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31話

  俺はウィリアムス師と話をしながらもシェリアちゃんの事が気掛かりでいた。


「……エリック様。いかがなさいましたか?」


  ウィリアムス師が心配そうに聞いてくる。俺は驚きながらも答えた。


「いえ。ちょっと婚約者の事が気掛かりで」


「そうですか。でも今は魔物や魔獣に集中していてください。気の緩みが命取りになりかねませんからね」


「わかりました」


  ウィリアムス師の忠告に俺は頷いた。5歳とはいえ、俺は王族だ。それを忘れてはならないな。しかもここは安全な王宮ではない。それを失念していた自分が恥ずかしくなる。


「エリック様。まあ、今は私やジュリアス達がいます。緊張し過ぎず、我らから技の一つでも盗もうというくらいの気持ちでいたらいいですよ」


「……はあ。技の一つでも盗むですか。それはまた難題ですね」


「ふふっ。それくらいの気概は持っていただきたいのです。では。馬を飛ばしますよ。舌を噛まないように口を閉じていてください」


  ウィリアムス師はそう言うと馬の腹を鐙で蹴って合図を入れた。ひひんと馬が鳴き、一気に駆け足になる。他のメンバーも同じようにしたらしい。俺はただ師の背中にしがみついて舌を噛まないように歯を食いしばったのだった。



  あれから、10分程は飛ばしただろうか。森の入り口辺りまで来ていた。馬を休めさせるためにひとまずは休憩を取っていた。


「エリック様。水を飲みますか?」


  そう言ってきたのはエルだ。俺は鉄製のカップに入った水を受け取ると一気に(あお)った。ごくごくと飲み干したらカップを再び彼に手渡す。


「ありがとよ。ちょっと喉が渇いていたから助かった」


「それは良かった。エリック様。お腹は空いていませんか」


「……そういえば。空いているかもな」


「わかりました。待っていてください。乾パンを持ってきますね」


「ああ。そうしてくれ」


  頷くとエルはウィリアムス師やジュリアス達の所に行く。荷物を探って紙包みを出した。それを持ってこちらに戻ってくる。エルは乾パンと他の携帯食を持ってきてくれた。俺のように小さい子供でも食べやすいようなドライフルーツ、ビスケットもあった。まず、乾パンと水を手渡してきた。俺は受け取ると乾パンをちょっとずつかじる。水で流し込んだ。


「……乾パンは食べにくいな」


「仕方ありませんよ。携帯食はこんなものです」


  ぼやきながらも乾パンを食べてしまう。本当に腹は減っていたらしい。エルからドライフルーツとビスケットも受け取るとそれも食べた。うん。やっぱり、ドライフルーツが一番うまい。ビスケットもちょっと塩味がきいていて良いのだが。けどチキンのトマト煮が食べられないのが辛かったりする。まあ、帰ったらいつでも食べられるか。


  その後、エルの甲斐甲斐しい世話のおかげでお腹は満たされた。馬達も腹一杯草を食べて水もたらふく飲んだらしい。顔を見ると機嫌が良さそうだ。ジュリアスやウィリアムス師、トーマス兄貴、ラウル、クォンも休憩は終わったようだ。エルも手早く食事を終えている。そろそろ行くかという話になり馬たちを連れて森の中に進む。ここからは乗って行くわけではないようだ。


「エリック様。ここからは魔獣や魔物達の巣窟です。我々とはぐれたりしないように気をつけてください」


「……わかりました」


「では行きましょう」


  頷くとウィリアムス師が歩を進める。俺は後ろにいたラウルが前に来たので驚く。無言で手を差し出した。俺はすぐにはぐれないためだと気付いた。手を乗せるとぎゅっと握られた。そうしてゆっくりと進み始めた。

  森は鬱蒼としていて日の光が届いていない箇所もあった。薄暗いというのが一番わかりやすいだろうか。ラウルは前を向いてウィリアムス師の後ろを歩く。俺も付いて行ったのだった。それでも魔獣や魔物の気配があって頬がピリピリする。知らない間に緊張して手に汗をかいていたのだった。

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