100話
俺はこの日の夕方に、久しぶりにフィーラ公爵邸を訪れた。
傍らにはクォンやオズワルドがいる。エントランスにて、フィーラ公爵、シンディー様が出迎えてくれた。
「……殿下、よくぞいらしてくださいました。手紙は読みましたよ」
「はい、公爵。ちょっと、今後について相談をしたいと思いまして」
「ふむ、何事かと驚きましたが。まあ、立ち話も何ですし。応接室に行きましょう」
「ええ、殿下。子供達はもう少ししたら、帰って来ると思います」
「分かりました、それまでは待たせていただきます」
公爵とシンディー様は頷いた。俺は二人の後に続いたのだった。
メイドが紅茶を淹れ、俺や公爵、シンディー様の前に置いた。お茶菓子も饗され、俺はナッツ入りのクッキーに手を伸ばす。メイドが一礼して、退出する。シンディー様がさらに、人払いを指示した。応接室から人の気配が無くなると俺は防音魔法や侵入者妨害の結界を張る。
「ありがとうございます、殿下」
「いえ、普通に名前で呼んでください。公爵」
「分かりました、では。エリック様、改めて。確か、我々に相談事があるそうですね」
「はい、魔王の復活の点についてになりますね。また、シェリア嬢やトーマス殿にも意見を聞きたくて」
「……そうですか、魔王が。私が調べた事によると、今から二百年前に出現したのは前にも話しましたね。その際にエリック様やシェリアが持つ剣も使われたようです」
俺は頷いた。確かに、陽光剣と月光剣は長い間、封印されていた。
「当時の陽光剣の持ち主であった光の神子はフォルド国の王族だったとか。ただ、月の聖女は異世界から召喚されたと神官長の手記にはありました」
「え、異世界からですか?」
「はい、それは確かなようです。まだ、年若い娘さんであったとありましたが。光の神子は後に月の聖女と婚姻したらしく、子孫もいます」
俺は驚きを隠せない。まさか、二百年前の神子や聖女が結婚していたとはな。けど、俺は聞いた事がないぞ?
「……不思議そうになさっていますね、ちなみに。当時の神子が臣籍降下をして、叙爵されました。彼が名乗ったのがフィーラ公爵です、シンディーやトーマス、シェリアの直系の祖先になりますね」
「あ、そうだったんですか。フィーラ公爵家は神子や聖女の子孫であったんですね。道理で、聖魔法や光魔法の適性があるわけです」
「ええ、わたくしは一人娘でしたから。だから、フィーラ公爵家の直系の血筋はわたくし、トーマス、シェリアの三人だけです」
「……公爵は婿入りなさったとは聞きました、確か。先代の王弟のご子息でしたね」
「はい、旦那様は王弟殿下の次男です。ラウル様や陛下から言うと、いとこですね」
俺は改めて聞いて、確かになと思った。公爵はファーストネームがダリエルスとか言ったはずだ。まー、話が逸れたかな。
「えっと、公爵。魔王や結界の件に話を戻しますね」
「はい、そうでした。魔王は魂や肉体は地下迷宮に封じられていますが、その術式も何者かに壊されているとか。復活するのも時間の問題ですね」
「本当ですか?!」
「はい、恐らくは。もしかしたら、高位魔族の仕業かと」
公爵の言葉に俺は唸った。まさか、魔王の封印が解かれていたとは!
呑気にしている場合じゃないな。もうちょい、早めに公爵やシンディー様と相談をするんだった。
「エリック様、わたくしも考えましたが。これから、魔王が復活するのは確実です。シェリアと一緒に討伐に行かないといけませんわ」
「そうですね、落ち込んでいる暇はありませんね」
「ええ、シェリアもそろそろ帰って来るでしょうから。トーマスと三人でゆっくりと話し合ってくださいな」
俺は頷いた。応接室を後にしたのだった。
エントランスに向かうと、丁度よくトーマス兄貴とシェリアが帰って来ていた。俺は挨拶をする。
「……よう、兄貴にリア。久しぶりだな」
「はい、久しぶりですね。エリック様」
「お久しぶりです、リック様」
二人はにっこりと笑いながら、返事をした。
「今日はちょっと用があってこちらに来たんだ。トーマス殿、リアと一緒にいいかな?」
「……僕の部屋にですか?」
「うん、大事な話なんだ。リアも一緒に来てくれ」
「分かりました、行きましょう。兄様」
「ああ、行こう」
シェリアが頷いて兄貴を促す。兄貴も頷くと、二人はエントランスを抜ける。俺も後に続いた。
兄貴の部屋に行くと、俺と二人で二重に防音などの結界を張る。
「よし、できたな。エリック、やるじゃねえか」
「兄貴程じゃないよ、さ。早く話をしようぜ」
「ああ、シェリア。お前もソファーに行きな」
シェリアは頷いて、窓際にあるソファーに座った。俺は一人掛けの方に行こうとしたが。
「……リック様、お隣にどうぞ」
「いいのか?」
「はい、いくらフラレたとはいえ。わたくし達、婚約者でしょう?」
俺はため息をつきながらも、シェリアの隣に座った。ちょっと、離れてはいるが。そこは兄貴も大目に見てくれた。こうして、三人での話し合いが始まった。




