102話
こうして、夏季休暇に入った。
俺はなるべく、課題を早めに終わらせるためにも一日中、机にかじりつく。おかげで一週間程で半分は終わった。オズワルドやシェリア達も言わずもがなだ。ちなみに、夏季休暇が始まったのは七月の中旬頃だが。地下迷宮に行くのは八月の上旬くらいと皆で決めていた。ちなみに、メンバーは俺にラウル、シェリア、トーマス兄貴にクォン、ジュリアスとお馴染みだ。親父もとい、陛下は王宮で留守番になっている。
代わりに、何故かおふ……王妃付きの女性騎士が二人は護衛になってくれた。と言っても、シェリアのだが。王妃はやはり、心配らしくて自身の代わりにと遣わしてくれたらしい。シェリアの母であるシンディー様がめちゃ恐縮していたけど。
女性騎士は名前をそれぞれ、カロリナ、クリスティンという。カロリナはまだ若くて、二十一歳だ。クリスティンはちょっと上で二十三歳らしい。二人も武芸の腕はなかなかだそうだ。ジュリアスからも太鼓判が出ている。
俺は課題に再び、取り掛かった。カランカランと時刻を知らせる鐘が鳴ったのだった。
早くも、八月の上旬に入った。今日は地下迷宮に調査に行く。俺達は各々、それなりの装備を身に付けていた。特にシェリアは男装している。兄貴のお古を着ていた。麻製の長袖シャツに長めのズボン、さらに滑り止めがついた特注のブーツといった出で立ちだ。頭にはツバが付いた帽子にヘッドライトを模した魔道具と完璧だった。背中にはナップサックによく似た麻袋があるしな。
「……気合いが入ってるな」
「はい、母様が凄く心配なさって。気がついたら、こんな感じになっていました」
「ま、いっか。軽装備で行くよりは余程いいよ。母君が器用な方で俺はほっとしたが」
本気で言うとシェリアは苦笑いする。俺はスッと手を差し出す。向こうも分かったようで、堅く握手をしたのだった。
こうして、地下迷宮の入口に皆で立つ。フルアーマーではないが、軽度の防具で身を固めたカロリナとクリスティンもいる。それでも、二人の腰元には一振りの長剣を佩いていた。たぶん、袖口や足元にも短剣を忍ばせているとは思うが。もしかしたら、暗器も所持していそうだ。あり得るなと考えながらもシェリアを見た。
「地下迷宮は滑りやすいから、気をつけてな」
「分かりました」
「では、エリック様にシェリア様。地下迷宮を開けるためにはお二人の剣が必要だと、聞きました。お願いできますか?」
「あ、そうでしたわね。リック様」
「そうだな、リア」
互いに頷き合う。俺は腰に佩いていた太陽剣を、シェリアも月光剣をそれぞれ鞘から抜いた。そして、事前に神官長から教えてもらった呪文を唱える。
『『我ら、神の加護を受け給ふ。かの証を示さむ、門を開け給え!!』』
いや、簡素過ぎとか言わないでくれな。これが門を開けるためには必要らしいし。そう思いながらも唱え終わる。ゆっくりと地下迷宮の鉄の扉が開いたのだった。
ジュリアスやクォンが先頭に立って迷宮を進んだ。俺やシェリアは最後尾だった。前をラウルに兄貴、オズワルドやクリスティン、カロリナがいる。
「……うーむ、やっぱりな。邪気が漏れ出てるのが分かるぜ」
「ああ、だな。トーマス」
「はい、僕も鳥肌が立ちそうですね」
兄貴、ラウル、オズワルドの順で言った。俺もさっきから、ひしひしとひんやり冷たいながらに刺すような鋭い邪気を感じ取っている。これが魔王の放つ気かな。やはり、さすがはRPG要素のある世界だ。まー、原作は乙女ゲームだが……。
俺がつらつらとまた、考えていたら。前方から、何かの咆哮と重たい足音が聞こえた。
『……ギャオオー!!』
「……げ、ブリザードレックスかよ!?」
ヤバい、コイツだけは遠慮してえのに!仕方なく、俺は太陽剣を構えた。早急に火魔法の中級術を無詠唱で放つ。ちなみに、ブリザードレックスは青い鱗と瞳が特徴的だ。まあ、真っ青なティラノサウルスに瓜二つといやあ、分かるかな。うん、リアル過ぎてビビるくらいにはおっかないが。
確か、『炎の滝』だったか。文字通り、灼熱の炎の滝もとい、花火のナイアガラみたいなのを奴にお見舞いした。
『……ギャー!!』
断末魔の悲鳴が上がる。真っ赤な炎に包まれたブリザードレックスは蒸気による霧や爪に牙を残し、消滅した。
「……リック様、また腕が上がりましたね」
「おうよ、俺だって努力はしてんだぞ!」
「はい、カッコ良かったですよ」
シェリアはにっこりと笑う。いや、見なかったことにすっか。兄貴とラウル、クォンの目線がめちゃ怖いしな。これ、後で締め上げられたりしないか?震え上がりながらも先を進んだ。
最奥を目指し、歩き続けた。途中でカロリナやクリスティンが気を使い、休憩を挟むようにジュリアスに進言した。
「……シェリア様、疲れていませんか?」
「すみません、カロリナさんにクリスティンさん。ちょっと、休ませてくださいな」
「まあ、先程の妖魔に対して怯えなかっただけでも肝が据わっていると言えますね」
「はあ」
「カロリナ、それは褒め言葉じゃないわよ」
「そうでした」
クリスティンが注意をするとカロリナは素直に頷く。二人は仲が良いらしい。意外に思うのだった。




