表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/118

16話

シェリアちゃんを抱きしめていたらラウルが剥がしにかかった。


「……何をしている。エリック、離れろ」


冷たい声で言われてやっと我に返る。あり?


俺は何をしてたんだ。よりにもよって嫌われようとしていた子を抱きしめるなんて。


離れたらシェリアちゃんは頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた。俺の首根っこを掴んでいたラウルはぎろりと睨んでいる。


おわ、何だ。このカオスな展開は。はっ、そういやクォンはどこ行きやがった。あいつめ。余計な事しやがって……。


「……殿下。わたくし、あの」


あー、シェリアちゃんがめっちゃもじもじしているよ。まあ、それも可愛いからいいがな。(……俺をおっさんって言うなよ)


て、誰に言ってんだろうな。ラウルは俺の首根っこから手をぱっと離した。


「えっと。シェリア殿。いきなりですまない。俺は邪魔みたいだから失礼するよ」


「あっ。お待ちください!!」


「……シェリア殿??」


シェリアちゃんはラウルの鋭い視線をものともせずに俺に大きな声で呼び止めた。俺も振り返り彼女を見た。


「……殿下。わたくし、抱きしめられて驚きましたけど。嫌ではありませんでした。あのお礼をお渡ししたいのですけど」


「ええっ。シェリア殿。お礼は……」


俺が言いかけたら頬に温かくて柔らかな何かが当てられた。固まってしまう。


……ちょっと待ってくれ。これ、唇じゃねーのか。て、ええ?!


俺は完全にフリーズしてしまった。頬にキスをされたのだ。少ししてからゆっくりとシェリアちゃんは離れた。


心なしか、顔が赤い。耳なんて真っ赤だ。俺も顔が熱いので同じくらいには赤くなっているだろう。


「……殿下。これがその。わたくしのお礼です」


「え。そ、そうなのか。まあ、受け取っておく」


俺ってシェリアちゃんに嫌われたいんじゃなかった??


何か相手に好意を持たれてるんだが。それとラウルの鋭い視線が余計に切れ味が良くなっているのは気のせいではない。うわー、俺。叔父上にこのままだと

こ ろ さ れ る!!


俺は冷や汗をかきながらそっとシェリアちゃんに手を振ってその場を後にした。クォンに自室に戻すように言ったが。奴が面白そうに目を輝かせていたのは無視したのだった。



ふう。シェリアちゃん。君は俺を弄びたいのか。何で4歳児である俺のどこがいいのか。わからない。


「……殿下。どうかなさいましたか?」


「リアナか。ちょっと考えてた」


「何をと聞いてもいいですか?」


「……今日、婚約者のシェリアちゃんにキスされた。まあ、ほっぺにだが」


「……あらあら。まあまあ。それはまた可愛らしい」


リアナが驚きの声をあげる。が、喜んでいるのがわかるのだが。


「リアナ。何か嬉しそうだな」


「それはそうです。だって婚約者の方と仲睦まじくなさるのは良いことではありませんか。しかもシェリア様は将来が楽しみな方ですし。わたしはむしろ婚約を解消せねばならないのが残念な程です」


「……そうかもな」


意外な事にリアナは俺が婚約解消しなければならない事に心を傷めているようだ。まあ、シェリアちゃんはラウルに譲るつもりでいる。けど俺って自分の事ばかりでシェリアちゃんの気持ちを考えていなかった。


それでクォンは怒ったのかもしれない。女心をわかってないと言ってたしな。


「殿下。いずれは解消をしなければならないでしょうけど。シェリア様に無理に嫌われようとしなくても良いのでは?」


「……俺。シェリアちゃんは好きなんだ。けどあの子が俺と関わっていたらいつか絶対傷つけてしまう。だから手放すつもりだったのに」


「殿下……」


リアナはソファに座る俺のすぐ側までやってきた。そしてそうっと俺の事を抱きしめた。


「殿下。リアナは殿下のお側にいます。ですから、そんなに思いつめないでくださいませ。きっとシェリア様もちゃんと事情を説明したらわかってくださいますよ」


「リアナ……」


俺は気がつけば、ほろりと涙を流していた。それは幾筋も流れて止まらない。


ごめんな、シェリアちゃん。いつか俺は君をすごく傷つける。だから君を突き放すしかない。こんな不甲斐ない俺を許してくれ。君が幸せにそして笑顔でいてくれたらそれでいいんだ。


別れの日が来たとしてもシェリアちゃんを忘れる日はないだろう。叔父上にだったら君を託せるとわかっている。けど何でこんなに胸が苦しいのか。


「……殿下。シェリア様を好きになったんですね。それは人として当然の感情ですよ」


リアナが優しく言う。そうか。俺のこの切ないけど暖かい気持ちは恋だ。


でもシェリアちゃんを好きになってはいけない。彼女を不幸にするくらいなら俺はどんな目に遭おうと構わないのだ。流れる涙をハンカチで拭きながら愛しいシェリアちゃんの笑顔を思い出す。


「シェリアちゃん。いつか本当のことを話すから。どうか元気でいてくれ」


1人でぽつりと呟いた。リアナは痛ましげな表情で見る。俺は笑いながらすまないと言う。そうして俺はシェリアちゃんとの婚約を解消するためにどうすればいいのか改めて考えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ