51話
泣き続けるシェリアちゃんに慌てた。
「良かった」と呟くが。俺が首を傾げていたらジュリアスがこちらにやってきた。見兼ねてこちらに来たらしい。
「……殿下は氷漬けになっていたんですよ。それをシェリア様が炎魔法を使って解いてくださったんです」
「本当かよ?!」
「ええ。私達もどうしようかと思っていましたが。キメラはシェリア様が倒しましたし」
俺はシェリアちゃんの大活躍に目が点になる。思いの外、すげえな。シェリアちゃんは……。
「……うう。エリック様。ご無事でなによりです」
「……お、おう。氷漬けになっていたのに。ありがとよ。シェリアちゃん」
シェリアちゃんは泣きながらもひっしと俺に抱きつく。ラウルとトーマス兄貴の冷たい視線が痛い。
「シェリアちゃん。あの。そろそろいいかな?」
「……あ。ごめんなさい。わたくしとした事が」
「うん。落ち着いたんなら進もうぜ。太陽剣と月光剣を取りに行かないといけないから」
そう言うとシェリアちゃんは頷いた。シェリアちゃんはポケットからハンカチを出して目元を拭く。一通りしたのを見届けると俺は手を差し出した。シェリアちゃんが手を乗せるとぎゅっと握る。こうして皆で奥に進んだのだった。
数々の魔物を相手に戦闘を繰り返した。そうしながらも地下迷宮を進んでいく。主に前衛にはジュリアスとエル、クォン、ウィリー、カーティスが戦い、後衛で俺とラウル、トーマス兄貴、オズワルド、シェリアちゃんがサポートしている。シェリアちゃんは女の子だからさすがに怪我をしないか心配だ。それは兄貴も同じらしい。
「……シェリア。疲れたらすぐに言えよ」
「わかりましたわ。兄様」
「うん。いくら、殿下が守ってくれると言っても限度がある。危ない時は俺達を置いて逃げろよ」
「……そんな。エリック様に何かあったらわたくし。耐えられません!」
「それはわかる。けどもしもという場合もある。俺はお前には無事でいてほしい」
そう言うと兄貴はシェリアちゃんの頭を撫でた。ちょっと羨ましいと思う。俺がやったらラウルに後でしばかれそうだしなあ。
「殿下。とりあえず、一旦休憩にしましょうか?」
見かねたジュリアスが声をかける。俺は確かにと頷いた。
「そうだな。皆、休憩するぞ!」
俺が大声で言うとシェリアちゃんとトーマス兄貴が真っ先に反応した。シェリアちゃんは兄貴に「ちょっと失礼しますわね」と言って俺の方にやってくる。たたっと軽やかに駆けてきた。
「エリック様。休憩するのでしたらわたくしと一緒にしましょう。回復術をもう一度おかけします」
「……え。いいって。もうそんなに疲れていないし」
「それでも念のためですわ。ささっ。こちらに座ってくださいませ!」
仕方ないので言われた通りに近くにあった岩の上に座った。シェリアちゃんはそうしてから俺の両手をぎゅっと握る。無詠唱で回復術をかけた。両手からじんわりと温かいシェリアちゃんの霊力が全身に染み渡る。しばらくすると体はさっきよりも随分と軽くなっていた。
「……ありがとう。さっきよりは気分が良くなったよ」
「そうでしたか。やっぱり回復術をかけておいて正解でしたわ」
シェリアちゃんはにっこりと笑う。そうして彼女はこう告げた。
「……そういえば。エリック様。先ほど不思議な声が聞こえましたの」
「……不思議な声?」
「ええ。確か、太陽神のアタラ様でしたか。あのお方がわたくしに陽月華の呪文を教えてくださいました」
俺はそれを聞くと驚いた。アタラ様がシェリアちゃんに陽月華の呪文を教えたって。じゃあ、俺の凍結を無効化したのは……。
「……俺の凍結を無効化してくれたのは。シェリアちゃんだったのか?」
「……そうですわ。あの時は無我夢中で。えっと。呪文ですけれど。「美しき炎よ。かの者を滅ぼせ」というものでした」
「へえ。そんな短い呪文でよかったんだな」
そうらしいですとシェリアちゃんが頷いた。俺もなるほどと思った。
「んじゃ。キメラを倒したのも君で合っているんだな?」
「ええ。気がついたらキメラが炎に包まれていまして。わたくしも驚きましたわ」
俺はシェリアちゃんの活躍っぷりに改めて驚いた。けどそれと同時に彼女の体調が心配でもあった。
「シェリアちゃん。体は大丈夫か?」
「……ちょっとふらつきますけど。大丈夫ですわ」
「……ふらつくって。それ、全然大丈夫じゃねえよ」
俺は呆れながらため息をつく。自分のアイテムボックスを漁りポーションを取り出す。それをシェリアちゃんに飲むように言った。
「大丈夫ですわ。わたくしは……」
「しのごの言わずに飲むんだ。君が倒れたらそれこそ俺の方が耐えられない」
渋々、シェリアちゃんはポーションを受け取った。蓋を開けてこくこくと飲んだ。心なしかシェリアちゃんの顔色が良くなった。俺はやっとホッとする。
「シェリアちゃん。どうだ。気分は?」
「……確かに良くなりました。すみません。エリック様」
「謝らなくてもいいよ。んじゃあ。休憩はここまでにして。先を行こう」
二人して頷きあうと手を握って進んだ。それを皆が生ぬるい目で見ていたのには気づかなかったのだった。




