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27話

  俺がウィリアムス師に剣術を習い始めてから一年と三ヶ月が経っていた。

 

  少しずつだが俺の剣術の腕も上がってきているように思う。ウィリアムス師は何も言わないが。それでもこれは良い事だ。

 ジュリアスやオズワルドも俺以上に腕を上げている気もしなくもないがな。

  俺付きのリアナやミア達は変わらずに仕えてくれている。親父とお袋も相変わらずだが。シェリアちゃんも何故か王城に来ては俺に会いに来るようになった。どうしてなのかは謎だ。

  それをリアナに言ったら「殿下は女心がわかっていませんね」と呆れ気味に告げられた。鈍いとはミア談だが。

  俺はもしやシェリアちゃんに好かれているのではと思ったが。でもあの子に限ってそれはないだろう。とか考えていたのだった--。



「……ごきげんよう。殿下」


  シェリアちゃんがにっこりと笑って挨拶をしてくる。その笑顔に俺はぽうっとなった。はっきり言って心臓に悪い。顔が熱いのがわかるぜ。


「殿下。どうかなさいましたか?」


「……いや。何でもない。こんにちは。シェリア殿」


「はい。今日も剣術の稽古ですか?」


「そうだが。シェリア殿も剣術に興味があるのか?」


「いえ。興味はそんなにないのですけど。ただ、殿下がお怪我をしないか心配で」


  シェリアちゃんの言葉にまた熱が上がったような気がした。


「……そうか。まあ、心配は無用だよ。俺も気をつけるし」


「殿下。はぐらかさないでください。そこかしこに傷があると兄様が言ってましたよ」


  兄様と言ったらトーマス兄貴か。抜かった。そうだ、シェリアちゃんは兄貴の実の妹で。知っていてもおかしくなかった。


「ふう。シェリア殿には敵わないな。確かにすり傷や切り傷はしょっちゅうだよ。でもこれくらいは大丈夫だから」


「大丈夫だからって。わたくしは仮にも婚約者です。傷の心配をするのはダメなのですか?」


「……シェリア殿」


「殿下。何かあったのなら言ってください。わたくしを避けておられるのは以前からわかっていました。でも理由があるのだと兄様は言っていました。それは殿下にとって大事な事なのでしょう。嫌なのであればシェリアは何も聞きません。もし良ければ聞かせてください。どんな小さなことでもかまいません。わたくしは殿下の負担を少しでも軽くしたいのです」


「……そうか。俺は君にすごく心配をかけてたみたいだ。悪かったよ。その。掻い摘んで話してもいいかな。全てを知ったら。シェリア殿に負担をすごくかけてしまうし」


  そう言うとシェリアちゃんは俺の事をじっと見つめた。そしてこくりと頷いた。


「わかりました。わたくしがもっと大きくなったら。全てを話してもらえますか?」


「ああ。いいよ。その時になったら全部をちゃんと話すよ。約束する」


  俺は頷いた。シェリアちゃんは花がほころぶように笑う。それに見とれてしまった。はっと我に返る。


「じゃあ、俺の部屋に行こうか。応接間ならいいかな」


「はい。行きましょう」


  シェリアちゃんが俺に手をそっと差し出してきた。俺はその手をぎゅっと握る。一緒に自室へ向かったのだった。



  自室へ入ると俺はドアの鍵を閉めた。かちゃっと小さな音が鳴る。シェリアちゃんはまだ気づかない。そして防音魔法と結界を厳重にかけた。


「……殿下。それで先程の事ですけど」


「ああ。今から話すよ」


  頷いてシェリアちゃんにソファを勧めた。向かい合わせで座ると俺は深呼吸をする。


「……シェリア殿。いや。シェリアちゃん。俺は今は男だけど。前世では女であった記憶があるんだ。こう言ったって簡単には信じられないだろうけど」


「えっ。殿下は以前は女性だったのですか?」


「前世--こことは違う世界で俺は女性として生きていた。その人は新堂矢恵という名前だった。けど不慮の事故で亡くなった」


  シェリアちゃんはあまりの事に答えが返せないでいる。そりゃそうだろう。俺であってもすごく戸惑う自信があるぞ。それでも俺は説明の続きを話したのだった。

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