表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

103/118

98話

 自室に着くと、オズ達と分かれようとした。


 けど、何故かクォンが付いてくる。訳が分からなくなりながらも、オズやジュリアス、エルに手を振った。ドアがパタンと閉まる。


「……エリック様、防音と阻害の結界を張ってください」


「分かった」


 混乱しながらも、クォンに言われた通りに防音や侵入者阻害の結界を張った。キィンとガラスが擦れ合うような音が辺りに響く。


「よし、できたな。エリック、今日の報告をする。ソファーにでも掛けるか」


「……ああ、けど。報告?」


「やっぱり、忘れてたか。前に言ったよな?」


「えっと、何をだっけ」


「……あんたの婚約者のシェリアちゃんの事だよ、後は。ラウルの坊っちゃんについてもな」


 俺はやっと、合点がいく。あー、すっかり忘れてた。リアやラウルの事をクォンに頼んでたんだった。ポリポリと右側の頬をかきながら、目を泳がせる。


「悪い、失念していた」


「そんなこったろうとは思ってた、ほら。これは俺が纏めた報告書だ」


「……あんがとよ」


 俺は受け取って報告書を読んだ。それには、シェリアの様子やラウルの事などが箇条書き形式で書かれている。結構、読みやすい。


「ふむ、シェリアが秘かに光魔法や聖魔術の鍛錬を続けているのか。ラウルは学園で魔術科を専攻、らしいな」


「ああ、ラウル坊っちゃんも優秀な成績らしいぜ。シェリアちゃんも将来が楽しみではあるなあ」


「……クォン、お前が言うとシャレにならん。もしかして、シェリアを変な目で見てないか?」


「……んな事、あるわけねーだろ。あんた、俺をロリコン扱いしたいのか」


「うん、そうだな。まあ、シェリアはブラコンの気があるが」


 俺が言うと、クォンは引きつった表情になった。


「……シェリアちゃんがブラコン、本気かよ。ただでさえ、ラウルに気に入られているだけでさ。犯罪臭があんのに」


「だーかーらあ、お前が言うとシャレにならんだろ。言葉遣いには気をつけろよな!」


「へーへー、分かりましたよ」


 俺が切れ味鋭いツッコミをすると、クォンは口を噤む。深いため息が出たのだった。


 俺は報告書を読み切った。クォンはソファーに凭れ掛かり、うとうとしている。


「……うーん、読み終わったのかよ?」


「ああ、すまないな。やっと、終わったところだ」


「そーかよ、なら。俺はそろそろ行くぜ」


 クォンはソファーから立ち上がり、部屋から出て行く。ドアがパタンと閉まると俺は背中を預けた。報告書をテーブルに置く気力も湧かない。瞼を閉じたのだった。


 しばらくはぼうとしていた。十分くらいはそうしていたろうか、再び背筋を伸ばす。報告書をテーブルの上に置く。


(はあ、やっと学園に入学できたが。シェリアと婚約を解消する時まで、後九年だ。その間に、魔王の事も調べておかないと)


 頭の中で算段を立てながら、ふうむと唸る。明日から、学園生活が正式に始まるしな。色々とやらなければならない事は多い。気合いを入れるために両頬を軽く叩いたのだった。


 夜になり、自室にて食事をとる。済ませたら、リアナに便せんなどの準備を頼んだ。


「エリック様、便せんなどを出して。どうなさるつもりですか?」


「いや、ちょっと。シェリアや公爵と相談したい事があってな、それで手紙を出したいんだ」


「……成程、分かりました。でしたら、ちょっとお待ちください」


 リアナはそう言って、準備をしに寝室に入った。俺は内容をどう書くか、考えた。


 準備ができたら、机に向かう。ペンをインク壺に浸しながら、便せんにしたためていく。


<シェリア嬢、それにフィーラ公爵閣下もお元気でしょうか?


 今日、そちらに手紙を書いたのは相談したい事があるからなんですが。


 実はふと、王宮の地下に眠る魔王の事で気になったのです。


 封印はどこまで緩んでいるのか、既に次代の魔王は出現しているのか?


 それについて、公爵閣下に訊いてみたいと思いました。


 シェリア嬢やシンディー様のご意見も訊いてみたいですね。


 それでは、さようなら。

 敬愛するシェリア嬢、公爵ご夫妻へ


 エリック・フォルド> 


 手短にすると、インクを乾かす。しばらくしたら、三つ折りにした。封筒に入れ、明かり用の蝋燭を取る。

 溶けた蝋は垂らして印璽(いんじ)を押し付けた。これで、封蝋ができる。


「んじゃ、これをフィーラ公爵邸に届けてくれ」


「はい、確かに預かりました」


「頼む」


 リアナは頷くと、手紙を持って部屋から出て行く。見送ったのだった。


 入浴を済ませ、寝室に入る。明日は学園が終わったら、フィーラ公爵邸に行かないと。公爵やシンディー様、トーマス兄貴、シェリアと今後についても話し合いたいし。まあ、シェリアとは同じ対ではある。なら、なるべく友好的な関係は維持したい。

 俺が光の神子なら、シェリアは月の聖女だ。久しぶりに剣の稽古も再開する必要がある。

 シェリアは細身とはいえ、俺と同じように剣を持っていた。月光剣は女の子が持ちやすい仕様にはなっているが。それでも、慣らしておいた方がいいだろう。

 つらつらと考えながら、明日に思いを馳せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ