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107話

 俺はシェリアと2人で王宮まで帰って来た。


 馬車から、先に俺が降りる。次にシェリアが降りる際はエスコートをした。けど、手を繋ぐのは久しぶりだ。意外と温かいながらに小さな手に驚きを隠せない。互いに、神子や聖女として切磋琢磨する仲だが。俺は改めてシェリアに重い責任を負わせていると自覚した。

 その後、シェリアはフィーラ公爵邸に帰るはずだったが。何故か、本人は俺の部屋に行きたいと言ってきた。


「リック様、お願いします」


「……リア、そんな事を言うならさ。ラウルの部屋の方が良くないか?」


「……嫌です、リック様のお部屋で構いません」


 穏やかながらにシェリアはきっぱりと言った。仕方ない、俺は折れる事にしたのだった。


 自室に行き、何ならと一緒に勉強をする。リアナが気を利かせてハーブティーや軽食を持って来てくれた。


「シェリア様、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「ええ、ごきげんよう。リアナさん」


「おう、リアナ。お茶とスコーンを持って来てくれたのか?」


「はい、エリック様が好きなベーコンやチーズ入りのと。シェリア様が好きなナッツ入りのがありますよ」


「まあ、カシューナッツが入ったスコーンは好きなの。メイアから聞いたのですか?」


「聞きましたよ」


 リアナが頷くとシェリアは嬉しそうに満面の笑みになる。こうして見ると、10歳の女の子なんだよな。しみじみ思いながらも有り難く、スコーンやハーブティーをいただくのだった。


 勉強が終わるとシェリアはさすがに帰って行った。迎えにはフィーラ公爵が来ていたが。


「シェリア、来たぞ」


「あ、父様!」


 やはり、公爵は既に2人の子供がいるとは思えないくらいには若々しい。まー、上の息子は思春期真っ只中だが。確か、公爵はシンディー様より3歳くらいは年上なはずだ。36歳くらいかな?

 何せ、フォルド王国の貴族の男性の適齢期は18歳から25歳程までだ。女性なら、16歳から23歳までか。昔の西洋でも王族や貴族は若い年齢での結婚はザラにあったしな。日本も例に漏れずだが。

 ちなみに、公爵の息子たるトーマス兄貴は14歳、娘のシェリアは10歳だ。

 兄貴は後4〜5年もしたら、丁度適齢期だし。そんな事を考えながら、シェリアとフィーラ公爵を見送った。


 ……親父もとい、陛下は今で30歳、お袋こと王妃殿下は27歳だ。実は王妃殿下、懐妊中だった。なので公務はまだお元気な王太后が担っておられる。いや、王太后は親父のお祖母様、俺の曾祖母ちゃんなんだが。ご年齢は……7ピー歳とだけ言っておく。若いんだよ、いろんな意味でな。


「……おーや、こんな所におったのかや。ひ孫ちゃんは」


「王太后様、さすがにひ孫ちゃんはやめてください」


「何を言うか、お主はまだまだお子ちゃまじゃ」


 ぐう、こんのわか……ゲホゲホ。これを言ったら、瞬殺される。


「なら、曾祖母ちゃん。赤ちゃん扱いはさすがによしてくれ」


「ほほっ、やっと猫を脱いだの!王太后様だなどと呼ばれてもこそばゆいばかり、本来のお主で結構じゃ」


「で、何の用だ?」


「あら、用がなかったら来てはいけないのかや?

 」  


「少なくとも、抜き打ち訪問はしねーだろ」


 冷静に言うと王太后は真顔になる。やはり、どことなく親父に似ているな。


「……やはり、エリーさんに似ておるの。あの子も幼い頃から、勘が良かった故」


「はあ」


 王太后が言うエリーさんと言うのはお袋の事だ。食えない人ではあるんだよな。


「実はの、エリック。わらわが来たのは公務を肩代わりするだけではない、お主に光の神子の真の役目を教えたいのもあったのじゃ」


「え、そうなのかよ。てっきり、俺をからかいに来たのかと」


「まあ、それもあるが。では、早速言うぞえ」


 王太后はさらに、真面目な表情になった。俺もさりげなく背筋を伸ばす。


「……光の神子はの、あくまで月の聖女の護衛役じゃ。また、闇の気に飲まれやすい聖女を助けねばならぬ。要は自身の気を分け、守るのが光の神子の真の役目じゃな」


「それは知ってるが」


「と言っても、どちらかが欠けても意味はない。神子と聖女が揃わねば、国は救えぬ。確か、異国の言い方じゃと。光の神子が陽の気、月の聖女は陰の気を持つと言う。両方が揃って初めて、真の力を発揮する」


 成程と思った。昔から、光の神子に選ばれるのは男が殆どらしいとは聞いたが。そう言う訳だったか。重要なのは月の聖女であり、光の神子はおまけと言うわけでもないらしい。


「いいかや、エリック。お主はまだ幼いが、幾らも経たない内に大きな困難に遭遇する。魔王が復活するまであまり猶予はないぞえ」


「……分かった、忠告をありがとう。曾祖母ちゃん」


「うん、それでこそ我がひ孫。健闘を祈るからの」


 にっこりと王太后は笑った。俺は真っすぐに見据える。ひらりとどこかから、紫色の花弁が風で運ばれてきた。グリシエンヌの花だ。和名は藤の花、初夏に咲くんだったか。しばらく、それの香りや花びらの中、佇んでいた。


 

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