【side クレシャ・カノンコート。この世界の中で】
(……ああ。最近は夢だとわかる夢をみてしまいます……)
おチビさんのクレシャはまだ7歳。
貴族とは名ばかりの軍人の家系に生まれたクレシャはお勉強が大嫌い。
まだまだ遊びたいのです。
「ねぇ、お母様。なぜお勉強するの?」
クレシャは勉強の意味がそもそもわかりません。
好きな事を話したり思い切り遊び惚けたり。食べたり寝たりした方が楽しいのです。
街で見かける子供たちはいつも楽しそうに遊んだりしています。
泥まみれで働いている子供を見かけることもありますが、たぶん彼らは身分が低いのです。
帝国市民の子供ではないのでしょう。
「勝つために学ぶのだ」
クレシャの父親ならそう答えたでしょう。
でも、クレシャの母親は別な答えを伝えました。
「この世界を知るために、私たちはいつも勉強しているのです」
「この世界?」
「そうよ。可愛いクレシャ」
(私が……まだ人間だったころ……ですねぇ)
「エングラノストを知るため?」
「帝国の事を知ることも大切。さらにこの世界を。そして世界さえも……たぶん小さな島々の一つ」
(このころは……世界が数えきれないほどあるとは思っていませんでした)
「たぶん?」
「賢いわね。そうよ私も知らないの」
(……お母様。いまのクレシャの姿を知らなくて幸いですわ)
「お母様も知らないの?」
「だから私も賢者や魔導士の話を聞いてお勉強しているのよ。私だってお勉強しているんだから!」
「ふーん。じゃ、クレシャもちょっと頑張ろうかな……」
母の話にうつむいて答えたクレシャ。
愛おし気にクレシャの頭をなでながら彼女の母は話つづけた。
「そうそう。クレシャの大好きなプディングバウムだって、誰かがお勉強して発明してくれたのよ」
「あ! 食べたい! プディングバウム食べたい!」
「お勉強が終わったら食べさせてあげる」
「うー。頑張るぞ」
(ああ……人であることを捨て。人並みの幸せは諦めましたが……私も子を得る未来があったのでしょうか……)
夢であれば、多少の懐古は許されよう。
帰らざる幼き日々の欠片を再生してクレシャの意識はしばらく眺めていた。
やがてクレシャはさらに深い眠りに落ちていった。
(この命が燃え尽きるまで。神と帝国と共に……)




