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3.これからのこと

 洞窟を進むと、やがて開けた場所に出た。そこに入ると、壁面に並べられた松明が一斉に灯った。そこは、ドーム状の広い部屋になっていた。直径100メートル程の部屋の反対側には、ここを守るボスモンスターがいた。それは二足歩行で、手には巨大な金棒を持っている。距離があるせいで大きさははっきりしないけど、少なく見積もって体長は4、5メートル。オーガとか、鬼と呼ばれる類いのモンスターだ。


 私が今やるべきことは、このダンジョンの偵察。モンスターの分布や数なんかを記録して、その情報を持ち帰ること。今見るべきは、このモンスターの姿、大きさ、速さ、硬さ。後は、部屋の大きさ、地形……。


 部屋を見渡していると、あるところで目が止まった。地面に敷き詰められている石畳。部屋の真ん中辺りの一枚がずれて、隙間からその奥が覗いている。その周囲にはノイズが立ち込めていて、その隙間が意図的に作られたものではないことが伺える。理由はわからないけど、私には一目で『それ』だと分かった。

 これこそが私が探し求めていたこの世界の歪み。この世界から抜け出す手掛かり。いつ消えるかもわからないそれを見逃す手は無い。ここで必ず現実に戻る方法を見つけてみせる。


 私が歪みへ走り出すと同時に、オーガも私に襲いかかろうと向かってきた。

 体の大きさが違うこともあって、オーガの方が圧倒的に私よりも足が速い。私が歪みにたどり着くより前に、オーガの金棒が私に迫る。私はそれを避けはせず、更に前へと踏み込んだ。

 オーガの股下を滑り抜けて、私は歪みにたどり着いた。歪みに触れると私はそこに吸い込まれていった。引き込んでくれるなら好都合。中身をじっくり見せてもらおう。しかし、肩から後が引っ掛かってなかなか入っていかない。オーガの足音が迫る。ここまで来て引けるわけがない。なんとしても私は現実に帰る。だから早く、早く早く!


 歪みの中は、ただひたすらに、混沌で満たされていた。果てなく広がっているような、目の前で途切れているような、そんな不定形のなかを、私は漂った。


 映像が目に飛び込んできた。制服を着た男の子が学校で授業を受けている。多分これは現実世界の映像だ。その顔には見覚えがあった。……そう、思い出した。彼は以前、こちらの世界にいた。しかし何ヵ月か前に、彼は消えていった。これはいつの映像だろう? 今のものか、過去のものか。今のものだとしたら、ゲームオーバーになった彼は現実に戻れたということなんだろうか。

 画面が切り替わった。今度はスーツを着た女性が、オフィスで仕事をしている。彼女にも見覚えがあった。この人のことも、私は知っている。私がよくパーティーを組んでいるプレイヤーだ。そして、その関係は今も続いていて、彼女は今もこちらの世界にいる。

 とすると、この映像は過去のものだろうか。

 その後も何人かの映像が流れた。

 次の映像が流れ始める。


 そこには、私がいた。私が、家族と食卓を囲んで団欒している。

 なんの変哲も無いけど、1日たりとも同じ日は無い。現実の世界はゆるやかに、でも確実に変化を続けている。簡単に言えば、半年も経てば家も、家族も、『私』も、なにかしら変化しているということ。

 だから分かる。あそこにいる『私』は、私ではない。私がゲームの世界で過ごした間、『私』はそれまでと変わらず、ああして暮らしてきたのだ。


 手を伸ばすと、映像はかき消えた。

 夢から覚めたみたいな気分になった。私には帰るべき現実なんてなかった。私はただ『私』をこちらの世界で複製しただけの存在に過ぎない。現実の世界では『私』が、『私』として生きている。私が現実世界に出ていったところで、戻る体なんて元々存在していないのだった。


 だからなんだ。死んだら終わりだなんて、現実何もと変わらない。たった今から、私にとっての『現実世界』が、このVRMMOの世界になっただけのこと。であれば、私は生きる。


 私は戻ってきた。私が生きるべき世界に。そこにはまだオーガがいた。いくら気持ちで生きると決めていても、実存的な驚異は付きまとってくる。私は剣をとる。戦う、そして生きる。この体で、この世界で。

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