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1. VRMMO世界に関する所感

 ここには実がなく、ただ機能だけがある。言い換えれば、ここの物には使う過程が無い。

 例えばここに『薬草』がある。これを煎じて飲むと新陳代謝が促進されて傷の治りが早まるとか、絞った汁を傷に塗ると消毒されて化膿止めになるとか、そんな使い方はしない。

 ただ『使う』と念じる。そうすると体力が回復する。どのように使われたのかという過程を通り越して、その機能だけが発現する。


 そうして体力の回復した体で私は立ち上がった。

 手を握って開いて、足を曲げ伸ばしして、動きを確認する。この体は神経や筋肉によって動いているものではないので意味がないことはわかっている。でもやってしまうのは、ただのルーティンのようなものだ。


 私の体は、『体』という一つのものであると感じられる。肉の体であれば、指を切り落とせばそれは私の感覚からは外れ、タンパク質とカルシウムと水でできたただのモノになる。つまり、肉体はそれで1つの塊に見えて、その実数多くの部品の集合体であるということだ。

 一方、こちらでは私の体は大分大雑把にできているようだ。私は傷を負うということが無い。腕を切られようが、足を殴られようが、傷は負わない。受けた部位も痛みの種類も関係なく、ただ一律に、体力というパラメータが減少する。

 ただ、これには助けられることも多い。さっきも、足を攻撃されたが万全の状態と変わらずに走って逃げることができた。


 私は松明を『使った』。熱などは無い、ただ光を放つという機能を持つアイテムを手に持った。すると真っ暗だった洞窟が照らされる。どことなく作り物の感がある岩肌に手を沿わせながら、休憩を終えた私は奥を目指して歩き始めた。


 私の今の仕事は、世界の綻びを見つけること。ありていに言えば、バグ探し。

 私を含む多くのプレイヤーが、このVRMMOから脱出しようと試みている。システムに侵入しようとしてはいるものの、今のところ誰も成功してはいない。普通にやっていてはいつまでもうまくいかないと結論付けた私たちは、どこかにとっかかりになるものを探すことにした。無いとは思いながらも、脱出可能な場所自体が用意されているかもしれない。そうでなくても、どこかにバグでも見つかれば、システムに介入する隙を作り出すことができるかもしれない。

 街やその周辺の、比較的安全な場所はくまなく探したものの、なんの手がかりも掴めなかった。そこで私たちは、徐々に遠い場所、危険な場所に足を伸ばすようになった。


 暗闇の中から足音がした。プレイヤーのものではない。こちらを警戒しながらひたひたと歩み寄る、裸足の足音だった。

 私は松明を持っていない左手で剣を構えた。足音は松明の有効範囲にギリギリ入らないところで止まった。視界に入らないようには気をつけるが、足音などの音に関しては全くの無頓着。こんな歪な警戒パターンは、下級のモンスターによくあるものだ。

 更に足音から推察される体格や種族から、そこにいるのはゴブリンだと私は当たりをつけた。であれば、と私は剣を構えたまま相手ににじり寄った。そこにいるのがゴブリンであれば、私に見つかったと気付いてとる行動は慌てて逃げ出すか飛び掛かってくるかの二択。

 飛び掛かってくるゴブリンに対して私は剣術スキルを発動した。使っている私でさえもほとんど目で追えない高速の三連擊。最後の突きで洞窟の壁に激突したゴブリンは、そのまま消えていった。


 この近接攻撃スキルを使ったときの違和感が、私には未だ拭えない。このようなスキルは、武道で言うところの型に当たるものだ。発動することで、特定の動作を行う。私にとって問題なのは、その動作が自動で行われること。私の意図に反して動いている感覚が、どうにも気持ち悪い。この感覚は反射に似ている。膝を叩くと足がビクッとなるみたいなもの、その感覚がより強くなったような感じ。勿論、私がこのスキルを使うと決めて使っているのは確かではある。でも、私の意思でやっているのはそのスキルを使うとコマンドを入力するところまで。ミサイルの発射スイッチを押すことと、それによって引き起こされる結果を結びつけられない人がいても何もおかしいことはないと思う。


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