96話
かなり、久しぶりの更新になります。
すっごく、お待たせしました(_ _)
とうとう、4月になった。
俺は学園の制服に着替える。まあ、自分でだが。誰の手も借りずに、身の回りの事はしないといけない。まあ、学園までは馬車で行くが。全身鏡を見ながら、ネクタイを結んでいた。
(うーむ、なかなかできないな。やっぱり、リアナに教えてもらえばよかった)
けど、結び方までは分からなかった。仕方ない、ラウルかオズにでも後で訊いてみるか。今は少しの時間も惜しい。朝食は既に済ませた。
下手なりに締めて、自室を出る。廊下には護衛騎士であるジュリアスやクォン、エル、オズがいた。けど、ジュリアスやエルは学園までは同行できない。代わりに、オズとクォンが一緒に来てくれる手はずになっていた。
「殿下、準備はできたようですね」
「ああ、何とかな」
「……殿下、ネクタイが」
「やっぱり、分かったか。ちょっと、上手くできなかったんだ」
「そうでしたか、ちょっと。失礼します」
ジュリアスがすぐ手前まで来る。そして、ネクタイに触れた。手早く解いて、正しい結び方でしてくれる。
「……はい、できましたよ」
「ありがとよ、ジュリ」
「いえ、ネクタイの結び方くらいであれば、何とかできますから。分からないようなら、訊いてください。お教えします」
俺は頷いた。5人で馬車の停車場まで急いだ。
ちなみに、クォンも中等部の制服を着ている。3人で馬車に乗り、ジュリアスやエルは見送ってくれた。
「はあ、野郎ばかりで登校か」
「文句は言うなよ、クォン」
「わーってるよ、言ってみただけだよ」
俺とクォンが適当に言っていたら。オズは居心地悪そうにしている。
「……オズ、んな緊張しなくていいからな。クォンは普段、こんな感じだし」
「そーだよ、オズ君。俺、本来はチャラいってーか。まあ、軽い感じだからさ。早めに慣れてくれたら、いいとは思ってるぜ」
「……はあ、そうなんですか」
オズは何とも言えない表情になった。
「あの、殿下。学園では何とお呼びすればいいんですか?」
「そうだなあ、殿下は付けなくてもいいぞ。普通に呼んでくれ」
「では、エリック様と呼びますね」
「ああ、分かった」
「んじゃ、俺もそう呼ぶかな」
オズとクォンは頷いた。俺もそうしたのだった。
馬車が学園に到着したらしい。停まり、扉が開かれた。
「殿下、着きました」
「分かった、じゃあ。降りるか」
「「はい」」
二人に呼びかける。先にクォンが降り、オズも同じようにした。最後に俺が降りた。
「では、停車場にて待機しています」
「ああ、ご苦労さん」
俺が頷きながら、言ったら。御者のダンは一礼して台に再び、戻る。そのまま、停車場に向かった。
三人で見送ったのだった。
学園の正門から、敷地内に入る。既に大勢の生徒達がいた。俺がクォン達と一緒に入学式の会場に向かっていたら、生徒達がざわりとどよめく。
「ねえ、あの子供達。もしかして……」
「ええ、初等部に入る子達と中等部に編入する子息かしら」
「なあ、真ん中の奴。もしや、第一王子では?」
「え、まさか。あの王太子か?!」
色々と遠巻きに噂をされているが。俺は気にせずに大講堂に向かって歩く。クォンはニヤニヤしているし、オズはかなり、緊張気味だし。内心でため息をつきたくなった。
大講堂にたどり着く。あ、俺ってば。リアもとい、シェリアを忘れてないか?!
迎えにでも行ってやれば、よかった。そう思っていたら、背の高い誰かとやって来る彼女を視界の隅に入れた。
「あれは……」
「……フィーラ公爵令嬢とラルフローレン公爵令息ですね」
「お、本当だ。何というか、どことなく犯罪臭がするな」
最初は俺、二番目がオズ、最後がクォンだ。犯罪臭って、お前な……。
俺はじとりとクォンを睨みつける。
「クォン、口は慎め」
「へーへー、分かりましたよ」
そんな応酬をしていたら、シェリアが俺に気づいたらしい。こちらに視線を向けてくる。俺は小さく手を振った。シェリアも笑顔で振り返してくれる。まあ、以前みたいに駆け寄っては来ないだろう。ちょっと、それが寂しくはあった。
大講堂の席にオズと隣り合って、座った。クォンは中等部なので、後ろのかなり離れた席にいる。心配されたが、オズもなかなかの実力を持つ。いざとなったら、俺自身も戦うつもりだ。そのために短剣や暗器と呼ばれる中でもポピュラーな匕首くらいは護身用に制服の中に忍ばてある。
「……エリック様、そろそろ入学式が始まりますね」
「ああ、確かにな」
「今年から、僕があなたをお守りします。クォンさんもですが」
「そっか、そうだよな。よろしくな、オズワルド」
「はい、よろしくお願いします。エリック様」
オズがはにかむように笑う。さすがに、攻略対象ではあるな。かなり、綺麗な顔立ちだからか、チラチラと女生徒達の視線を感じた。まー、俺もだろうが。
「そういえば、今年の新入生代表の祝辞はフィーラ公爵令嬢がなさるそうですよ」
「え、そうなのか?」
「はい、確か。ジュリ兄上から聞きました」
俺は驚きを隠せない。まさか、ジュリアスが知っていたとは。しばらく、大講堂の演台を見つめたのだった。




