106話
翌日、俺は自室にラウルやトーマス兄貴を呼んだ。
クォンも同席している。簡単に、昨日に聞いた話を説明した。
「……なっ、隣国と言ったら。ホーリーホック王国じゃねえか!」
「あの、兄貴?」
「ホーリーホックの皇太子は名前をガーランドと言うんだが、年齢は17歳だ。アイツ、シェリアがまだ5歳くらいの頃にも縁談をうちに打診してきた事がある」
俺は戦慄した。モノホンのロリコンじゃねーか!!
今から、5年前と言ったら。ガーランドは12歳か。アイツの狙いは何だ?
「成程、シェリア嬢の血筋と聖女としての能力目当てだろ。でなかったら、縁談を持ちかけてくるはずがない」
「だろーな、ガーランド皇太子はああ見えて狡猾な一面がある。シェリアは父上から、王家の血筋を受け継いでいるし」
「ふむ、エリック。この事は俺から陛下に報告する。トーマスはフィーラ公爵に報告してくれ」
『イエッサー!』
「意外と息が合ってるな」
ラウルが呟いたが。俺と兄貴はスルーしたのだった。
あの後、さらに話を詰めた。ラウルは1人で行くと言ったが。無理に俺も付いて行った。
「……お前らが揃って来るとはな」
『はあ』
「まあ良い、今日はどうした?」
「それがエリックの方から相談されましてね、シェリア嬢の事についてですが」
「シェリア嬢の事か、聞かせてくれ」
ラウルは陛下もとい、親父に説明をした。最初は驚きの表情だったが、話が進むにつれて険しい表情になっていく。終わる頃には眉間を指で揉んでいた。
「……ふむ、それは私に報告して正解だったな。フィーラ公爵にも説明はしたのか?」
「はい、トーマス殿に頼みました」
「そうか、けど。シェリア嬢は血筋や身分、能力面においても王妃に相応しい。フォルドにとっては無くてはならない人材だ」
親父は重々しく言った。それには完全に同意だ。
「まあ、シェリア嬢の護衛を増やしてはおく。エリックもなるべくなら、気をつけてあげてくれ」
「分かりました、父上」
「ラウルも身辺には気をつけろよ」
俺達は頷いた。執務室を後にしたのだった。
学園に行き、俺とラウル、オズワルドやクォンの4人でシェリアの護衛をこっそりとする事を決めた。
シェリアには女性の騎士が護衛に付いている。
「……今日は珍しいですね」
「いや、たまには一緒にどうかなと思って」
俺はポリポリとほっぺたを指で掻いた。今はお昼休みでシェリアを食堂へ誘っているが。
「あの、友人達と行きますので。エリック様には申し訳ないですけど」
「そっか、じゃあ。失礼するよ」
仕方なく、引き下がった。ラウルが誘ったら一緒に行くんだろうが。教室を出たのだった。
オズワルドやクォンとの3人で一緒に行った。
野郎ばかりだが慣れた。とりあえず、いつものを頼む。
2人も同様だ。近くのテーブルに行き、適当に置く。椅子を引いて座る。
「エリック様、シェリア様には断られましたね」
「うん、やっぱり。俺だとダメみたいだな」
「……きっぱりとフるからじゃねーか」
クォンがぼそっと呟く。俺はスルーしながら、スープを飲んだ。コイツを相手にしていても仕方ない。黙々と食事を進めた。
放課後、またシェリアに呼び掛けた。さすがにまた、断られると思ったが。
「良いですよ」
「え、本当にか?」
「はい、お昼休みの折はごめんなさい。人目を気にしてしまって」
シェリアは恥ずかしそうにしながらも言った。急いで、カバンに筆記用具や教科書などを仕舞い込む。
「リック様、出来ましたか?」
「ああ、行こうか」
頷き、廊下に出る。シェリアはちょっと俯き加減だが、テクテクと歩く。やはり、濃い藍色の髪が夕日に照らされて青紫色になっている。綺麗だなと思った。
「……リック様?」
「いや、何でもない」
「なら良いのですけど」
シェリアは不思議そうにする。停車場までポツポツと話しながら、歩いたのだった。
馬車に乗り込み、俺は御者側の席にシェリアは向かい側に腰掛けた。
「リック様、兄様から隣国の件を聞きました」
「え、兄貴から?」
「はい、ホーリーホック国の皇太子がわたくしを妃にしたがっているとは」
俺は気まずくて目線を逸らした。兄貴、シェリアに言うとはな。ちょっとはオブラートに包んでくれよ!
「……確かにそう言う話はある。シェリアにしたら、嫌だろうが」
「わたくしは年上の方って苦手で」
「ふーむ、そうなのか」
相づちを打つとシェリアは苦笑いした。こうして見ると、10歳には見えないな。
「なら、その。俺はどうなんだ?」
「リック様の事は好きですよ」
そうはっきりと言われて驚きを隠せない。
「……リア、前に俺からフッたはずだけど」
「ふふ、わたくしを甘く見ないでくださいね。そう簡単には諦めませんから」
俺はこの子を見くびっていたようだ。まー、根性はあるなと思っていたが。なかなかに芯がしっかりしている。改めて、シェリアへの認識を変えないとな。そう思いながら、窓からの景色に目線をやったのだった。




