37話
神殿に着くとさっきと同じようにシェリアちゃんをエスコートした。
先に降りて手を差し出す。シェリアちゃんはニコリと笑って俺に自分の手を重ねた。俺はさっきよりも優しく引っ張り彼女が降りやすいように支える。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
そんなやりとりをしながら俺は行こうと促した。神殿の入り口であろう所に真っ白な神官特有の衣装に身を包んだ女性が2人待ち構えていた。どうやら神殿に仕える巫女さんのようだ。
「……よくぞお越しくださいました。聖女様。殿下」
「初めまして。聖女と呼ばれるにはまだ早いですけど。フィーラ公爵家の者でシェリアと申します」
「シェリア様とおっしゃるのですね。私は巫女で名をサラと申します。隣にいるのが同僚で同じく巫女のターニャです」
サラと名乗った巫女は淡々と告げる。ターニャというらしい巫女も無表情だ。2人は人形のような印象を受ける。
「ここで立ち話も何ですから。中にお入りください」
俺は頷くと歩き出す。シェリアちゃんも後に続いた。サラとターニャに案内されて礼拝堂に入ったのだった。
「……よくぞお越しくださった。久しぶりに光の聖女が現れたそうですな」
礼拝堂にて出迎えてくれたのは神官長だ。名をダリウスという。俺は秘かに仙人爺さんと呼んでいた。この爺さん、けっこう食えない人だと親父が言っていた。
「……ごきげんよう。神官長様。光の聖女に選ばれたのはわたくしだそうです」
「何と。シェリア様が。それで殿下がご一緒なのですな」
「ええ。父上からシェリア殿を神殿に送るように言われまして。護衛までいきませんが。1人で行かせるより良いだろうと父上は仰せでした」
「そうでしたか。では闇の聖女は……」
「闇の聖女は我が妹のシュリナです。けどあの子はまだ小さいので。修行できるまでは待った方が良いと思います」
俺が言うとふむと爺さんは唸った。顎を撫でている。
「……なるほど。仕方ありませんな。では殿下と一緒にシェリア様には色々と教えねばなりませぬ」
「色々ですか?」
「はい。まず、シェリア様。それに殿下も。お2人とも奥へご案内しましょう」
俺とシェリアちゃんは不思議に思いながらも爺さんに付いて行ったのだった。
爺さん--神官長が案内してくれたのは地面がむき出しのドーム型になっている鍛錬場らしき所だ。壁には頑丈な白虎岩が使われているようで結界が張られているのが見てもわかる。シェリアちゃんも驚いているようでキョロキョロと辺りを見回していた。
「シェリア様。ここで殿下と魔術の鍛錬をします。治癒と回復、攻撃増強や防御付加、攻撃魔法などをあなたにも習得していただく予定ですので。そのつもりでいてください」
「わかりました」
「では。1時間後には鍛錬をしようと思います。シェリア様と殿下は動きやすい服装に着替えてきてくだされ」
はいと2人で頷く。サラとターニャにそれぞれ案内されて神殿の客間に行ったのだった。
その後、俺は簡素なシャツとズボンに着替えた。髪は伸ばしていないのでそのままだ。鍛錬場に行くとシェリアちゃんが既にいた。彼女も似たような格好だ。違うのは編み上げのブーツを履いているくらいか。
すると神官長もとい爺さんが鍛錬場にやってきた。爺さんも動きやすい服装だった。手には長剣と短めのステッキを持っている。
「準備はできたようですな。長剣は殿下がお持ちください。シェリア様はステッキを」
「……神官長。何で俺は長剣なんですか?」
「いずれは必要になると思いましてな。剣に魔力を纏わせる技もあります故。覚えていただきますぞ」
俺は仕方ないと諦めて長剣を受け取った。シェリアちゃんもステッキを受け取る。
「では。まず、シェリア様。初級の風魔法を使ってくだされ」
「……はい」
爺さんに言われたのでシェリアちゃんは無詠唱で風魔法を繰り出す。ウィンディカッターとか言ったか。風が巻き起こり爺さんが用意していた紙をスパッと切ってしまう。シェリアちゃんの魔法、すげえ。爺さんも驚いていたが。すぐに満足そうに頷いたのだった。




