99話
俺は翌日も学園に通うために、ネクタイと格闘していた。
ああ、やはり上手く結べない。仕方ないから、首に掛けたままでカバンを持って部屋を出た。やはり、廊下にはジュリアスやエルなどが待っている。俺はジュリアスに頼んでみた。
「……ジュリ、悪い。ネクタイをまた結んでくれ」
「あ、やはり、殿下にはまだ難しいですかね。分かりました、やりましょうか」
「頼む」
ジュリアスは苦笑いしながら、俺に近づく。手早く、ネクタイを結んでくれた。綺麗に仕上がったので歓心してしまう。
「ありがとな、助かった」
「いえ、やはり。ネクタイの結び方をちゃんと時間がある時に教えます。しばらくは私がやりますけど」
「本当に悪い、また夏季休暇が来たらさ。しっかりと教えてくれ」
ジュリアスは頷いてくれた。エルも微笑ましげに眺めている。
後ろにはきちんと制服を着たクォンやオズワルドもいた。
「はよー、エリック様」
「おはようございます、エリック様」
「ああ、おはよう。二人とも」
二人が挨拶したので、返答する。ジュリアスがエルに目配せをした。
「それでは行きましょうか」
「ああ、分かった。早めに行かないと遅れるしな」
五人で馬車の停車場に向かった。
ジュリアスやエルと分かれ、三人で昨日と同じように乗り込む。クォンはかったるいとばかりに、欠伸をした。
「ふぁー、眠いな。エリック様やオズ君はすっきりした顔してんなあ。俺は寝不足だからさ、羨ましい限りだぜ」
「クォン、お前。何で寝不足なんだよ」
「……俺の学年、課題が異常に多いんだよ。昨日に出されたのだけで、カバンがパンパンになるくらいの量だったんだぜ!」
クォンは再度、大きな欠伸をした。俺は内心で合掌しておいたのだった。
馬車が学園に着く。停まったので、先にクォンやオズが降りた。御者が扉を開け、二人は俺が降りるのを手伝う。
「んじゃ、行くとすっか」
「おうよ、クォン。課題はいつまでに提出しなけりゃならないんだ?」
「……一週間後だ」
クォンはうんざりとした表情で答えた。オズワルドと俺は驚きを隠せない。
「すまん、俺達からは「頑張れ」としか言えんな」
「あー、頑張って終わらせるようにはすんよ。それより、殿下。急がないと!」
「本当ですね、行きましょう。エリック様!」
俺は頷いて、オズワルドと二人で慌てて教室に向かった。
息せききって、走りながら初等部の棟まで急いだ。クォンはいない。あいつ、大丈夫かなとは思うが。昇降口から入り、速足で廊下を進む。
「エリック様、予鈴まで十分もないようです!」
「マジか、急ごう!」
階段を上がり、二階に行った。教室に何とかたどり着いたが。既に、同級生達はほとんどが揃っているようだ。引き戸を開け、中に入る。
すると、何人かのクラスメートがこちらを向いた。
「……おはようございます、エリック様」
「おはようございます、えっと?」
「ああ、改めて自己紹介しますね。僕はレイモンド・スノウと申します。スノウ侯爵家の次男です」
「あー、レイモンドさんか。けど、よく分かりましたね。俺がエリックだって」
「それはまあ、エリック様は有名ですから」
何だそれ、とは思ったが。予鈴が鳴ったので慌てて、自身の席についた。授業を受けるための準備をしたのだった。
担任のマーリア・シンフォニア先生が入って来た。
「……はい、皆さん。席についていますね!おはようございます!」
「「おはようございます!」」
「では、今日から通常の授業が始まりますが。まず、これからプリを配ります!よく、読んでくださいね!」
皆で「はーい!」と元気よく、返事をした。シンフォニア先生が一番前の席の子一人ずつに、配っていく。後ろに回していった。俺は受け取ると、すぐに内容をチェックする。
ふむ、今日から始まる授業の割り振りやらが書いてあった。一時限目は国語か。さすがに、日本製の乙ゲーではある。歓心しながら、読み込んだ。
一時限の授業が始まる。教鞭を取るのは、シンフォニア先生だ。まず、簡単な文字の読み書きを教わる。まー、日本で言ったら、小学一年と等しいもんな。初等部の一年生といったらだが。
「……では、フォルド語でこれはエーと読みます。はい、ノートに書いてみましょう!」
先生が言うと、皆がカリカリと鉛筆で黒板に書かれた文字を写した。俺も妙な形のエーを書き写す。うーむ、何度見てもエーというより、ミミズだかがのたくったような形にしか見えない。それでも、授業に集中したのだった。
一時限目が終わり、二時限目が始まった。次は算数だ。これは違う先生が教えてくれる。ちなみに、男性だ。名前はカレーダン先生という。
教わったのは足し算や引き算だ。こちらも俺には簡単だ。他の子達もまずまず、解いているらしい。カリカリと鉛筆で文字を書く音や黒板に先生がチョークで書く音、声だけが教室に響く。
俺はこちらにも集中はしたのだった。
二時限目が終わり、三時限目と授業は進んでいく。あっという間に気がついたら、昼休みになっていた。オズワルドと一緒にリアナが持たせてくれたお弁当をカバンから出したのだった。




