28話
シェリアちゃんに説明をしてから一時間が経った。
「……俺はその。シェリアちゃんには無事でいてほしいと思っている。さっき話したように君はこのままでいると修道院行きか処刑の最期が待っている。それを防ぐためには親父、陛下や王妃陛下の協力が必要なんだ」
「エリック様。難しい事はまだわかりませんけど。わたくしが婚約者のままでいると。いけないんですね?」
「すまない。いずれはそうなるかもしれない。シェリアちゃん。それでも俺は君の幸せを願っているよ」
シェリアちゃんはそう言うとほろほろと涙を流した。俺は胸が傷んだ。こんな小さな女の子に運命はむごい事をする。これから、シェリアちゃんは大変な目に遭うだろう。俺は彼女にどれだけの事ができるだろうか。
「……エリック様。ごめんなさい。泣いたりして。わたくしも頑張ります。その。抱きしめていただけませんか?」
赤い顔で言われて俺も顔に熱が集まるのがわかった。いきなり、言い出すとは女の子とは恐るべしだ。それでも俺は言われた通りにシェリアちゃんの体をそっと引き寄せた。両腕で緩く囲う。要は優しく抱きしめたのだが。
「嬉しい。やっと二人きりの時に抱きしめていただけた。わたくし、こうしていただけたら。今後も頑張れそうな気がします」
「え。シェリアちゃん?」
「いえ。以前抱きしめていただいた時はラウル様がおられましたし。わたくし、ちょっとそれが不満で」
俺は余計に顔が熱くなるのがわかった。何だ、この生き物。4歳にしてこんな事を言うとは。シェリアちゃん、君俺と同い年だったよな?!
「……シェリアちゃん。わかったよ。また、二人きりになれた時にこうやって抱きしめようか?」
「……そうしてください。わたくし、初めてお会いした時からエリック様の事が好きでしたのよ」
「そ、そうか。こんな俺でも君は好きでいてくれたんだな」
俺は改めてシェリアちゃんを抱きしめる力をちょっと強くした。じんわりと胸が温かくなる。こんな可愛い子を叔父上に譲るだなんて。以前の俺は何を考えていたんだ。けどいずれは婚約者をやめないといけない。シェリアちゃん。俺も言っていいのかな。
「シェリアちゃん。俺も。こんな事を言うの反則なんだけど。君の事が好きだよ」
「……エリック様」
つい、言ってしまった。ごめんな。君の事を惑わすような事を言って。そういう思いを込めて俺はシェリアちゃんを強く抱きしめたのだった。
しばらく抱きしめ合った後、シェリアちゃんはにっこりと笑った。今は互いにソファに隣り合って座っていたが。
「エリック様。やっとお互いの気持ちがわかりましたわね。わたくし、エリック様に何があろうとこの事は忘れませんわ」
「うん。シェリアちゃん、ありがとう」
「わたくしはエリック様の事を好きです。これからもずっと」
「……シェリアちゃん。その。俺と婚約解消になったりしたらラウル叔父上にお願いしてあるから。その時が訪れたら叔父上
に頼るといいよ」
「そうですか。結局、わたくしはエリック様のお妃にはなれないのですね」
シェリアちゃんは落ち込んでしまった。俺はシェリアちゃんの肩に腕を回して引き寄せた。まだ、俺と彼女では5センチ程しか身長は変わらないが。それでも俺の肩にシェリアちゃんの頭を乗せた。
「大丈夫だよ。ラウル叔父上は俺らよりしっかりしているから。シェリアちゃんの事を大事にしてくれるよ」
「……わかりました。わたくし、わがままを言ってしまいましたね。すみません」
「いいよ。謝らなくて。俺も無粋な事を言ってごめん」
シェリアちゃんはいいえと言うと瞼を閉じた。俺は彼女の背中を撫でた。静かな時間は過ぎていったのだった。




