38話
俺がシェリアちゃんと鍛錬を始めてから1時間が経った。
爺さんは俺に剣を向ける。そして俺も長剣を構えた。
「……殿下。行きますぞ」
「……はい」
頷くと爺さんが年齢を感じさせぬ素早い動きで斬り込んできた。俺は後ろに飛びすさって避ける。が、余計に間合いを詰められてしまう。爺さんは剣を振りかぶり斬りつけてきた。俺は長剣を横向きに構えて爺さんの剣戟を受け流そうとする。が、大人と子供の体格差が仇になった。俺は体重が軽いせいもあってそのまま吹っ飛ばされた。ざざっと音が鳴り背中と臀部辺りを地面にしたたかに打ち付けた。じんじんと打ち付けた所が痛んできた。
「……つう。爺さん。ちょっとは手加減してくれよ」
「ほっほ。殿下。大人に勝とうという方が無謀ですぞ」
勝ち誇った笑みを浮かべる爺さんが本当に憎たらしい。俺はぎりと唇を噛み締めた。もっと強くならないといけない。目指すは叔父のラウルのようにならなければと焦る気持ちが湧く。
「殿下。焦っても何にもなりません。今は少しずつでも武芸と魔術などを身につけねば。あなたは聖女を守る守護者の1人。
それを自覚なさいますよう」
「わかりました。神官長。続きをお願いします」
「その意気です。では今度は魔術の鍛錬をしましょうかな」
俺は頷いた。シェリアちゃんが慌ててこちらへやってくる。
「エリック様。大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと尻餅をついただけだよ」
「……お顔にもすり傷が。治癒術をかけますわね」
そう言うとシェリアちゃんは手を俺の頬にかざした。ぽうと白くシェリアちゃんの手が光りヒリヒリと痛かった部分に当てられる。すうと痛みが引いていく。シェリアちゃんはそのまま、背中や臀部にも触れるか触れないかの微妙な近さで治癒術を施していった。おかげですっかり痛みは無くなる。
「ありがとう。だいぶ、痛みが無くなったよ。シェリアちゃんは怪我はないか?」
「わたくしにはありませんわ。心配していただいてすみません」
「ないんだったらいいんだ。じゃあ、俺は魔術の鍛錬に戻るよ」
気をつけてとシェリアちゃんは言う。それに笑って頷くと爺さんの元に行く。魔術の鍛錬を始めたのだった。
そうして俺は爺さんとみっちり2時間は魔術の鍛錬をした。シェリアちゃんも後で魔術や短剣の稽古をつけてもらっていた。
俺は何度も怪我をするたびにシェリアちゃんに治癒術をかけてもらっていたが。本人は爺さんに短剣の稽古をつけてもらう頃にはヘロヘロになっていた。俺も心配ではあったのでシェリアちゃんが怪我をしたり体力切れを起こしそうになったら彼女が持ってきていたカバンからポーションを出しておいた。それを渡して飲むように勧めたのだ。最初は渋っていたが。何度かいう内にポーションを受け取って飲むようになった。これのおかげか最後辺りには気絶は防げた。けどシェリアちゃんはぶっ倒れる寸前だった。
「……大丈夫か?」
「……うう。目が回ります」
爺さんも慌ててこちらにやってくる。俺は自分の肩にシェリアちゃんを寄りかからせた。
「おお。すみませんな。シェリア様。上級ポーションを持ってきますので。少し待っていてくだされ」
「お願いします」
俺が言うと爺さんは小走りで奥に向かう。少し待っていたら青い色をした液体入りの小瓶を持って爺さんが戻ってきた。
「上級ポーションを持ってきましたぞ。殿下、シェリア様に飲ませてくだされ」
「はい」
頷くと俺は受け取る。小瓶の蓋を開けるとシェリアちゃんの口元にあてがう。彼女も分かったのか口を開けてくれた。小瓶をゆっくりと傾けてポーションを飲ませた。こくりとシェリアちゃんとは嚥下する。何度か傾けては飲ませるのを繰り返した。中身が全部無くなるとシェリアちゃんの顔色がだいぶ良くなった。
「気分はどうかな?」
「だいぶ楽になりました。まだ腕とか足がだるいですけど」
「……そっか。じゃあ、馬車まで送るよ」
シェリアちゃんは頷いた。俺は爺さんに帰る旨を伝えた。爺さんは気をつけてと言って神殿の入り口まで送ってくれたのだった。




