52話
地下迷宮を進んでどれくらい経ったろうか。
半日は過ぎているだろう。そう思いながら俺はシェリアちゃんの手を再びぎゅっと握る。他のメンバーも疲れが見えてきていた。魔物は段々と強い奴が出没しているのだが。太陽剣と月光剣はまだ奥のようだ。
「……殿下。地下迷宮は思ったよりも広いですね」
そう言ってきたのはエルだった。実はエル、恋人が騎士団にいるらしい。ちなみに女性ではなく野郎だ。背は高いがほっそりとした優男であるエルの好みは屈強な逞しい奴だと以前に聞いていた。秘かにジュリアスとクォンが狙われないか心配だが。まあ、ジュリアスは婚約者がいるしクォンも「野郎は圏外だ」と言っていたから大丈夫だと思う。
「ああ。エル、何か気づいたことはあるか?」
「そうですね。殿下。ちょっと変だと思いませんか?」
「……変だって。どこがだ?」
質問に質問というやりとりをしていたが。エルはふうとため息をつく。
「いえ。魔物があれだけ現れていたのに。今は気配さえ感じない。おかしいなと思いまして」
「確かにそうだな」
「何かがあると思うんです。今度こそ気をつけてください。殿下」
俺はさすがに頷いた。エルはジュリアスやクォン以上に魔力が高い。騎士団でも一、二を争う魔術使いでもあった。剣術など武芸もできるために俺の護衛にもなった強者だ。奴の言う事は確かにその通りだった。魔物の気配が少しもしない。
「……エリック様。ここは神気に満ちていますわね」
「……あ。確かに。よくわかったな。シェリアちゃん」
「わたくし、母様が聖魔術が得意なので普段から鍛えてもらっていますの。それのおかげでわかるんだと思います」
そうだった。シェリアちゃんの母君であるシンディー様は聖魔術に長けた女性だ。フィーラ公爵一族自体が聖魔法や聖魔術が得意らしいが。実はフィーラ公爵家当主たるシェリアちゃんの父君は入り婿だ。つまりシンディー様が後を継いだと言った方が正しい。確か聞いた話によるとシンディー様は一人娘だったので父君が婿入りして公爵位を受け継いだ。という事だったはず。
「……ふうん。シンディー様が聖魔術が得意なのは聞いていたが。シェリアちゃんも受け継いでいるんだな」
「ええ。もしかすると剣がある場所が近いのかもしれません」
「わかった。だとしたら余計に気を引き締めないとな」
二人して頷きあう。エルとジュリアス、クォンも剣を鞘から引き抜いた。俺も氷漬けになった時みたいに杖を出す。それでも前方を睨みながら進んだ。とうとう最奥に来た。が、剣が刺さっているらしい岩の近くには巨人の石像が通せんぼをしている。しかもこいつは炎属性のようだった。手からいきなりぼおっと火炎弾を放ってきた。
「……うおっ。あぶねー!!」
『……ヒトヨ。ナニシニキタ』
石像は俺に語りかけてくる。シェリアちゃんを背後に庇いながら奴を睨みつけた。
「……何しに来たって。決まっているだろう。太陽剣と月光剣を取りに来たんだよ」
『オマエタチ、ソノコトバハタシカナノカ?』
「確かだ。この国を守るためにも剣が必要なんだ。あんた、剣の守り神だな?」
『……ソウダ。ガ、カンタンニワタスワケニハイカナイ』
「じゃあ、どうすりゃあいいんだ?」
『イマカラチカラダメシヲスル。ワレニカテタラケンハオマエタチノモノダ』
仕方ないと俺は杖を構えた。他のメンバーも武器や杖をそれぞれ構える。石像は両手から大きな炎の塊を放った。俺とラウルで氷魔法を展開して反撃する。
「……かの者を凍てつかせよ。アイスブリザード!!」
「全てを氷原に変えよ。アイスダイヤモンド!!」
先に唱えたのは俺で次がラウルだ。アイスブリザードは上の下といえる魔法で大きな氷の塊を相手にぶつける攻撃魔法である。アイスダイヤモンドはその上をいく強力な氷魔法だった。その二つで石像の炎攻撃は相殺されたらしい。ばんっとぶつかり合って辺り一帯に水蒸気を発生させた。それは霧になる。
「……石像にダメージを与えるのは至難の技だな」
「ああ。エリック。気をつけろ。こいつ、やっぱり体が石なだけあって物理攻撃は効かん」
「だろうな。魔法で弱らせるしかないか」
そう言って再び杖を構える。ジュリアスとエルも剣ではなく杖で応戦していた。クォンも攻撃を避けながら魔術で反撃している。
「……オーロラ・ブリザード!!」
俺は短い詠唱で自分で編み出した氷魔法を石像に繰り出した。パキンッと奴の右手が凍りついた。シェリアちゃんが防御強化をかけてくれる。俺はアイテムボックスからポーションを出して一気に呷った。ビンを仕舞い込み、より強い魔術を放つために構える。
「……かの者を氷の煉獄に誘え。アイスホールド!!」
『……ググッ。ナニ?!』
俺はアイスダイヤモンドよりも上級の大技を放つ。パキパキッと石像が凍りついていく。最後には奴は完全に凍り動かなくなった。まだ、予断は許されないが。しばらく経っても石像は動かない。そして驚くことに奴はガラガラッと頭から崩れ去る。気が付いた時には砂塵と化していたのだった。




