47話
俺が前世の記憶を取り戻してから早くも3年が経過した。
季節は冬真っ盛りだ。シェリアちゃんも毎日が寒いのでドレスの上にショールを羽織りつつ王宮に来ている。ドレスも冬用の分厚い布地のものであった。それを本人が教えてくれたが。
俺も厚手の靴下を履いている。ちなみにお袋お手製だ。親父も何故かセーターを編んでもらっていた。お袋は王妃なのに編み物やお裁縫、刺繍、料理が趣味だ。これは変わり種だと自分でも思う。だがお袋お手製のクッキーとシフォンケーキは絶品だった。まあいいかと今では思っている。シェリアちゃんも最近、お袋やフィーラ公爵家の料理長にお菓子作りや料理を習っているらしい。そういや、この間に彼女を自邸まで送ったらお礼にとクッキーを手渡された。
それがシェリアちゃんのお手製だというのを思い出した。ふうむ。シェリアちゃんなりに頑張っているなと思ったが。俺は再び寝室にある机の1段目の引き出し用の鍵をポケットから出す。鍵穴にそれを差し込むとカチャリと音が鳴り開いた。引き出しを開けて中から3年前に書いた日記帳を取り出した。
それを読んでシェリアちゃんの悲惨な未来は回避できたと思う。が、まだ課題はあった。神から聞かされたシェリアちゃんが本当の聖女であるという事。俺が聖女の対の光の神子だと言う事もそうではあった。魔王の存在が発現するのは今から9年後だ。という事はタイムリミットが10年を切っている。シェリアちゃんの聖女としての封印を解き、覚醒させないといけない。俺はそれを思い出してまずいと思った。神官長--仙人爺さんに進言しないと!!
仕方なく俺は日記帳を再び引き出しに仕舞い込む。鍵をかけてから自室を出たのだった。
俺は神殿に向かうとリアナに告げた。だいぶ驚かれたが。シェリアちゃんの名前を出すとすぐに「わかりました」と返事が返ってきた。リアナはてきぱきと俺に身支度を整えさせるとジュリアスとエル、オズワルドの3人を呼んできてくれる。今年からオズワルドも側近見習いとして王宮に来ていた。
「……殿下。お呼びと伺いましたが」
「ジュリアスか。ちょっと神殿に行きたいから護衛を頼む」
「神殿にですか。何かご用ですか?」
ジュリアスはきょとんとした表情をする。俺はため息をつきつつも答えた。
「……神官長に用があるんだ。シェリアちゃんの聖女としての封印を解いてもらうためにな」
「あ。そうでしたね。シェリア様の封印はまだ解いていないんでした」
「まあ。俺もうっかりしていたが。今からエルとオズも付いてきてくれ」
俺が言うとエルとオズワルドも頷いた。リアナに見送られながら神殿に向かったのだった。
俺は神殿に着くとオズワルドと2人で中に入る。すぐに神官長が応対しに出て来てくれた。
「……おお。エリック殿下にオズワルド殿。どうかしましたかな?」
「神官長。すぐにシェリア殿をこちらに呼んでください。お話は歩きながらしますので」
俺が矢継ぎ早に言うと神官長は片眉を器用に上げた。ちょっと困惑しているようだ。それでも俺は礼拝堂に急ぐ。
「ふむ。殿下。何かありましたか?」
「……すみません。俺とした事が。その。シェリアちゃんの聖女としての封印を解いていただきたくて」
「ああ。その事でしたか。わかりました。今からお呼びしましょう」
神官長は俺がはっきり言うと頷いてくれた。その後、上級魔術の伝達魔法を使ってフィーラ公爵邸に伝書用の鷹の使い魔を飛ばしてくれた。鷹は飛ぶ速さがダントツであるらしい。しばらくするとフィーラ公爵家のシンボルである鷲の姿の使い魔がやってきた。脚には鉄の輪っかが取り付けてある。小さな筒が輪っかにあり神官長は筒の蓋を開けた。中には丸めた小さな紙筒が入っている。それを広げたら内容を確認した。
「……ふむ。すぐにこちらへ来るとの事です。フィーラ公爵も一緒に来られるようですぞ」
「そうですか。わかりました」
俺が頷くと神官長は紙にさらさらと何かを綴るとくるくると丸める。鷲の脚にある筒に入れると蓋をした。
「では。行っておいで。アレ」
アレと呼ばれた鷲の使い魔はぴいと高い声で鳴く。アレは高らかに舞い上がった。神官長が廊下の窓を開けるとバサバサと音を立てて飛び去って行ったのだった。




