44話
俺はとうとう6歳になった。
季節は冬の真っ盛りだ。暦でいえば、1月の終わり頃だった。
ウェルズ先生の授業は相変わらず続き、神官長--爺さんの稽古も続いていた。俺とシェリアちゃんが6歳ならラウルとトーマス兄貴は10歳、ジュリアスが28歳、オズワルドも6歳くらいになっていた。
さて、とうとう魔獣狩りの時期まで4ヶ月を切っていた。俺は爺さんにしごかれたおかげでレベルが6にまでなっている。シェリアちゃんもレベルが7で短剣も段々と腕を上げていた。今では聖騎士であるウィンディや巫女であるスーザンと模擬試合をしても5本中、3本は取るくらいにはなっている。めきめきと俺とシェリアちゃんは成長していた。
「……殿下。今日は魔術でも難しいとされている光と聖魔術をお教えしましょう。魔獣は光の魔術を特に嫌うと言われていますからな」
「俺は光の属性を持っていません。それでも覚える必要があると?」
「ええ。聖女であるシェリア様と殿下は対に当たるといってもいい。シェリア様が月の聖女であれば。殿下は光の神子と言っても良いのです。お二人の力が合わさってこそ魔王にも打ち勝てる威力を持つようになる」
爺さんの説明を聞いて俺は驚いた。まさか、俺が光の神子とはね。そしてシェリアちゃんは月の聖女だった。
「……月の聖女も光と聖魔術を扱えます。ですが殿下の方がその力は強い。なので今日は封印を解きたいと思います」
「え。封印を解くって」
「何。痛い事はしません。殿下のうなじの辺りに痣があるはず。そちらに触れてわしの霊力を流し込みます。それで封印を解き、殿下の凝った力を中和しますので」
俺はとりあえず頷いた。すると爺さんは立ち上がりすぐ後ろにまでやってくる。俺のうなじの辺りにそっと手で触れてきた。意外と爺さんの手は乾いているが冷たい。
「……では行きますぞ。我、今太陽神のアタラ神に請い願う。かの者の封印を解き給え!!」
爺さんが祝詞を唱えた。すると俺のうなじの辺りが急激に熱を帯びた。あまりの熱さに俺は体が硬直する。それでも爺さんはやめない。次第に俺と爺さんの周りに白と黄金の光が集まる。眩しくて目を閉じようとした。
「……くっ。殿下。目を閉じてはなりませぬぞ!」
爺さんの一喝に俺はびくっと反応する。けどあまりの熱さと眩しさにもう耐えられなくなっていた。仕方なく早くこの儀式が終わることを願うのだった。
『……神子。我が神子よ』
ふとたおやかな女性の声が聞こえる。俺はゆっくりと閉じていた瞼を開けた。
『気がついたようじゃな。我はそなたを神子に選んだアタラじゃ』
そう言って黄金の髪と瞳を持つ美女が微笑んだ。あれ、ここはどこだ?
『ここは我の住む神界じゃ。そなたに伝えたき事があった故。それでそなたの魂をこちらに迎えた次第での』
「……そうなんですか。アタラ様」
『うむ。すまぬな。あまり時間もない故。聖女にこう伝えておくれ。「そなたの封印も解く必要がある」と。ではの』
俺の視界が白に染まる。また、意識がぷつりと途切れるのがわかったのだった。
「……エ、エリック様!!」
俺は体を揺すぶられる感覚と呼びかける声で目が覚めた。瞼を開けるとそこには眦に涙を浮かべたシェリアちゃんと心配そうにした爺さんの姿がある。
「……あれ。俺は。どうしたんだ?」
「エリック様。良かった。気がついて」
「……シェリアちゃん?」
俺がぼんやりと聞き返すと爺さんはほうと息をついた。
「……殿下。すみませぬ。ちょっと霊力を流し過ぎたようですな。でも気がつかれてようございました」
「そうだったのか。あ、神官長。実は先ほど夢を見たんです。アタラ様と名乗る女神が出ておられました」
「アタラ様ですと?!」
「はい。アタラ様が俺に伝えたい事があるとかで。確か、『聖女の封印も解く必要がある』との事でした」
「……なるほど。つまり、聖女たるシェリア様の封印も解く必要があると」
俺が頷くと爺さんは考え込んだ。辺りは暗くなっているらしく部屋の窓のカーテンが閉め切られていた。シェリアちゃんは俺の手を握って泣き始めた。爺さんと俺は慌てて彼女を慰めたのだった。




