で神官長に一礼する。礼拝堂を後にした。


 その後、シェリアを迎えに来たトーマス兄貴やシンディー様と久しぶりに会った。二人とも元気そうだ。


「……お久しぶりです。殿下」


「久しぶりです。トーマス殿」


「あら。お久しぶりですわ。お元気そうでよろしゅうございました」


「はい。先日はお世話になりました。シンディー様」


「母様、兄様。お迎えに来てくださったのね」


 二人と挨拶を交わしていたらシェリアがやってきた。ちなみに俺の部屋にある浴室で入浴済みだ。髪も乾かしてちゃんと束ねているし服もリアナ達が選んで着替えさせてくれた。シェリアが今着ている淡い水色の半袖のワンピースは母――お袋が選んで用意させたものだ。


「……シェリア。良かった。鍛錬や稽古は終わったんだな」


「はい。王妃様や神官長様方が早めに終われるようにしてくださいました」


「そうか。王妃様方には感謝しないとな」


 トーマス兄貴はそう言うと優しく笑った。シェリアの頭に手を伸ばすとポンポンと軽く撫でる。いいなあ。俺もああ言う風にシェリアに触りたい。まー、そんな事をしようもんなら兄貴+ラウルに締め上げられるだろうが。


「……殿下。何やら物憂いお顔だこと。なにかありまして?」


「……いえ。何もありません」


「そうなのですか。ならいいのですけど」


 シンディー様の観察眼にはちょっと驚かされる。さすがに女性は鋭い。俺は咳払いをしてごまかした。


「……えっと。じゃあ。また明日に会おうな。シェリア」


「はい。お迎えやお見送りとありがとうございました。明日、また来ますわね。エリック様」


「娘に並び、本当にいつもありがとうございます。殿下のご厚意には感謝してもしきれません」


「ええ。それでは。殿下、失礼致します」


 トーマス兄貴がそう言うと三人は馬車に乗り込んだ。御者が扉を閉める。台に乗って手綱を引くと馬が駆け出した。馬車が動き、王城の門を去っていった。


 俺はふうと息をつくと自室に戻るために歩き出す。ジュリアスとクォンが一緒だ。エルは親父に呼び出されてこの場にはいない。


「……殿下。シェリア様、以前よりもまた可愛くなってましたね」


「……クォン」


「これくらいはいーでしょ。ジュリアスさんは堅いんだからなあ」


 クォンが言うとジュリアスが睨みつけた。俺は以前に「ジュリアスさんに命を救われた」とクォンが言っていたのを思い出す。確か、こいつが大怪我を負っていた時に看病をしたのがジュリアスたったはずだ。


「……クォン。後で俺の部屋に来てくれ。話がある」


「わかりました。伺わせていただきます」


 クォンが頷くと俺も頷き返した。ジュリアスは怪訝な表情だが。気にせずに自室に向けて歩を進めた。


 自室に戻ると早速リアナ達に言って人払いをした。部屋に人がいなくなると少し経ってからドアがノックされる。返事をするとクォンが入ってきた。


「……クォン。来てくれたんだな」


「……お約束しましたから」


 俺はクォンがドアを閉めると同時に防音魔法と侵入者阻害の結界を発動させた。無詠唱で行う。


「さて。これで念には念を入れた。クォン。楽にしてくれて構わない」


「……あんがとよ。あー、きちんとすんのはやっぱりかったりーな」


「お疲れさん。さて。クォン。シェリアについての報告と今回の事で説明を頼む」


「やっぱ。そうきたか。シェリアちゃんは相変わらず元気そうだぜ。けど。兄貴、トーマス君だったか。あの子が最近はシェリアちゃんに体術の稽古をつけてやっているみたいだ」


 意外な事を聞いて目を開く。あのトーマス兄貴がシェリアに体術をなあ。以前なら「お前には危ないから」とか言って教えなかったはずだ。どういう心境の変化だろうか。


「……後は。陛下から俺にも殿下の護衛をやれと正式にお達しがきた。ちなみに今は騎士見習いの身分をもらった」


「え。そうだったのか」


「ああ。これからシェリアちゃんの護衛はしにくくなるけど。その分、使い魔を使えるように練習したから。そいつらに任せる事になるだろうな」


 俺はそれに驚きながらもクォンに礼を述べた。後で親父に言ってお給金を弾んでもらおう。そう決めたのだった。

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