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103話

 俺はシェリアと手を繋ぎながら、地下迷宮の奥を目指した。


 もちろん、ラウルや兄貴、ジュリアスやクォン、オズワルド、カロリナ、クリスティンもいるが。何回か、妖魔と遭遇して戦闘になる。俺やラウル、兄貴、ジュリアス、クォンが前衛に出た。後衛ではシェリア、オズワルド、カロリナやクリスティンが引き受けてくれた。と言っても、魔力切れを起こさないように交代で術を使ったが。


「エリック様、もう戦闘ばかりで疲れたでしょう。一度、休憩をしませんか?」


「そうだな、ジュリアスの言う通りだ。ちょっと、休憩にするか」


「では、シェリア様、オズ。皆さんも休憩にしましょう!」


 ジュリアスが声を掛けると、皆が一様に安堵の表情を浮かべた。俺はシェリアの側に行き、魔力回復薬やポーションを手渡す。ついでに携帯食や水もだ。


「ありがとうございます、リック様」


「ああ、俺もクタクタだ。隣に座るぞ」


 シェリアは頷いて横に退いてくれた。ちなみに、彼女は椅子代わりに大きな岩の上に座っている。握り拳一つ分は距離を取りながら、座った。魔力回復薬やポーションを流し込む。携帯食や水も食べるとシェリアを再び、見る。


「……リア、何だか。また、顔色が悪いな」


「そうでしょうか?」


「うん、体調は大丈夫なのか?」


「ちょっと、魔力切れになりかけていますね。でも、これくらいなら大丈夫ですわ」


「リア、君な。魔力切れは結構、厄介なんだぞ。無理はせずに休めよ」


 キツめに言ったら、シェリアは困惑の表情になった。


「ですけど」


「口ごたえはなしな、ほら。魔力回復薬はまだあるから」


「……分かりました」


 シェリアは渋々、頷くと渡したポーションなどを飲み出す。俺は念の為に王妃からもらった魔力回復薬をウエストポーチから、出した。彼女が携帯食も食べてしまってから、追加の回復薬を渡す。


「とりあえず、これも飲んどけ。ぶっ倒れようもんなら、俺らが困るしな」 


「……はい」


 シェリアは再度、頷く。魔力回復薬を合計して三本は飲んだ。おかげで彼女の魔力は無事にフル回復したのだった。


 とうとう、地下迷宮の最奥に到達する。眼の前には巨大な氷の塊がそびえ立っていた。よく見ると、氷の中には真っ黒な髪に白すぎる肌の一人の女性が閉じ込められている。彼女は瞼を塞いだままではあるが。漏れ出る冷ややかな気は禍々しい。女性は真っ黒な詰め襟に長袖の足首丈まであるドレスを身に纏っている。


「……これが封印された魔王か」


「そのようですわね」


「ふむ、我々は魔王と言ったら。男だとばかり、思っていたな」


 最初が俺、次がシェリア、最後が兄貴だ。あまりの予想との違いに皆、固まっている。まさか、魔王がこんな綺麗な美少女だったとはな。驚きを隠せない。


「けど、禍々しい気はビシバシ感じるぜ」


「ああ、私も同感ですね」


「俺もだな」


「ジュリ兄上、何かあったら危険ですね」


「……ふむ、いくら美人とはいえ。敵である事には変わりないですね」


「そうですね、私も思うわ」


 次にクォン、ジュリアス、ラウル、オズワルド、カロリナ、クリスティンとなる。まあ、皆の言葉通りではあるか。


『……何をしに来た、光の神子』


「ん?もしや、魔王か」


『そうだ、私の封印が解けかかっているが。気になって此処まで来たか』


「そうだが?」


『……光の神子、お主は月の聖女を見捨てたな。その報いはいずれ、お主に返ってくるぞ』


 冷たくはあるが、わざわざ忠告をしてくる魔王の意図が理解できずにいた。


『私は既に、斃された身。新たな魔王がすぐに誕生する。急げ、でないと。この世界は滅びの道に進むぞ』


「お優しい事だな」


『……私はかつて、闇の女神に仕えし巫女だった。が、夫であった光の神子に裏切られ、魔王になった。まあ、そやつや月の聖女によって斃されたが。死した後、この迷宮の奥深くに封じられた。新たな魔王はお主らの祖先に当たるおなごだ』


 魔王もとい、この闇の巫女。彼女はそれ以降、何も話さなくなった。

 不意に、氷の塊が崩落を始める。


「……エリック様、これ以上は危険です。退避しましょう!」


「分かった、ジュリ。皆、走れ!!」


 俺が号令を掛けると、皆で必死に迷宮の入口まで駆け抜けた。シェリアが途中で転倒し掛ける。慌てて、俺は彼女の腕を掴む。ぐいと引っ張り、自身の方に寄り掛からせた。


「大丈夫か?!」


「は、はい。ごめんなさい」


「謝るのは後でいい、怪我はないな?」


「ありません」


「なら、急ぐぞ!!」


 俺はシェリアの手を握り、先に行った皆の後を追いかけた。さすがに、背負う事はできない。また、息を切らせながら走った。


 入口まで戻り、外に出る。既に日はだいぶ、高い位置にあった。と言っても、調査を開始してからだとまだ、半日も経っていないようだ。皆、汗だくだし、埃にまみれている。


「……ぜえぜえ、もう走れません」


「ああ、俺も」


 荒い息をつきながら、へたり込む。シェリアやカロリナ、クリスティンはウェストポーチから、ミニタオルを出す。流れる汗を拭いた。しばらくは水を飲んだり、木陰に行ったりして休息を取るのだった。

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