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60話

  俺は翌朝から課題を終わらせて神官長--仙人爺さんの元へ向かった。


  雪が降り積もっている。空は晴れているが。風も空気もひんやり冷たい。その中を俺はジュリアス、エルとの3人で黙々と進んでいく。神殿と王宮は離れているので歩くにしても往復で30分以上はかかる。


「……殿下。今日も寒いですね」


「ああ。本当にな」


「シェリア様も風邪をひかないといいんですが」


  ジュリアスが心配そうにしているが。まあ、シェリアちゃんは去年に風邪をひいて寝込んでいたしな。そんな事を思い出しながらサクサクと薄く積もった雪を踏みしめた。こうして寒い中を歩いて行ったのだった。


「殿下。よくぞ来られました」


「はい。今日もよろしくお願いします。神官長」


  神官長もとい、爺さんはニコニコと笑いながら出迎えてくれた。神殿の礼拝堂に行き、太陽剣の扱い方をレクチャーしてもらう。もうひと通りは扱い慣れているが。念のためだ。


「……剣で魔物の浄化を行いたい場合。やはり、月の聖女も必要になってきます」


「それはそうでしょうね」


「陽光剣も発現したいのであれば、月の聖女との絆が物を言います。殿下。シェリア様と仲良くしていただきたいものです」


  俺は真面目に頷いた。確かにその方がいい。爺さんは魔術用の杖を懐から取り出した。


「……以前の魔獣狩りで氷漬けになってしまったとか。鍛錬をやり直しですな」


「……え。マジかよ」


「殿下。ビシバシいきますから。そのつもりでいてください!」


  爺さんはそう言っていきなり雷の中級魔法のバードサンダーを繰り出した。俺は太陽剣を構えて詠唱する。


「……日の神よ。我を守り給え!!」


  そう言うと白い光が結晶化して結界に変わった。バチバチッと閃光が放たれる。それが俺めがけて飛んでくるが。白い結界が閃光を防いで霧散させた。


「……ふむ。腕を上げましたな。殿下」


「………いきなり雷魔法を放つなんて。ひでえにも程があるぞ!」


  俺はムカッときてつい、爺さんに文句を言っていた。けど爺さんはにっと笑った。何処吹く風という感じだ。


「ほっほ。いきなりの攻撃に備えてこそ真の剣士と言えますぞ。殿下はまだまだ甘いですなあ」


「あんたは神官だろ。剣士とか冗談じゃねえ」


「私はその昔、フォルド国きっての魔剣士と呼ばれていましてな。訳あって今はしがない神官ですが」


  全くしがない神官じゃねーだろ。何言ってんだ、爺さんは。そう胸中で毒づく。


「……殿下。表情に出ていますぞ」


「……あー。すみませんでした」


  おざなりに謝るが。爺さんの笑みが深まったような気がした。後、目が全然笑ってねえ!!


「では二発目といきましょうかの!」


「……げっ」


  爺さんは今度は氷魔法の上級であるアイスブレスを無詠唱で繰り出した。ごおっと雪が風に舞う。俺は太陽剣を片手で持った状態で炎魔法の上級であるファイアエンブレムを展開する。


「……かの者を燃やし尽くせ。ファイアエンブレム!!」


  片手から勢いよく赤い炎が迸る。それは風雪とぶつかり合い、どおんっと物凄い音が辺りに響いた。同時に大量の水蒸気が発生して霧が立ち込める。それが晴れると爺さんは機嫌よく笑っていた。


「……ふむ。だいぶ、成長なさいましたな」


「二発目もいきなり過ぎるぞ。神官長、少しは手加減してくれよ」


「なあに。手加減はしておりますぞ。けど殿下のレベルもそれだけ上がったという証拠ですな」


  かっかっと笑うが。こっちは必死で応戦してたんだぞ。たく、勘弁してくれよ。そう思いながらも剣を鞘に収める。爺さんは俺に近づくとぽんと肩に手を置く。


「殿下。とりあえず、今日はここまでにしましょう。お疲れ様でした」


「……ありがとうございました」


  最後に真面目に言うと。爺さんはにっこりと笑って俺の頭を撫でたのだった。


  その後、久しぶりに矢恵さんに呼びかけてみた。ちょっと機嫌が悪そうだが。


『……久しぶりね。エリック君』


『……ああ。久しぶりだな。矢恵さん』


『それにしても。二年近い間、放ったらかしだったわよね。なんでなのか説明してくれない?』


  笑顔で言うが。俺は直感でわかった。本気で怒っているのがだ。


『ごめんって。ちょっと太陽剣や月光剣とかの事で忙しくてな。そのせいもあって矢恵さんを呼ぶ暇がなかったんだ』


『……太陽剣に月光剣ねえ。もしかして光の神子と月の聖女の事かしら』


『当たり。なんでも、俺とシェリアちゃんがそれに選ばれたらしい』


  そう言うとへえと矢恵さんは目を丸くした。


『成る程ね。だから、私が呼び出されなかったのね』


『ごめん。せっかく矢恵さんからアドバイスしてもらってたのにな』


『……謝らなくていいわ。光の神子と月の聖女は国の運命を左右する程に重要な役割だもの。エリック君に時間的に余裕がなかったのはもうわかったから』


  矢恵さんは苦笑しながら言った。透けているけど俺の頭をよしよしと撫でる。


『エリック君。とりあえず、その神子としての役割を頑張ってね。また、伝える事があったら私から呼ぶわ』


『ああ。わかった』


『……じゃあね』


  すうと矢恵さんが消えた。俺の中に戻ったらしい。ほうと息をついたのだった。

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