53話
石像の守り神が消滅した後、俺は黄金に輝く剣と白銀に輝く剣の二振りを見つけた。
シェリアちゃんの方を見る。が、皆も驚いているのか動こうとしない。仕方ないので俺はシェリアちゃんに近寄った。
「……シェリアちゃん。あれは太陽剣と月光剣じゃないか?」
「……本当ですわね。確かに神気を感じます」
シェリアちゃんと二人でそっと剣が刺さっている岩に向かう。危ないからとジュリアスとエルが付いてくる。岩のすぐ近くまで来ると俺は黄金に輝く方の剣の柄を握った。シェリアちゃんにも目配せをした。白銀に輝く方の剣の柄を彼女が握りしめる。ゆっくりと引き抜く。現れた刀身は俺のが幅広で長い。シェリアちゃんのは細身で短くて。男女でちゃんと使いやすいようにできているようだ。剣は両方とも美しく光り輝く。俺とシェリアちゃんが全部を引き抜いてしまうと光が収まった。鞘を探すと近くにボロボロの箱がある。それを注意しながら開けた。中には太陽が意匠として彫られたのと満月が意匠として彫られたのが入っていた。
「……これは。綺麗ですね」
「ああ。これを使えということだろうな」
鞘を取り出したが。剣をうまく収められない。仕方ないのでジュリアスに太陽剣を渡した。エルが月光剣を受け取る。二人に鞘に収めてもらった。
「……できましたよ。殿下」
「ああ。ありがとう」
ジュリアスから受け取ると剣の重みがズシリとくる。シェリアちゃんもエルから受け取ったらしい。ちょっとはにかんだように笑う。エルは意外そうにしていた。俺はその光景にもやっとなる。なんでエルがシェリアちゃんに見惚れてんだ。
「……シェリアちゃん」
「……エリック様?」
俺はエルを睨んだ。その上でシェリアちゃんの手を取った。やきもちのせいでか、剣の重さは気にならない。ずんずんと歩いてエルから引き剥がす。エルとジュリアスが生ぬるい目で見ていたのはスルーしたのだった。
その後、地下迷宮の道を引き返し、無事に王城へと戻れた。出口付近には親父と神官長もとい、爺さんとフィーラ公爵のお三方が待っていた。
「……エリック。シェリア殿。よく戻ってきた」
「……父上。只今、戻りました」
親父が声をかけてきたので王子様モードで返答する。フィーラ公爵も感慨深げにシェリアちゃんとトーマス兄貴に声をかけていた。
「トーマス。シェリア。無事で良かった」
「……父上。ご心配をおかけしました」
「父様。お出迎え、ありがとうございます」
シェリアちゃんがそう言うとフィーラ公爵は苦笑する。彼女の頭を優しく撫でた。こういう表情をすると公爵も人の親なんだと思う。親父も俺の前に跪くと肩をポンと軽く叩く。手の大きさと温もりにホッとした。
「父上?」
「……公爵と同じように。本当に無事で良かった」
親父はそう言ってにっこりと笑う。頭をくしゃくしゃと撫でられた。シェリアちゃんよりは乱暴だが。ま、いっかと思ったのだった。
俺はシェリアちゃんを連れて王城の自室に向かう。今後の課題について話し合うためだ。
「……エリック様。わたくし、これからは剣術を頑張ります」
「俺も頑張るよ。けど。無茶は禁物な」
「ええ。後は。兄様やラウル様方にも鍛錬をしていただかないと」
ポツポツと話すが。俺は神経を尖らせていた。どこで聞かれるかたまったもんじゃないからだ。クォンが影で護衛をしてくれているからこういう事もできた。自室の前まで来ると俺は自分でドアを開けた。リアナや他のメイド達、女官達が一斉に驚いた表情をする。
「……まあ。殿下。ご無事で」
「ああ。リアナ。今、戻ってきた。心配かけたな」
そう言うとリアナはこちらにやって来た。シェリアちゃんに跪いて目線を合わせた。にっこりと笑いかける。
「シェリア様。殿下をこれからも支えてくださいませ」
「……リアナさん。わたくしはエリック様のお妃にはなれないけど。その分、家臣としてお支えしますわ」
「そのお言葉で十分です。さあ、お疲れでしょうから。湯浴みをしましょう」
リアナの言葉にシェリアちゃんは頷いた。俺も同じようにする。
「んじゃ。シェリアちゃんが先に入ってきたら良い。俺は後で入るから」
「いつもすみません」
「いいって。シェリアちゃんも汗で汚れた状態で帰りたくないだろう」
「それもそうですわね。では、お先に失礼します」
「ああ。ゆっくりしてきたら良いよ」
そう言ってシェリアちゃんを促した。リアナともう一人のメイドと共に浴室へ行く。俺はそれを見送った。
シェリアちゃんが浴室に入るとパタンとドアが閉められる。ほうと息をついた。他のメイドが気を利かせて果実水を用意してくれる。レモン味のものだ。ガラスのコップに注いでこくこくと飲む。喉が渇いていたのを思い出した。コップをテーブルの上に置くと部屋をうろうろと歩き回る。俺はさてと考えた。
(……シェリアちゃんと奥義を繰り出そうとしたら。接吻しないといけねえからなあ。あの子が公衆の面前で平気でいられるかどうかなんだが)
シェリアちゃんのことで頭を抱えた。れっきとした公爵令嬢である彼女にしてみたら耐えられないだろう。まあ、国のためと腹を括ってもらうしかない。俺は仕方ないと頭をガシガシとしたのだった。




