61話
あれから、半月が過ぎた。
俺は太陽剣を携えて魔獣狩りに参加している。エルとジュリアス、クォン、ラウルにオズワルド、カーティスにウィリー、トーマス兄貴、シェリアちゃんに今回が初参加のシンディー様の10人のはずだったが。何故か、シェリアちゃんの父君でシンディー様の夫君でもあるフィーラ公爵に親父も一緒だ。実はフィーラ公爵って名前がダリエルスというらしい。なのでシンディー様はダリーと呼んでいた。けど、颯爽と男装姿で馬を乗りこなすシンディー様にシェリアちゃんはよく似ている。ちなみにシェリアちゃんはシンディー様の後ろに乗せてもらっていた。トーマス兄貴がフィーラ公爵の後ろで。
「……なんで俺が親父の後ろなんだよ」
「……なんか言ったか。エリック」
「いえ。何も言ってません」
ちょっと怖い顔で話しかけてきた親父--アルフレッド王に俺は笑顔でごまかした。意外と親父は怒らせると厄介だ。フィーラ公爵がおかしそうに笑っている。ラウルはクォンの後ろでカーティスがジュリアスの後ろ、オズワルドはエルの後ろ、カーティスとウィリーはそれぞれ単騎で乗っていた。馬は7頭で皆、駿馬だ。
「ふふっ。エリック様。いつも娘がお世話になっていますわね」
「はい。シェリアちゃんにはよく助けられていて。有り難い限りです」
「そう言っていただけて恐縮です」
にっこり笑顔でいうシンディー様は馬の手綱さばきに関しては騎士顔負けだ。これで剣術もできて聖魔術にも長けているのだから人は見かけによらない。シェリアちゃんがお母さん似でよかったかもと思うのだった。
その後、フォルド王国の北部にあるイェルクの森にたどり着いた。不思議な事にイェルクの森は雪が積もっていないし気温が一定に保たれている。馬の背中から親父に抱き抱えられて降ろされた。はっきり言って恥ずかしい。
「……父上。俺は1人でも降りられますよ」
「何を言っている。お前はまだ子供だろうが」
「もう7歳です。毎日、師匠に鍛えられていますから」
「……ウィリアムス殿か。けど。馬が暴れたりしたらどうする。お前1人で対処できるのか?」
「う。できません」
「なら、おとなしく言う事を聞きなさい。7歳と言ったらまだまだこれからだ」
親父はそう言うとぽんと頭を撫でた。シェリアちゃんやフィーラ公爵が微笑ましいと言わんばかりに見ている。シンディー様もちょっとおかしそうだ。他のメンバーも同様で。余計に恥ずかしくなって顔に熱が集まったのは言うまでもなかった。
その後、森の中へと入って魔獣探しをすることになった。ジュリアスとエルが先頭になって進む。次にフィーラ公爵とトーマス兄貴といった感じだ。ぞろぞろと歩いていく。
「……シェリアちゃん。ご両親が一緒で良かったな」
「ええ。わたくしも母様がいるので心強いですわ」
「うん。俺はなんで父上が執務をほっぽらかしてここにいるのか。そっちが気になるね」
「……エリック様」
「父上。王城に帰ったら母上が待っておられますが。たぶん、カンカンになって怒っているでしょうね」
俺がちくりと言うと親父は嫌そうに顔をしかめた。図星だったらしい。
「……エリック。お前なあ。シシィの事を今は言うなよ」
「何でですか?」
「シシィは怒らせると怖いのはわかっているだろう。一応、置き手紙は書いておいたんだが」
おいおい。置き手紙だけでお袋が納得するわけねえだろ。これは親父の徹夜が決定済みだ。たぶん、宰相もめっちゃ怒っているだろう。書類を大量に回されるだろうなあ。内心で思ったが。それは口に出さずにいた。
「……陛下。お仕事を放ってこちらに来ても何にもなりませんわ。今後はしないようにお願いいたします」
「……くう。シェリアちゃん」
「わたくしも王妃様のお気持ちがわかります。夫君が大事な事をやらないでいたら心配すると思います」
僅か7歳の少女に頭が上がらない親父。俺とフィーラ公爵は苦笑した。シンディー様は当然と言う表情だ。エルとジュリアスはちょっと気まずそうだ。
「……けどな。私も息子達が心配なんだ。付いていく程度なら良いだろう」
「……陛下。私めも娘の言葉には同意します。大事な御身なのですから」
「わかったよ。せめて魔獣狩りに行く時はウィリアムス殿と近衛の騎士を連れて行く」
「左様ですか。でしたら今後はお忘れなきように」
「……フィーラ公爵。あなたもエリックやシェリアちゃんの味方なんだな」
公爵はそれには答えない。さっさと先を進んでいる。親父は俺の手を握るとぐいっと引っ張った。
「……父上?」
「森の中は道が整備されていないからな。手を繋いでいくからそのつもりでいろよ」
「……はい」
頷くと親父は嬉しそうに笑った。要は「仲間はずれにされている。父ちゃん、寂しい」という気持ちだったようだ。まあ、俺としては親父が付いて来るのはいろんな意味で恥ずかしいが。それにシェリアちゃんといちゃいちゃする時間が作れなくなる。ううむ。誤算だったぜ。アホな事を考えながらも親父に引っ張られつつ、森の奥を目指した。




