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45話

  ラウルとトーマス兄貴に剣術の稽古を持ちかけられてから半月が過ぎた。


  シェリアちゃんも風邪が治って短剣と魔術の稽古を再開していた。俺も爺さんから「魔獣狩りに行っても今であればいいでしょう」と許可をもらえたが。それでも緊急事態に備えて稽古を続けている。まだ、季節は1月の下旬くらいだから真冬になっていた。王都でもちらほらと雪が降り始めていたのだった。


「……エリック様。今日は雪が降っていますわね」


  息を白くさせながらシェリアちゃんが言う。俺は彼女と2人で王宮の庭園を散策していた。今の季節は真冬だから花は咲いていない。その代わり、雪景色が綺麗だろうからと俺から誘ったのだ。俺とシェリアちゃんはコートとマフラー、手袋、足首丈のブーツと完全装備でいる。分厚い布地のズボンも履いていた。これくらいしていても冷気が刺さるようだ。


「ああ。そうだな」


「雪が降ったら銀世界と言いますけど。わたくし、寒いのは苦手です」


「奇遇だな。俺もそうだ」


  2人してポツポツと話しながら庭園を歩く。サクサクと地面に積もった雪を踏みしめた。雪はもう30センチくらいは積もっているようで俺とシェリアちゃんは足をとられそうになる。それでも黙々と歩いた。

  庭園は銀世界だ。木々に雪が積もっていてばさりと落ちる音が聞こえた。俺は寒いなと手をこすり合わせた。


「……シェリアちゃん。そろそろ、中に入ろうか?」


「そうですね。わたくしも寒いと思っていました」


「んじゃそうしようか。俺に付いてきて」


  シェリアちゃんは素直に頷く。俺はシェリアちゃんに手を差し出す。少し躊躇いつつも手を乗せてくれたのでぎゅっと握る。俺は軽く彼女の手を引っ張りながら歩き出す。離れた場所にいたクォンとジュリアス、エルに声をかけた。3人はすぐに来る。エルがシェリアちゃんに大判のショールを持ってきた。


「……シェリア様。お体が冷えたでしょうから。ショールを羽織ってください」


「え。わたくし、けっこう着込んでいますし。ショールはちょっと……」


「シェリアちゃん。羽織っときな。君、ついこないだまで風邪をひいてたの忘れてたのか?」


「……うう。わかりました。羽織ります。すみません。エルさん」


「いえ。では失礼します」


  エルはふわりとショールをシェリアちゃんの肩にかけた。そのまま、胸元の辺りでショールの端っこを結んだ。シェリアちゃんはショールを動きやすいように調整すると再び俺の手を取る。5人でぞろぞろと王宮の中へ戻ったのだった。



  着膨れたシェリアちゃんだったが。中に入るとマフラーなどは外したものの。ショールは一回外しただけで再び羽織り直していた。よほど気に入ったらしい。


「……そのショール。シェリアちゃん、気に入ったのか?」


「……ええ。すごく暖かいですし色と柄が気に入りました。オレンジ色でお花も描かれていて。わたくし、こんな色が好きなんです」


「そっか。それ、お袋。いや。母上がシェリアちゃんにってメイド達と作ったらしいぞ。布地はさすがに買ったけど花の刺繍とかは母上が主に担当したらしいな」


「そうなのですか?」


「ああ。それ、東方の島国の方でも南の島に伝わる織物で出来た布地でな。それを三枚重ねくらいにして縫製したと聞いたな。糸は毛糸で特別に作らせたんだと。んで織物の名前が「ミナス織」って言ったかな」


  まあとシェリアちゃんは感心しながらショールの布地を撫でる。


「……ミナス織はな。南の島では若い女性が織る風習があるんだ。んで女性はそれを完成させたら婚約者の男性に贈ってたんだと。母上はな、それを聞いてわざわざ、ミナス織の織り子を呼び寄せて毛糸で作らせたんだ。試行錯誤したらしいが。そのショールは完成した第一号なんだよ」


「……エリック様。あの。わたくし、これいただいて良いのでしょうか?」


「いいんだよ。シェリアちゃんにはクッキーもらったし。俺の婚約者もちゃんと務めてくれているし。お礼だよ」


「……ありがとうございます。大事にしますわ」


「うん。受け取ってもらえて良かったよ。この事を母上に報告したら喜ぶだろうし」


  そうですねとシェリアちゃんは微笑む。俺も心がホカホカする。その後、シェリアちゃんはミナス織のショールを大事に畳んで邸に持って帰ったらしい。何年経ってもこのショールを彼女が持っていた事をまだこの時の俺は知らなかった。雪は降り続けたのだった--。

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