26話
俺がウィリアムス師とシェリアちゃん宅を訪問してから一週間が過ぎた。
何故か、カーティスとオズワルド、ウィリーがウィリアムス師の稽古に加わるのがしょっちゅうになっていた。確かウィリーは剣術に向いてないと言われたんじゃなかったか?
カーティスもウィリアムス師には「基礎がなってない」と怒られていたのを覚えている。唯一、オズワルドくらいだろう。稽古がまともにできているのは。
「……殿下。どうかしましたか?」
オズワルドが不思議そうに訊ねてきた。俺はため息をついた。
「いや。何でもない。ただ考え事をしていた」
「はあ。考え事ですか」
オズワルドがぽかんとした顔で聞き返してきた。俺は仕方ないと思いながらも答えた。
「……ウィリーは剣術に向いてないと言われているのに。何でいるのかとか。カーティスだって基礎がなってないと言われたのにいるし」
「……はあ。それはそうですね。僕は気にしていませんでした」
「だろうな。オズはあんまり気にしたって仕方ないと思っているのだろう」
「まあ。そうですね」
「俺にしたらウィリーとカーティスは魔術の方が向いていると思うんだが」
俺が言うとオズワルドは意外そうに目を見開いた。
「殿下はよく見ていますね。僕はそこまで気がつかなかったです」
「まあ。一応、あの二人とは半年近くは顔を合わせているから。だからわかるんだ」
「……なるほど。僕も少し気をつけてみます」
オズワルドは俺がアドバイスすると頷いた。けっこう素直な奴だ。
俺はそう思いつつも頬を掻いた。
「オズ。あくまで俺の意見だから。少しは自分の頭も使って考えろ」
「ううんと。殿下の言うことはまだ僕には難しいです。でも頑張ってみます」
そう言うとオズワルドはにこっと笑った。子供の奴は意外と可愛い。はっきり言って俺よりも美形度が高いんじゃねーのか。そんなアホな事を考えてしまう。
「……おう。まあ、頑張っていたらいい事があるかもな」
「そうですよね。僕、出来るだけ頑張ります」
オズワルドは目をキラキラさせながら再び頷いた。俺が反対に目を見開いた。
「じゃ、じゃあ。もう剣術の稽古に戻ろうぜ。十分休憩できたし」
「はい!!」
元気よく返事をしたオズワルドと共にウィリアムス師の所に戻ったのだった。
その後、俺は以前よりも剣術に打ち込むようになった。ラウルに勝つ為にそしてシェリアちゃんを守る為に。
カーティスは剣術に飽きたのか最近は来なくなった。反対にウィリーが熱心に励むようになっている。後嬉しい事にトーマス兄貴も加わるようになった。
けどトーマス兄貴もべらぼうに強かった。ラウルと互角ではないかと思っている。
今日も剣術の稽古をジュリアスとウィリアムス師につけてもらう。ジュリアスは冷静に的確に俺やウィリー、オズワルドの癖や弱点を指摘してくれる。それを直すようにも言うのだが。ウィリアムス師の場合は基礎をきっちりとやってから剣術の稽古に入るというやり方だ。しかもジュリアス以上にスパルタである。まさにビシバシという教え方でジュリアスよりもきつい。
「……殿下。剣をきつく握り込み過ぎです。もっと軽い感じで持ってください」
「はい」
「ウィリー殿もまずは走り込みを済ませたら腹筋と背筋、腕立て伏せを各50回ずつやるように。今から始めなさい」
「……わかりました」
「オズもウィリー殿と同じようにする事だ。剣を持つのはそれからだ」
二人は頷くと走り込みをやり始めた。俺は先に終えている。さすがにラウルと稽古をつけていたので基礎はできていた。傍らではトーマス兄貴が黙々と腹筋をやっている。回数はもう30回目くらいだろうか。ストレッチも後でやるんだろうなと思った。
ウィリアムス師も何も言わない。俺は素振りを100回はする事にした。もっとやった方がいいのだが。それは皆に止められた。
「殿下。今日はわたしがお相手をしましょう」
そう言ってきたのはジュリアスだ。刃を潰した剣を彼も持っている。
「ああ。頼む」
頷くとジュリアスが動いた。剣をビュンと唸るほどの素早さで突きつけてくる。俺は寸手でよけた。
再び向こうから斬りかかる。俺はジャンプしてまた後方にさがった。自分の剣はあまり使わず、ジュリアスが疲れるのを待つ。
「……どうしました、殿下。よけてばかりでは勝てませんよ!」
「……こっちはまだ4歳だって忘れてないか?!」
言い合うとジュリアスは上に剣を振りかぶった。俺は剣を横向きにして刃を左手で持ち柄の部分を右手で支えた。目にも止まらぬ速さで振り下ろされた。
それは重く俺の体が吹っ飛んだ。慌てて受け身を取りゴロゴロと転がる。剣は地面に投げ捨てた。がしゃんと音がして俺は体勢を整えた。剣を探して拾い、それを支えにして立ち上がる。
「……容赦のない攻撃ありがとよ」
「……すみません。ちょっと殿下相手に本気を出してしまいました。けどだいぶ上達なさいましたね」
そうかもなと言うとジュリアスが剣を置いてこちらに小走りでやってきた。手を差し伸べてくる。黙ってその手の平に自分の右手を乗せた。ぐいっと引っ張られる。いつか俺もこういう風に女性を引っ張り上げられる男になるぞ。密かにそう決意したのだった。




