39話
俺がシェリアちゃんと一緒に修行をするようになってから早くも1カ月が過ぎた。
その間に俺もシェリアちゃんも魔術や武術の腕を上げている。レベルや経験値は最初、1ぐらいだったのが神官長--爺さんによると3くらいにはなったらしい。とりあえず、俺は長剣の扱いに少しは慣れてきたと思う。シェリアちゃんは魔術のレベルがだだ上がり中で回復と治癒が既に4くらいにはなっていた。俺も2くらいだが。
「……ふむ。殿下の剣の腕も上がってこられましたな」
爺さんが修行中にそう言ってきた。俺は首を傾げる。実感がわかないからだが。シェリアちゃんは短剣の前に体術の稽古をやっている。いわゆる自習だ。爺さんは今俺に剣の稽古をつけていた。
「そうでしょうか。まだ、上がった実感はありませんが」
「まあ、実戦経験がないとわかりにくいものです。そうですな。ちょっとまた魔獣狩りに行かれてはどうですか?」
「……まあ。いいですけど」
「それと。今回の魔獣狩りにはシェリア様も連れて行きなされ。聖女の力を強める良い機会ですぞ」
「はあっ?!爺さん、本気か」
俺はつい、本音を言ってしまっていた。爺さんは目を丸くしている。仕方なく咳払いをした。
「……すみません。ちょっと口が滑ってしまいました」
「いえ。構いませんぞ。まあ、じじいなのは本当ですからな」
爺さんはぽりぽりと頬をかく。俺はやっちまったと項垂れる。
「……殿下。それでは魔獣狩りをする旨は陛下に伝えておきますぞ。そのつもりでいてくだされ」
「わかりました」
「では。稽古を再開しましょうかな」
俺は頷くと長剣を構え直す。爺さんも同じようにすると剣術の稽古は再開されたのだった。
稽古が終わるとシェリアちゃんと一緒に王宮の私室に向かう。
侍女のリアナに言って先にシェリアちゃんに風呂を使うように勧める。シェリアちゃんは「すみません」と言いながら浴室に行った。俺は他の侍女に言って水で濡らしたタオルを持ってきてもらう。上着を脱いで上半身だけタオルで汗を拭いた。ささっとズボンも脱いだ。一応、下着姿だが構わずにタオルで足の方も拭いた。終わると上着やズボンを着直す。使い終わったタオルを侍女に手渡すとシェリアちゃんが上がるのを待った。
「……殿下。シェリア様が湯浴みをお済ませになりました」
リアナが報告しに来た。俺はソファで待っていたが。その声に俯けていた顔を上げる。
「そうか。シェリアちゃん、もう上がったんだな」
「はい。シェリア様もお着替えが終わったらこちらにいらっしゃると思います」
「わかった」
頷いてシェリアちゃんが戻ってくるのを待ったのだった。
「……あの。浴室を貸していただきありがとうございます」
顔を赤らめながらもシェリアちゃんはお礼を言ってきた。俺は鷹揚に頷いた。
「お礼はいいよ。あのまま、公爵邸に帰すわけにもいかないから」
「そうですか。確かに兄様に見つかると大事ですものね」
「……確かに。トーマス兄貴に見つかったら俺は締め上げられるな」
シェリアちゃんの言う通りだった。トーマス兄貴はゲームと違い、すごいシスコンだ。妹のシェリアちゃんに何かあったら怒って俺にも凄い目で睨みつけてきた事がある。ラウルも実の兄弟ではないが。シェリアちゃんへの溺愛っぷりの片鱗が伺える。将来、結婚でもできたらデロデロに甘やかすのは目に見えていた。俺はどうだろう。あの2人ほどではないと思うが。
「……エリック様。あの。湯浴みをしてきたらどうでしょう」
「あ。そうだな。シェリアちゃんはもう帰っていいよ。でも髪を乾かさないと風邪をひくな」
俺は無詠唱で温風を起こすとシェリアちゃんの髪に触れた。意外と柔らかくてサラサラしている。慎重に全体的に温風を当てた。しばらくして髪は完全に乾いた。
「ほい。終わったぞ」
「……ありがとうございます」
シェリアちゃんは凄い照れているのか顔や耳が真っ赤だ。俺はにっこり笑って彼女の頭を撫でた。
「……ああ。気い付けて帰れよ」
「はい」
シェリアちゃんは頷くとリアナと共に部屋を出ていく。俺はしばらく見送るとソファから立ち上がった。入浴する為に浴室に向かうのだった。




