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64話

 翌日、シェリアちゃんはアンデット相手でも怯まずに攻撃を仕掛けていた。


 俺も魔力は回復していたので彼女をサポートする。他のメンバーもさくさくと魔物を倒していた。流石だと思う。ラウル、トーマス兄貴、カーティスにウィリー、オズワルド、俺とシェリアちゃん。子供が七人だが。ラウルとトーマス兄貴は魔法も強いし武芸も既に騎士顔負けの腕前だ。


「……エリック。体調はどうだ?」


「ああ。まずまずだな」


「ならいいんだが。また、昨日みたいに魔力切れを起こさないように気をつけろよ」


 ラウルが心配して訊いてきた。答えると苦笑いしながら注意される。それについては本当にその通りなので頷いておいた。


「じゃあ、今日も上級ポーションを渡しておくよ。いざとなったら飲むといい」


「……ありがとう」


 礼を言うとラウルは肩をポンと叩く。そのまま、皆の所に行った。次に国王陛下――親父がやってくる。


「エリック。ラウルから何をもらったんだ?」


「上級ポーションです。昨日に俺が魔力切れを起こしたでしょう。それでもらったんです」


「……ふうん。珍しいな。あいつがお前に何かをあげるとはな」


 親父はそう言ってなる程と頷いている。何がなんだかよくわからない。けど俺は深く考えないでおいた。


「……エリック。ラウルだったから良かったが。今後は誰かから物をもらっても簡単に受け取るなよ。まずは従者か誰かを通してからにした方がいい」


「まあ。その方が本当はいいんでしょうけど」


「ああ。今はいいが。王城ではさっき言ったようにした方がいいぞ」


 俺は確かになと思った。王族は何かと狙われる立場にある。親父の忠告は最もだ。


「……わかりました。父上の仰せの通りにします」


「わかってくれたんならいい。さ、昼食を持ってきてやったから食え」


「はい」


 頷いて親父から昼食だという干し肉とドライフルーツを受け取った。もしゃもしゃと食べる。親父は水筒に入った水も蓋に入れて渡してくれた。それを受け取りごくごくと飲む。やっと一息つけた心地がした。


「よし。食べきったな。少しは食べておかないと翌日に響くからな。ジュリアス達もそろそろ食事が終わる頃だろう」


「……そうですね」


「エリック。本当に無茶はするなよ」


「はい。気をつけます」


「お前はまだ子供だ。魔力がたくさんあるといっても無理は禁物だ。それは肝に銘じておけよ」


 黙って頷いた。親父は頭を撫でてきたのだった。


 その後、森の奥へさらに進んだ。ジュリアスとエルは鉈やナイフで草木を薙ぎ払いながら道を作る。騎士達はよく山野で訓練をするので慣れているらしい。


「殿下。魔物がまた現れたら危ないですから。陛下の近くにいてください」


「わかった。その方が安全だな」


 ジュリアスが言ったので頷く。すると親父がこちらにやってきた。


「ジュリアスの言う通りだ。私が責任を持って守る。それにお前に何かあったらシシィに殴られるしな」


「……父上。一言多いですよ」


「まあ。そうだな」


 親父も自覚があったようだ。不意に生ぬるい風が頬に当たる。キィンと太陽剣が鳴った。


「……父上」


「……気づいたか。ジュリ、エル!!」


 親父が大声で二人に呼びかけた。それを合図に他のメンバーも武器を構える。ジュリアスとエルも剣を鞘から抜いた。


『……ギャグアア!!』


 咆哮をあげたのはファイアレックスだ。赤い色をしたティラノサウルスにそっくりな魔物だった。といってもブリザードレックスよりはひと回り小さい。


「……キャア。エリック様!!」


「シェリアちゃん。どうした!?」


 悲鳴をあげたシェリアちゃんに俺は慌てて駆け寄る。

 するとシェリアちゃんはガタガタと震えていた。


「……今は我慢してくれ。て。それどころじゃないか」


「……うう。エリック様ぁ」


 シェリアちゃんはそう言うとしゃがみ込んでしまう。仕方ない。俺はラウルに目配せをした。奴はすぐにわかったらしい。黙って頷いてくれた。


「シェリアちゃん。俺はここにいるよ。怪我はしていないから」


「……本当に?」


 俺はそっとシェリアちゃんの背中を撫でた。でも彼女は震えたままだ。


「……ああ。大丈夫だよ。シェリアちゃん」


「わたくし。魔物のせいでエリック様が氷漬けにされて。怖かったの。また、あの時みたいになったらって」


「……シェリアちゃん」


 俺はやっと彼女が魔物を怖がっている理由がわかった。今は緊急事態だが。背中を撫でるだけではダメだ。そぅっと肩に腕を回して抱きしめる。そうした上で背中を撫でた。


「……エリック様ぁ」


 よしよしと背中や頭を撫でながら抱きしめる力を強める。シェリアちゃんは泣きながらしがみついてきた。


「大丈夫だから。シェリアちゃん」


 俺は優しく言う。シェリアちゃんはしばらく泣き続けたのだった。


 しばらく経ってファイアレックスは倒されたらしい。シンディー様が心配してやってきた。


「……殿下。娘がすみませんね」


「いえ。俺は気にしていませんよ」


 そう言うとシンディー様はシェリアちゃんの頭を撫でた。シェリアちゃんはすぐにシンディー様に気づいて俺から離れる。そのまま、シンディー様と一緒にフィーラ公爵の元に行ってしまったのだった。

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