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42話

  俺は夕方に稽古を終えた。


  シェリアちゃんも終わったらしい。何だか、よれよれになっている。俺以上に大変だったらしい。どんな稽古をしたんだ。あのスーザンとウィンディは。


「……大丈夫か?シェリアちゃん」


「……はい。意外とドレス姿で短剣を扱うのは難しいですね」


  答えるのもやっとらしいな。シェリアちゃんはふうと息をつく。仕方ないので俺は肩を貸した。シェリアちゃんも黙ってされるがままだ。ゆっくりと馬車まで歩いていく。今日は俺も疲れているので風呂は後だ。シェリアちゃんは自邸で何とかしてもらうしかない。そう思いつつも馬車の停車場にたどり着いた。護衛騎士のジュリアスが馬車の扉を開けてくれる。


「ありがとよ。ちょっとすまないが。シェリアちゃんのカバンを持ってきてくれ。あの中にポーションが入ってるはずだ」


「わかりました。持ってきます」


  ジュリアスは返事をするとすぐに小走りで鍛錬場に引き返す。俺はシェリアちゃんが馬車に乗りやすいように御者に扉を開けてくれるように言う。御者も慌てて開けてくれた。そのまま、ゆっくりと乗り込んだ。座席に座る。シェリアちゃんは向かい側に行こうとするが。足元がふらついてそのまま、俺の横にへたり込んでしまった。


「シェリアちゃん。無理はするなよ。ジュリアスにポーションを取りに行ってもらったから。ちょっと待っててくれ」


「すみません」


「シェリアちゃん。仕方ないから俺に寄っかかってもいいぞ。疲れたろう」


「……わかりました。では失礼します」


「うん。少しの間、休んでいたらいい」


  そう言うとシェリアちゃんはそっと俺の肩に寄っかかってきた。ずしりと重みがくるが。それでも男である俺よりは軽いものだ。しばらくジュリアスを待つ間、静かだが親密な時間を過ごしたのだった。



「……殿下。ポーションを持ってきました。あれ、シェリア様は……」


「……静かに。よっぽど疲れたんだろうな。邸に着くまではこのままで」


「わかりました。でしたら、ポーションは殿下に預けておきます」


  ジュリアスが小声で言う。俺は頷いてポーション入りのカバンを受け取った。ジュリアスは静かに馬車から降りると扉を閉めた。馬車はそのまま動き出す。が、シェリアちゃんは眠ったままで動かない。かなり熟睡している。俺は肩が痺れてきたが。彼女が起きるまで待ったのだった。



  その後、フィーラ公爵邸に着いた。さすがに起こさないとまずいか。そう思い、俺は肩に寄っかかっていたシェリアちゃんを揺り起こそうと身じろぎした。すると「……ん」と言ってシェリアちゃんが顔をしかめる。ゆっくりと瞼が開いた。


「……あら。メイサは?」


「起きたか。おはよう。シェリアちゃん」


  寝ぼけているらしいシェリアちゃんにちょっと皮肉げに言ってしまう。けどそれで一気に目が覚めたようだ。


「あ。エリック様?!」


「……ああ。よく寝てたな。もう邸に着いたぞ」


「……そうですか。すみません。あの。疲れていたとはいえ、エリック様に寄りかかってしまうなんて」


  シェリアちゃんは慌てて俺から離れた。俺は苦笑しながら手を伸ばした。乱れた髪の毛を軽く直してやる。

  シェリアちゃんはすぐに赤くなった。口元によだれがないか確かめるために手を当てている。その仕草も可愛いなと思ってしまう。それでもいつまでも馬車に乗っているわけにもいかない。


「シェリアちゃん。そろそろ降りようか」


「……はい。あの。ポーション入りのカバンはどこですか?」


「ああ。それだったら俺が持っているよ」


  俺は横に置いていたカバンを手に取る。それをシェリアちゃんに手渡した。受け取るとカバンから1本の小瓶を取り出す。


「あの。これは上級ポーションです。今日のお礼ですわ」


「ありがとよ。今日にでも飲んでおく。後、降りるんだったら俺が手伝うから」


  そう言うと同時に扉が開いた。小瓶の蓋を開けて急いで中身をあおる。ぐびぐびと全部を飲み干した。空いた小瓶を心配して入ってきたジュリアスに渡す。そのまま、ジュリアスにシェリアちゃんが降りようとしている事を伝えた。ジュリアスは頷くと馬車の中から出た。俺も降りた。後で降りようとするシェリアちゃんに手を差し伸べて手助けする。シェリアちゃんが降りてから邸の中までエスコートした。その後、シェリアちゃんからお礼だと言う事で手作りのクッキーをもらった。トーマス兄貴からは超上級ポーションをもらった。そうして王宮に帰るために再び馬車に乗り込んだのだった。


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