33話
俺達はブリザードレックスを倒した後も魔獣と何回か遭遇した。
ファイアウルフとかゼグダという土属性の魔獣もいる。ファイアウルフには氷魔法をラウルが使い、俺も後援で攻撃増強や防御付加を使って大人三人組を助けた。子供とはいえ、俺とラウル、トーマス兄貴は魔力が高い。しかも貴族や王族の血筋だ。魔力量も多かった。特にラウルの魔力は質も量もダントツだ。ちなみに俺の属性は炎と風、氷に特化していた。ラウルも氷、土、光の属性に特化している。しかも奴は聖属性や治癒魔法の類も得意で能力値も非常に高い。これ、いわゆるちょっとしたチートなんじゃねえ?
悔しくも諦念に至るには十分な事実だった。叔父上、どんだけなんだよ!!
とまあ、悲痛な叫びを上げたって現実は変わらない。シェリアちゃん。いつか、ラウルのとこに嫁に行っても逃げないでくれよ。ラウルの奴、本気で国に反旗を翻しそうで怖いからさ。俺は情けないと思いつつもラウルに親指をぐっと立てた。
「……?」
「叔父上。グレートだな」
「……ああ。まあ、お前の気持ちは受けとっておく」
ラウルは頷いて同じように親指をぐっと立ててくれた。意味はスズコ様から教わっていたらしい。わかってくれて何よりだ。そう思いながらにかっと笑う。ラウルも同じようにする。そして続けてハイタッチをしたのだった。
『ふふ。男同士で仲がいいじゃない』
ふうと俺から半透明の何かが出てきた。それはぼんやりと人の姿を取る。俺もラウルも驚きのあまり絶句した。
「何だ?!」
「……もしかして矢恵さんか?」
俺が落ち着いて問いかけると矢恵さんの魂もとい、幽霊は頷いた。
『そうよ。久しぶりね。エリック君』
「エリック。この人は……」
ラウルは初対面なのでいきなりの矢恵さんの登場に戸惑っているらしい。それもそうかと俺は思い、矢恵さんを紹介した。
「……この人は俺の前世でスズコ様と同じ異世界人の新堂矢恵さん。ちなみにこの世界がゲームというものの中とそっくりだと教えてくれた人だよ」
「ああ。この人がエリックの前世か。母上と同じニホンから来たという……」
『そうよ。初めまして。ラウル君』
「……初めまして。ヤエさん。俺はエリックの叔父でラウル・ラルフローレンと言います。以後お見知りおきを」
『ええ。こちらこそ宜しくね』
矢恵さんはにっこりと笑った。俺との時とはえらい違いだな。
「で。矢恵さん。俺からわざわざ出てきたのはどうしてなんだ。以前は夢の中でしか会えなかったじゃないか」
『……そうなのよねえ。たぶん、エリック君の魔力が影響しているんじゃないかな。私、こっちの神様から自由に出入りできるように術をかけてもらったの。エリック君の魔力が強くなったら外に出られるように』
「へえ。俺の魔力が強くなったから出られたって事か?」
『うん。そうみたいよ。それとこれは神様からの伝言。エリック君がシェリアちゃんと婚約解消したいなら魔物や親玉の魔王に気をつけろだって』
「……それは穏やかじゃないな。エリックと俺だけで勝てる相手じゃないというところか」
ラウルがそう言うと矢恵さんは頷いた。
『……ラウル君。エリック君を助けてあげてね。でないとシェリアちゃんが危ないわ』
「それはどういう事だ。矢恵さん」
『その。神様が言うには魔王が現れるのは今から十年後だそうよ。エリック君、ラウル君。このゲームの攻略対象者達は知っているわね。オズワルド君達がそうよ。彼らと一緒に魔王を倒して。でないとシェリアちゃんは消されてしまう』
「え。それってつまり。シェリアちゃんは魔王に命を狙われてるって事か?」
問うと矢恵さんはそうよと言う。彼女の話によるとシェリアちゃんこそが真の聖女らしい。元々、フィーラ公爵家は聖属性魔法に優れた者が多いとは聞いた。矢恵さんは何故、シェリアちゃんが処刑か修道院ルートなのかも教えてくれる。それは彼女こそが聖女であるために魔王一派が早くから闇堕ちさせて自滅するように仕向けていたらしい。早めにシェリアちゃんに聖女として覚醒してもらう必要もあると矢恵さんは教えてくれたのだった。




