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69話

 俺はシェリアと共にブリザードキメラを倒した。


 それはいいんだが。シェリアが甘えていてなかなか離れてくれない。


「……シェリア。皆がいるからそろそろ離れてくれるか?」


「……嫌です。エリック様」


 なんだか、シェリアの様子がおかしいな。仕方ないので好きにさせる事にした。


 だが、シンディー様が注意しても離れようとしない。何故か? それを思うと俺はある事に思い当たった。もしかしてシェリアは魔力酔いを起こしているんじゃなかろうか。実は魔力酔いというのがこの世界にはある。簡単に言うと大量に魔力を消費したりすると足りない分を体が欲しがる事を言う。要は魔力飢餓状態というか。ちなみに足りない魔力はパートナーから供給してもらうか自然回復させるか。まあ、パートナーから供給――分けてもらうのが一番効率が良い。


「……シンディー様。シェリアは魔力酔いを起こしていると思われます」


「まあ。それなら仕方ないですわね。シェリアの状態を見るに2、3日はかかりそうですわ」


「でしょうね。俺は平気ですから」


 ごめんなさいねとシンディー様は苦笑する。シェリアがくっつきたがるのは魔力を俺から取り込むためだ。それは分かっているのでどうしようかと考えた。仕方ない。俺はシェリアの左腕をぐいっと引っ張った。


「……よっと」


 そう声を出して腰を曲げる。シェリアを寄っかからせると両手で彼女の膝を持った。両膝をそうして背負う。要はおんぶをしたのだ。


「……シェリア。腕を俺の首に回してくれ」


「……わかりましたわあ」


 ぽややんとしているようだが言われた通りにしてくれる。ただ、人の重みが背中や腰、膝などにきたが。ぐっと歯を食いしばってゆっくりと進んだ。周囲が心配そうにする中、親父たちに付いて行ったのだった。


 2時間近くは歩いたろうか。ジュリアスが気を使って休憩を取らせてくれる。俺は手頃な倒木の上にシェリアを降ろした。けど彼女は嫌そうに顔をしかめる。


「……エリック様。いやあ」


「……シェリア。わかったから。落ち着いて」


 そう言って仕方なく手を繋いだ。するとシェリアは顔をほころばせる。常に触れていないと落ち着かないようだな。そう思っていたらシンディー様がこちらにやってきた。手には水色の小瓶があった。


「殿下。いつまでもシェリアがくっついていたら不便でしょう。これは私特製の魔力回復薬ですわ。この子に飲ませてみてください」


「ありがとうございます」


「……シェリア。殿下に迷惑をかけるものではなくてよ。いい加減に離れなさい」


 シンディー様はそう言うとシェリアを俺から引っぺがした。そのまま、縦抱きにした。シェリアも何が起こったのかわかっていないらしい。きょとんとしている。


「……さっ。殿下。回復薬を」


「あ。はい」


 俺が魔力回復薬の蓋を開けるとシンディー様が片手を使ってシェリアの顔を無理に横に向かせた。そのまま、しゃがみ込む。俺はシェリアの口元にそっと回復薬の小瓶をあてがう。斜めに小瓶を傾けて薬液を飲ませた。シェリアは口を閉じるとこくんと飲み込んだ。それを何回か繰り返す。


「……あら。わたくしは何をして?」


「……全部飲みきったわね」


 シンディー様はふうと息をつく。回復薬を全部飲みきったシェリアはすっかり顔色が良くなっている。それに正気に戻ったみたいだし。シンディー様はそっとシェリアを降ろした。ちょっとシェリアが恥ずかしそうだが。


「あの。エリック様。わたくし、凄くご迷惑をおかけしたようですわね」


「……いんや。俺は気にしてないよ。ただ、シェリアが甘えたになっただけで」


「わたくしがですか!?」


 シェリアはそう言うと顔を赤らめた。うわあとかいやーとか悶えているっぽい。そんなに恥ずかしい事だろうか。まあ、とりあえずは。彼女の魔力酔いが治って良かったと胸を撫でおろした。


 その後、俺やクォン達――未成年組は早めに王城に戻った。親父もだが。王城にたどり着いたら入口近くでお袋とメイド長、宰相が待ち構えていた。


「……お帰りなさいまし。へ・い・か」


「……シシィ。ただいま」


「ただいまじゃありません事よ。この半月近い間、どこをほっ付き歩いていらしたのかしら」


 シシィことお袋はにっこり笑顔で言った。が、目は笑っていない。こりゃあ、かなり怒っているな。俺は触らぬ神に祟りなしとばかりに自室に戻った。


 シェリアはシンディー様や公爵、トーマス兄貴と共に邸に帰っていく。ラウルや他のメンバーもだ。俺はリアナや他のメイドにまず風呂に入れられた。しばらくはいい所沐浴だったので温かいお湯に浸かれるのは久しぶりだ。リアナが丁寧に頭を洗ってくれた。まあ、身体は自分で洗ったが。


「……お疲れ様でした。殿下」


「……ああ。リアナ達には心配をかけたな」


「もう慣れました。エリック殿下がフォルド国を背負うお立場にいるのもわかっていますし」


 リアナはそう言うと「ごゆっくりどうぞ」と言って浴室を出ていく。俺はふうと息をついたのだった。


 

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