29話
俺はシェリアちゃんと想いが通じ合ったが。
ラウルがまた来るとリアナが知らせてきた。スズコ様も一緒かと聞いたが。リアナは「いいえ」と答える。
「……え。スズコ様は来ないのか?」
「スズコ様は。表向きは病によりイルミナ伯爵家にて療養中だそうですが。実際は修道院にお入りになったと聞きました」
「スズコ様が修道院に?!」
「はい。何でも自分がラウル様のお側にいたら良くないとかで。それで陛下に許可をいただいて修道院に入ったそうです。ラウル様は現在、ラルフローレン公爵家に養子入りなさったと聞きました」
「そうか。ラウル叔父上も気の毒に。唯一の肉親でいらしたのに。スズコ様が修道院にお入りになったら今までよりも疎遠になるな」
そう言うとリアナもそうですねと頷いた。たぶん、ラウルが公爵家に養子入りしたのは俺のお袋、現王妃の実家が動いたのだろう。スズコ様が俗世を離れてしまえば、ラウルの有力な後ろ盾がなくなる。たぶん、親父はラウルが王太子たる俺の政敵にならないために先手を打ったのだ。もう、俺も5歳とはいえ、矢恵さんの影響で政治的な事はわかるようになってきた。
「殿下。とりあえず、ラウル様がご挨拶をしたいと仰せです。どうしますか?」
「わかった。通してくれ」
頷くとリアナはドアを開けて部屋を出て行く。俺は寝室を出て応接間に行った。少ししてラウルがやってきた。俺は彼を見てちょっと驚いた。
ラウルは9歳になっているはずだ。俺よりも15センチくらいは背が高くなっていた。今の俺で130センチくらいだからラウルは145センチにはなっているだろうか。とにかく、最後に会った時よりもだいぶ大人びて体格も良くなっている。
「……叔父上。お久しぶりですね」
「はい。殿下にはご機嫌麗しく。ようございました」
ラウルは俺を見ても以前みたいに乱暴な口をきかない。とても丁寧でちょっとよそよそしい感じだ。どうしたのだろうと思っていたらラウルが頭を下げてきた。
「殿下。以前は失礼を致しました。私は今後は家臣という立場で接することをお許しください」
「叔父上……」
「どうかなさいましたか?」
俺は目配せをしてリアナに退出するように促した。すぐに気づいてリアナは壁際に立っていた他のメイドや女官達を連れて退出する。ドアも閉められた事を確かめると防音魔法と結界を展開した。これでよしと。そう思いつつも俺はラウルに向き直った。
「叔父上。スズコ様が修道院に入ったと聞いた。叔父上も公爵家に養子入りしたと。何故、こんな事が起きたのか。ちょっと訳を聞きたいんだが」
「……ふう。やっぱり聞いていたか。そうだよ。母上は修道院に入った。いや、入らされたんだ」
ラウルはそう言うとくしゃりと前髪を握り込んだ。その顔は悔しそうだった。
「やっぱりなあ。スズコ様が自分から修道院に入ったなんておかしいと思ったんだ。て事は俺の父や母が裏で手を回したな」
「そうだよ。俺がいると邪魔なんだと。だから、陛下は俺に公爵家に養子入りしてエリックを支えろと言ってた」
「そうか。すまない。俺がもっと早くに気づいていれば。陛下に言ったんだが」
「……そんなに思いつめなくていいよ、エリック。俺は王になる気はない。まあ、シェリア殿を助けるのは協力するが」
「叔父上。母君と引き離されて辛いだろ。シェリアちゃんの事は明日でもいいよ。あの子もそんなに怒らないと思うけど」
そう言うとラウルは苦笑する。が、目の下にクマができていて眠れていないのだと気づく。俺はソファから立ち上がり彼に近づく。シェリアちゃんの兄--トーマス兄貴に習った回復術をかけた。すると淡く俺とラウルの体が輝く。すぐに光は消えたが。ラウルの顔色が良くなったのを確認すると離れた。
「……ありがとよ。エリック」
ぽつりと礼を言ってきた。俺は笑って「どういたしまして」と答えたのだった。




