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ちょっとだけオチのある短編集(ここを押したら短編集一覧に飛びます)

アイ・ワナ

作者: よっきゃ

 ヒュッ!


 ヒュッ!


 ヒュッ!


 避ける!


 避ける!


 避ける!



 突然だが、俺は次々に飛んでくる針を避けている最中だ。


 なぜこんなことになったのか。


 それは忍者屋敷にお邪魔しているからだ。


 なぜ忍者屋敷にお邪魔することになったのか。


 それはこの忍者屋敷に、俺の婚約者が囚われの身となってしまっているからだ。


 なお、勘違いしないでほしい。


 今は20XX年だ。決して忍者が活躍していた黄金時代ではない。


 ただ婚約者の家が忍者屋敷なだけなのだ。


 そして俺は現在、婚約者を救い出すという大事なミッションを行っている。


 だから俺はこうやってお邪魔している訳だ。

 まずは電話越しに婚約者へ話しかける。



「どこだ! どこにいる!」


「ここよ!」


「どこだ!」


「ここよ!」


「だからどこなんだ!」


「にか……うっ……」


「おい! おいっ!」



 だめだ。急に婚約者の声がしなくなった。

 早く何とかしないと。


 俺はとりあえず声がしたと思われる方に駆け出した。

 するとその時!



 パカン!


 足元の床が開いたっ!


 だが俺の反応速度には遠く及ばない!


 ピョン!


 俺は床が開く瞬間に横っ飛び!


 危機を脱した!



「ふう……」



 一息つく。


 しかし、仮に開いた床に落ちていたら大変なことになっていた。


 泥が敷き詰められていたからだ。

 落ちていたら今頃泥まみれだった。

 俺の高級スーツがダメになるところだった。


 だが俺は落ちていない。


 重力なんかに俺の反応速度は負けない!



 ということで、先に進もう。

 と思ったその瞬間!



 パカン!


 次は天井が開いた!


 そして天井からは無数の針が!


 だが俺の反応速度には遠く及ばない!


 ピョピョン!


 二段飛び!


 罠をかわした!



「あぶないあぶない……」



 額の汗を拭う。

 二段飛びでひょいひょいとかわしたとはいえ、一歩間違えたらハリネズミのようになっていた訳だ。

 危険を伴う婚約者の救出。汗だって出る。


 しかし、地味に体力と精神力を削ってくる屋敷だ。なんていやらしいんだ。こんな屋敷を建てた婚約者の父親は相当ひねくれているに違いない。







 二段飛びをしたあとは、しばらく罠は発動しなかった。


 ということで俺は屋敷の二階へと到着した。

 まずは婚約者が無事かどうかの確認だ。

 俺は大声で叫ぶ。



「どこだ! どこにいる!」


「それはこっちのセリフよ! 今どこにいるの!」



 返答があった。どうやら無事のようだ。



「俺はここだ!」


「だからどこよ!」


「二階だ!」


「二階? だめっ! これ以上近づいてこないで!」


「な、なぜだ!」


「罠よ! 爆弾が仕掛けられているの! 近づいたら爆発するかもしれないの!」


「だったらなぜ俺に助けを求めた!」


「そ、それは……。この状況を救ってほしかったから……」



 この状況を救ってほしかったから。

 なんて悲しい答えなんだ。



「待ってろ、今行く」


「だ、だから爆弾が……!」


「死ぬ時は一緒に。前に約束しただろ? もし爆発しても、一緒に死ねば悲しくもならないさ」



 今の俺には何も怖いものはない。

 たとえ罠でも、俺は受け入れる。

 全てを受け入れるんだ。



 こうして決心した俺は、死にものぐるいで罠をかわし続け、一番奥の部屋の前に着いた。

 他の部屋は全て調べている。つまり婚約者の声はこの部屋からしていたということだ。


「入るぞ」


 俺が呟き部屋のドアノブに触れたその時!


「山!」


 男の声が部屋から響いてきた!


 まさか、婚約者は部屋の中で男に囚われているのか?


「川!」


 俺は瞬時に言葉を口走った!

 なぜならこれも罠、いや、合言葉だと思ったから!

 すると次の合言葉が!


「婚約者の名前は!」


「山川愛!」


「愛のことはどう思っている!」


「好きだ!」


「どのくらい好きなのか!」


「猛々しい山のように好きだ!」


「わからん! もっとわかりやすく!」


「清らかな川のように好きだ! 愛してる!」


「わかった! 入れ!」


「はい!」


 ガチャリ!


 ドアを開けた!


 するとそこには……。



「お父様……」


 男、いや、愛の父親がいた。

 なぜ男が愛の父親だとわかったのか。

 それは男の隣に、美しいワンピースに包まれた女性がいたからだ。

 そう、その女性は紛れもなく愛だ。


「マサオ君……。お父さんの怒りが爆発しないでよかったよ」


 潤んだ声で愛が俺に語りかける。


「ああ、本当によかった」


「マサオ君、愛のことをよろしく頼むよ」


 愛の父親もうっすらと涙を浮かべ、俺に話しかける。


 そして俺が愛に近づいたその時だった。



「いつからこの女が愛だと思っていた?」


「え?」



 愛の父親から放たれた背筋の凍るような一言。


 俺は愛をよく見てみた。

 すると、目の前の女は愛ではない。

 愛によく似た双子の恋ちゃんだった。


 最悪だ。

 愛は双子だと知っていたのに。

 最後の最後でベタな罠に引っかかってしまった。


 と、罠に引っかかったことはどうでもいい。それよりも愛だ。



「お父様、愛はどこに……?」


「愛は君をサポートしそうだったんでね。大人しくおねんねしてもらったよ。それよりもマサオ君。君の愛に対する愛情はこんなものだったんだね」



 愛の父親は清らかな川のように静かにつぶやき、そのあと猛々しい山のように怒りをぶちまけた。

 俺はその全てを受け入れた。


 そして次こそは絶対に引っかからないことを心に刻んだ。


 そう、次こそは全ての罠をかいくぐってみせる。

 次こそ、愛を救うんだ。この囚われの屋敷から。結婚相手のこの俺を見定めるために罠に引っ掛け、愛をこの屋敷に縛り付けるひねくれた父親から。


 そして救い出したその後は、罠なんかない俺と愛だけの日常を送るんだ。



「お父様、それで次のご挨拶の日なんですけど……」

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