111話
王城にたどり着くと、俺はラウルと二人で降りた。
自室に向かう前に迎えに来てくれたオズワルドやクォン、エルと合流する。簡単にラウルが一緒に来た理由を説明した。
「……とりあえず、王城の客室にラウル叔父上の母君が滞在なさっているからさ。本人も会いたいと言ってきたから連れて来た」
「ふうん、ラウル様がなあ。分かりました、俺とエルさんで案内しますよ」
「ああ、頼む。オズワルドはどうする?」
「……僕も行きます」
「分かった、俺は部屋に戻るよ」
頷き、踵を返した。まあ、一人でも何とかなるか。そう思いながら、自室に戻った。
自室にたどり着くと丁度よく、リアナがドアを開ける。
「殿下、お帰りなさいませ。今日もお疲れ様です」
「ただいま、リアナもお疲れさん」
「はい、けど。オズ様やクォンさんは一緒ではないんですね」
「ああ、二人はラウル叔父上と一緒だ。エルもだが」
「そうなんですか、では。殿下、早いですけど。夕食になさいますか?」
俺は頷く。リアナは他のメイドを呼び、厨房に向かう。自室にて待ったのだった。
夕食を簡単に済ませ、俺は学園の課題を片付ける。確か、算学や国語辺りは出ていたか。
しばらくは教科書やノートと睨めっこしながら、勉強に集中した。
2時間は過ぎたろうか。ドアがノックされ、返事をする。入って来たのは夜着にカーディガンを羽織ったスズコ様だった。
「精が出るなあ、エリック君」
「あ、スズコ様?!」
「……こんな遅い時分にごめんな、ラウルから様子を見に行くように頼まれたんよ」
苦笑いしながら、スズコ様は言った。中に入り、ドアが閉められる。スズコ様はゆっくりとこちらにやってくる。
「ほんまに無理はあかんよ、もう夜の10時やで。子供は寝る時間や!」
「……おっしゃる通りで」
「課題は終わったん?」
「はい、算学と国語だけですから。終わりました」
「そうなんか、なら。お風呂に入って休んでな」
仕方なく頷いた。スズコ様はすぐ側まで来ると軽く俺の頭を撫でる。
「ラウルも君くらいの頃は無茶ばっかやった、だからか心配なんよね」
「スズコ様、俺はそんなにやわじゃあないですよ」
「何を言うてんの、エリック君もラウルもあたしから見たらまだまだ子供や。しっかりと食べて動いて。寝ぇへんかったら、体に悪いで!」
スズコ様に言われ、俺も呻った。
「……スズコ様が肝っ玉母ちゃんに見える……」
「ははっ、肝っ玉母ちゃんなあ。息子一人だけやけど」
「俺のお袋にも見習ってほしいなあとは思う」
言ったら、スズコ様は面白いとばかりに笑う。
「十分に王妃様は母親をやってはると思うで」
「いや、スズコ様には負けると言うか」
「あたしと比べたらあかんわ、王妃様に失礼や」
スズコ様は軽く拳を握る。グリグリとこめかみの辺りを拳で抉られた。いわゆる梅干しだ。地味に痛え!
「……あだだっ!ギブ、ギブ!!」
「ほんまに反省しとるんか?!」
「してます、してます!」
慌てて言ったら、やっと梅干しをやめてくれた。けど、まだ怒ってるな。
「エリック君、とりあえずはお風呂に直行な。リアナさん達を呼んでくるわあ」
「……はい」
まだヒリヒリズキズキと痛むこめかみを押さえながら、頷いた。スズコ様は踵を返してリアナ達を呼びに行った。
浴室で入浴を済ませ、髪を軽くスズコ様は乾かしてくれた。意外と手慣れていて驚きを隠せない。何せ、温風魔法を使える人間は少ないしなあ。
「よし、出来たで」
「ありがとう、スズコ様」
「さっきはごめんな、後は。お休み、エリック君」
「お休みなさい」
「ほなら、帰るわな」
スズコ様はひらひらと手を振りながら、客室へと戻って行った。俺も同じように手を振って見送った。
寝室に行き、就寝する。スズコ様は髪を乾かしていた際に治癒魔法も掛けてくれたようだ。おかげでこめかみの痛みは無くなっていた。
さすがにラウルの母ちゃんだな。歓心しながら瞼を閉じる。緩やかな眠りに入ったのだった。
翌朝、身支度を自身でする。歯磨きに洗顔を簡単に済ませた。夜着から学園の制服に着替える。やっと、自力でネクタイを締められるようになった。ちょっとは進歩しているなと自画自賛する。リアナが軽食を持って来てくれた。
「殿下、ピッツアトーストを持って来ましたよ」
「お、リアナお手製だな。ありがとよ」
お皿に載ったピッツアトーストもとい、ピザトーストを手早く食べる。トマトソースやサラミ、ピーマンやタマネギの味のマリアージュがたまらない。酸味に塩っ気、ちょっとばかりの甘味が混ざり合い、なかなかなお味だ。食べきるとレモン水で口中をスッキリとさせる。制服が汚れていないかもチェックした。
よし、大丈夫だ。リアナが差し出してくれたお絞りで顔を拭く。最後に鏡の前に行き、さっとブラシで髪を梳いた。
「んじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ!」
頷いて部屋を出た。廊下にはオズワルド、クォン、エルにラウル、スズコ様の5人がいた。珍しいメンツに目を開いたのだった。




