表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/118

57話

  俺やシェリアちゃん、ラウル達が魔王を倒すための稽古を始めてから半年が経過していた。


  もう季節は初秋だ。9月の中旬になっている。それでも残暑が厳しい。シェリアちゃんは夏バテになり真夏の間は辛そうだった。今は残暑バテのせいで稽古も早くに切り上げるようになっている……。


「……シェリアちゃん。きつそうだな」


「……大丈夫ですわ。エリック様達に比べたらこれくらいはこなさなければ」


  そう言ってシェリアちゃんは月光剣の素振りを再開した。だがその表情は疲れが溜まっているように見える。仕方ないので俺は彼女の後ろに近づいた。両肩に手を置く。驚いたのかシェリアちゃんは素振りを中断した。


「……驚かせないでください。もうちょっとで怪我をするところでしたわ」


「ごめん。けど今日はそれくらいにしときなよ。シェリアちゃん、最近はあんまり寝ていないだろう」


「なんでわかるのですか?」


  余計に驚くシェリアちゃんに苦笑した。やっぱりうまく隠せていると思っていたのだろう。


「……目の下のクマがすごい事になっているからだよ。後で鏡を見てみな」


「わかりました」


  仕方ないと思ったのか。シェリアちゃんは渋々頷いた。俺は彼女の手から月光剣を取り上げた。


「これから俺の部屋に行こう。リアナに言って気持ちの落ち着くハーブティーを用意してもらうから」


「……エリック様?」


  シェリアちゃんに手渡すと鞘に収める。それを見届けてから俺は手を握って歩き出す。背丈は俺の方がちょっと高くなっていた。戸惑うシェリアちゃんを引っ張りながら自室に急いだのだった。


  戻ると早速、リアナにハーブティーを用意するように頼む。他のメイド達にもお風呂の準備をするように言った。シェリアちゃんにはソファに座るように勧めた。


「……エリック様。あの……」


「シェリアちゃん。お風呂に入ったらハーブティーを飲んで寝てくれ。俺の寝室のベッドを使ってくれたらいいよ」


「え。それはご迷惑になりませんか?」


「ならない。むしろ、無理をして倒れられたらそっちの方が嫌だな」


「……わかりました。お言葉に甘えますわ」


  シェリアちゃんは観念したのか頷いた。俺は彼女に近づくとそっと頬にキスをする。自分からしたのは初めてだ。顔を離すとシェリアちゃんは真っ赤になっている。


「エ、エリック様?!」


「……ん。まあ、この間のお返しだよ。これでチャラだな」


「……」


  ドギマギしているシェリアちゃんをよそに俺は距離をとった。甘い香りがして。堪能できたのでよしとしようか。そう思いながらもポーカーフェイスを保つ。


「殿下。浴室の用意ができました。シェリア様。行きましょうか」


「……あ。はい。では一旦失礼しますわ」


「うん。いってらっしゃい」


  俺が手を振るとシェリアちゃんは頷いて浴室に向かう。彼女を見送りながらさてと寝室に入ったのだった。


  俺はメイドに言って用意してもらった濡らしたタオルで顔や体をざざっと拭いた。そうしてから机の引き出しの鍵を開けた。3歳の時にまとめた日記を出す。それを読みながらどうしたもんやらと考え込んだ。ゲームが始まる時期は俺やシェリアちゃん、オズワルドが王立学園に入学して1年目の秋からだ。終わるのは3年生の卒業パーティーでの事である。そこでシェリアちゃんの断罪イベントが起こるのだが。


「……もう断罪イベントは起こらないだろうな」


  ポツリと呟く。誰もいないのでほうとため息をついた。シェリアちゃんはラウルとうまくいくのか。それが心配ではあった。仕方ないので日記を再び仕舞い込み、鍵をかける。俺はさてと考えを他の事に切り替えたのだった。


  その後、シェリアちゃんがお風呂から上がってきた。俺はまだ濡れたままの髪を見ると近づいて温風を無詠唱で起こした。髪が一通り乾くと鏡台の前に導く。メイドの代わりにブラシで髪を梳いた。まっすぐな藍色の髪はサラサラしていて艶やかだ。それを丁寧に梳る(くしけず)。一通りしてからリアナが気を利かせて用意した香油の蓋を開けた。手にとって髪に塗り込む。また、ブラシで梳いた。


「……あの。エリック様。髪の手入れまでしていただくなんて。すみません」


「いいって。俺は元々は前世では女性だったからな」


「はあ。そうでしたね」


  そう会話をしながらも梳く手は止めない。梳く程に髪は艶やかになっていく。うん。シェリアちゃんは大人になったら絶世の美女になる要素があるな。それを楽しみにはできないが。今でも十分美少女ではある。そんなくだらない事を考えつつ、梳るのを終えた。


「……できたぞ。うん。我ながら良い出来だ」


「ありがとうございます」


  シェリアちゃんはお礼を言うとリアナが置いていったハーブティーを飲むために立ち上がる。カウチに腰掛けるとゆっくりと飲む。俺も向かいにあるカウチに腰掛けた。シェリアちゃんが一通り飲み終えるとベッドに一緒に向かう。


「シェリアちゃん。俺もお風呂に入ってくるから。その間、ゆっくり寝ててくれ」


「……はい」


  頷いたのを見てとって俺は寝室を出た。急いで浴室に向かう。1人で頭と身体をざざっと洗い、浴槽に浸かる。未だにシェリアちゃんの頬の感触がありありと思い出された。柔らかかったな。そう思いながらも上がりバスタオルでがしがしと髪を拭く。ささっと下着と部屋着を着た。また、速足で寝室に戻る。ドアをそっと開けるとすうすうと寝息が聞こえた。シェリアちゃんは既に寝ているらしい。俺はドアを静かに閉めた。

  ベッドに入った。ゴロンとシェリアちゃんが寝返りを打つ。布団をまくって潜り込むと隣に寝転がる。シェリアちゃんの額にキスを落とした。


「……おやすみ」


  そうっと彼女を抱き寄せた。シェリアちゃんは寝ぼけて俺にすりよってくる。可愛いと思いながらも抱きしめて横になった。程よい温もりと甘い香りに包まれながら眠りについたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ